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ズボラめし  作者: 小出 花
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大根の葉っぱとミンチ丼

 高校時代の友人から、久しぶりに電話があった。色々話をしたあと、結婚するんだと言われた。めでたい。式と披露宴は家族だけでこじんまりやるけど、二次会に呼びたいと言われた。おお、めでたい。


 会社のおじさんが大根菜をくれた。家庭菜園で、間引いたやつだという。俺が就職したばかりの頃、ほんとに金銭的に苦しくて、所長がそういう事情を話したせいで、先輩たちがなにくれとなくお裾分けをくれた。今は給料が上がって、妹が独立して、生活が苦しいわけではないのだが、おじさんは今でも家庭菜園で余った野菜をくれる。夏の間はたくさんナスをくれたので、妹に半分分けた。ナスは咲いた花が落ちることなく、次々なるそうで、おじさんはなるのが楽しみで、世話をしてるだけで、食べるのは大して興味がなく、奥さんに、ナスばかり作りすぎと叱られているそうだ。そういえば、妹が就職したときに、日本酒をプレゼントしたら、「お、お…、おう」と照れていた。

 スーパーで葉っぱつきの大根を買った時も葉っぱを利用して作るが、そういうのはちょっと硬い。だからみじん切りに近いくらい細かく刻む。間引いた大根菜は柔らかく、食べやすいから、1センチに刻んで、小さな大根ができ始めているのも、一緒に刻んでしまう。合いびき肉と炒め、粉末だし、味噌で味つけして、ゴマと一緒にごはんにのせた。俺は辛いのが苦手なので、軽く七味を振る程度だが、一味を効かせてもいい。ちょっとくせのある赤みそでも、この場合美味しくなるし、合わせみそでもいい。白みそは上品すぎて今いち合わない。

 夕飯を丼ものにするのは手抜きかもしれないが、一人暮らしなんで、よしとする。


 土曜の夜に、元同僚から報告があった。

『ドッグラン、楽しいわー! ドッグランつきのカフェに行ったんだけどさ、ラブラドールがメチャ可愛くて、人懐っこくて、じゃれついてくるんだよ。で、遊んでたら、他の犬も寄ってきた。何十回もボールを投げてやった。いっぱい犬を撫でた。すげー楽しかった』

「…よかったな」

『え? 楽しかったんだよ? 何かいけないことでも?』

「お前は、婚活に行ったことを忘れてないか?」

『あー! うんうん、忘れてないよ。岩が前回よりしゃべってた。自分のことはあんまりしゃべらないのに、ラブラドールのことはよくしゃべるのな。盲導犬の犬だから、賢いのは当然と思ってたら、子犬の頃は破壊魔だったとか。七歳なんだけど、犬って七歳から老犬なんだって。そういう話はしてたよ。岩のことより、ラブラドールに詳しくなった、俺』

「そうか」

 婚活に行ったやつの話とは思えない。

『え? ダメなのか? だって岩は自分のことをほとんどしゃべらないんだよ。話ふっても、なんだかんだで俺の話にすり替えられる。学生時代は勉強ばっかしてたとか、職場はまだ慣れてなくてわからないとか、そんな程度のことしか、岩については話してもらえなかった。俺に話力があればもっと聞き出せるんだろうけど、そもそも話力があるやつは結婚相談所に頼らないって』

「そりゃそうか。犬といるときだと、もっとしゃべる人ならよかったのにな。ほら、犬の話題で会話が増える夫婦とかいるじゃん」

『前回よりはましだったよ。あと、よく笑ってた。他の犬が寄ってきて、顔を舐められてた。犬好きなんだなーと思った。ドッグランに行くから、楽な格好してたせいか、リラックスしてる気がした。遊園地のときは、無理しておしゃれしてきた感じだったからなあ。ドッグランに行ったのはよかったよ。薦めてくれてサンキュー』

「相手も好感触だった?」

『うん。前回よりは打ち解けてくれたような気がする。LINEで、ラブラドールが喜んでたから、また一緒にドッグランに行ってくれるか、って来てた』

「犬が喜んでたのは、飼い主が喜んでたからだろうな」

『と思いたい』

「次の誘いがすぐに来るだけ、進んだんじゃないか」

『だよな。なんか今回は、あんまり、岩、岩って思わなかった。犬に気がいって、あんまりまじまじ顔を見て話す機会が少なかったからかな』

「お前~、いつまでも女の人に、岩、岩って」

 呆れながら息をつく。

『そうだけどさ、やっぱ岩なんだよお。カフェの客がチラチラ見てたし。普通、他の客なんて見ないだろ』

「失礼なやつだな、って思っとけばいいんだよ」

『うん。岩でも犬にはもててたし』

「きっと優しい人なんだよ」

『うん。優しくないとは思わない。あ、服についた毛を取るブラシを持ってきてて、帰り際に貸してくれた』

 それはすごい。

「気が利く人だな」

『若いのに、気が利きすぎじゃね? やっぱ無理してない?』

「またそれかー! 無理してたら、次の誘いなんかしないだろ」

『そっか。じゃあ、またドッグランに行くわ』

「犬関連のお出かけばっかじゃなくて、普通のデートもしろよ」

『そうだな。居酒屋に誘っても来てくれるかなあ』

「ホッケをすごくきれいに食べそうだな」

『あー、かもかも! 魚をきれいに食べる人っていいよな。誘ってみる』

「個室のあるとこにしろよ。ちょっとおしゃれな感じの」

『やっぱそういうとこじゃないとダメか』

「激安居酒屋に連れていかれるのは、自分を激安だと思われてる、って女の人に受け取られるぞ」

『…お前は本当に女心に詳しいな』

「妹のナース仲間の話を聞かされたら、詳しくもなるんだよ。男を振った理由のあれこれとか」

『うげー、女同士でえげつない話をしてんのかなあ? 女って難しいなあ。まあ、探してみる』

 高校の同級生に続いて、元同僚の結婚も決まるといいなあ。あ、続けざまになるかもしれないから、生活費から、ご祝儀の分をよけておかなきゃ。



「大根の葉っぱとミンチ丼」

 大根の葉っぱ 三分の一本分

 (大根菜の場合、ひとつかみ分でいい)

 合いびきミンチ 100gくらい(肉好きは150gくらい)

 顆粒出汁 耳かき一杯分くらい

 赤味噌または合わせ味噌 コーヒースプーン1杯

 ごはん 小さめの丼一杯

 七味か一味 お好みの量

 ゴマ    お好みの量


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