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ズボラめし  作者: 小出 花
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白菜ときのこの明太子ソース炒め

 読書友達の紹介で、彼女の職場の人と、その人の親戚が子猫を二匹もらう約束になったそうで、後日先輩からお礼の電話がかかってきた。

『いつもすまんな。本当にありがとう。哺乳瓶を卒業する前に、あと一匹も貰い手が見つかるといいが、とにかくあと一匹なら気が楽になったよ』

「いいえ。写真を見せたら、たまたまそういう話になっただけですから」

『やっぱ写真は大事だな。妹さんにもお礼を言っておいてくれ。あ、紹介してくれた人に、お礼がしたいんだけど』

「うーん、何か笑える本を知りませんか? 読書友達なんです」

『笑える本か。俺はあんまり本を読まないからなあ。奥さんに訊いてみよう。そんなんじゃなくて、コーヒーとかは? コーヒーセットがあったぞ』

「コーヒーが好きかは聞いたことがないです。あ、お子さんが小さいから…」

『ジュースセットがいいか? あー、あるある。ビールはすぐなくなったけど、ジュースならある。重いから、こっちが持っていったほうがいいだろ。女の人なら、俺が行くのは嫌がるだろうし、うちの奥さんに届けてもらおうか?』

「訊いてみます」

『あと、子猫をもらってくれる人に、小さい間の写真プリントをあげるつもりなんだけど、俺や奥さんが撮ると、やっぱあんまり可愛くない。妹さんがまた写真を撮りに来てくれないかな。あ、お前もついてきていいぞ』

「俺はおまけですか」

『うん。おまけだから、何もしなくていいぞ。ただの客だから、近くの店から、かつ丼をとってやる。うまい店があってなー。でも、客でも来ないととる機会がない』

 ああ、姑さんに嫌味を言われるんだな。

「かつ丼なら仕方ないです。妹に言っておきます」

『おう』


 彼女にお礼の件を、

『ジュースセットをお渡ししたいそうなのですが、もし旦那さんが嫌がるなら、先輩の奥さんだけで届けてくれると思います』

と、メールしてから、夕飯を作った。

 白菜が安くなってきたので買ってあった。それと、前に妹が冷凍してくれた、きのこミックスを出して、炒める。パスタ用の明太子ソースを絡めて終わり。ペペロンチーノソースでもいける。白菜の代わりにキャベツでもチンゲン菜でもいい。パスタソースは偉大だ。肉とか野菜とかを加熱してかけるだけでおかずになる。パスタだけにかけておくなんてもったいない。ドレッシングでもいける。野菜だけにかけておくなんてもったいない。酢が入っているからホーロー鍋を使う必要があるが。塩昆布はさらに偉大だ。パスタソースやドレッシングより割安だ。



『やっぱり岩だった』

 元同僚からの電話は、低い声だった。いつものように食事しながら聞く。

「あー、そうか…」

『岩がしゃべった。岩が食べた。岩と遊園地に行った』

「遊園地に行ったのか」

『うん。相談所の人が、映画じゃ会話ができないから、遊園地とかどうですかって。いい大人が遊園地かーって思ったけど、ゆるーいジェットコースターとかいいわ。適度に並んで、隣りに座って、顔を見ないで、話はできる』

「なるほど」

『でも俺が一方的に話してる感じだったかな。岩が気を使って譲ってくれてる感じ。岩なのに気づかいができるんだ。気を使いすぎかも。無理してんなーって。あれ、疲れないのかね。なんか気を使われすぎて、こっちが疲れた』

 俺はふき出した。

「なあそれ」

『あ?』

「いや」

『食事も遊園地の中の食堂だったから、大したものじゃなくて、悪いなーと思ったんだけど、岩が割り勘するって言ってびっくりした。遊園地の入場料も自分の分を払ってたし。若い子は割り勘が当たり前ってほんとなんだな』

「へえ」

『年齢差あるんだし、払おうとしたんだけど、断られた。薬剤師っていっても、まだ一年目じゃ、給料が多いわけないだろ。やっぱ無理してるよな?』

「話は合った?」

『うーん。イタリアンは苦手だって言ったら、ああいう店は緊張しますよね、だって。やっぱそういう女もいるんだな。ファミレスとかのほうが気がラクだって。あれ、真に受けていいもの? 何せ気を使ってるのがガンガン伝わってきてるから本音なのか判断つかん。あと、仕事はずっと続けるつもりとか、子供を見て、可愛いとかは言ってた』

「いい子っぽいな」

『無理して気を使ってるだけじゃないといいんだけどな』

 俺は耐えきれずに笑いだした。

「なあ、ほんとに自分で気づいてないか?」

『え? 何?』

「前に断ってきた女の人と、同じことを言ってるぞ、お前」

『え? ……そうかな?』

「うん」

『うーん…。そうか。そうなのかなあ? あ、じゃあ、俺、断ればいいの?』

「なんでだよ。断るかはお前の気持ち次第だろ。嫌な感じだったのか?」

『うーん、岩がなあ。真正面で、顔を合わせて会話してると、あー、岩だ、岩だなあって。横に並んでるときはそれほど。どっちかというと、相手が無理してることのほうが気になったかなあ。帰ってきてから、お礼のLINEが来てたんで、こっちもお礼は返したんだけど、このあとどうしたらいい? それと、二十四歳、薬剤師は、岩でも申し込みはあるだろうから、俺みたいに会ってみる男はいると思う。並行されてるかも』

「あー、並行されてたりするのか。婚活ってそういうものか。何か月もつきあったあとにダメになったら、時間が無駄になるって考えか。まあ、結婚て目的がはっきりしてるからな」

『ちなみに、俺は並行できるほど申し込みがこない』

「生きろ。でも、嫌じゃなかったんなら、また会えば? 向こうは断ってきてないんだろう?」

『今のところはな。会ったその日のうちにLINEブロックまでした、前回の女みたいのはたいがいだよ。まあ、断られなかったらもう一回会ってみる。とりあえず、LINEするわ。岩のアイコンが飼い犬のラブラドールだった。犬、かわええ。そういや、遊園地の隣りにペットショップがあって、寄ったんだけど、子犬見ながら、岩が笑ってたわ。唯一表情があった瞬間かも』

「犬のお散歩デートしろよ。ドッグランとかドッグカフェとかで。犬と一緒だと素の表情が出る人なんだろ」

『お、いいな。そうする』



 皿を洗っていたら、彼女から返信があった。

『大したことはしていないので、お礼なんて結構です。それと、夫はおりません。息子と二人暮らしです』


「白菜ときのこの明太子ソース炒め」

 白菜 四分の一

 きのこミックス カレースプーン3、4杯分

 パスタ用明太子ソース 一人前


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