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遮断機が完全に降り切った頃には永島は何も言わない女を、じっと見つめていた。(キスしたい)永島の悪い癖が出た。つまらないつまらないと思いながらも欲望を持ってしまうのは、どれくらい重い罪か。それとも人間だという証左であるか?(案外細い足をしてるんだな)
「内容ですか…うーん。説明するのは難しいんでけど、貴方は貴方だけの世界を手に入れる事ができる、と言えば解るんじゃないですか?」
「ははぁ…俺だけの世界ねぇ」
少し熱っぽい頭を前後に動かしながら相槌をうった。(???)違う世界の住人とかいう女を多少なりとも信じていたが、永島にとっては初対面の人間と同じであり、少し警戒していた。
「そうです。貴方は今の世界に未練はありますか?」
「ある。だけど死ぬときに何の未練もなしに死ぬのは納得がいかない」
「はぁ、そうですか。けど、やろうと思えば違う世界を見る事も出来るようになるんですよ」
「うん。見たいな」
「なら、お礼をさせて頂けるって事ですよね?」
「ああ、いいと思う。けどそれは絶対成功するものなのか?失敗したときに何か副作用的なものが出たりしないか?」
なぜ違う世界を手に入れる事ができると言うのに、もっとスンナリと受け入れられないか。それが重力か?
「ああ、それは大丈夫ですよ。貴方以外の人間に私は助けられ、その度に、お礼をしているんですから」
「ああ、そうか、なら安心だ」
安心などではない。目の前の女が可愛いから不快にさせまいと男の性が顔を出し、何でもないような顔をする。
「あなたは、これから違う世界を手に入れます。寝て起きた頃には新しい世界があなたを迎え入れるでしょう。」
女は永島の頬にキスをし、瞼に触れた後、不敵に笑った。
「それでは、さようなら」
永島は意識が遠のき、女に抱き抱えられる感触を最後に一時的に世界を失った。