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8月6日の通信者たち

Tutu,Tutu,Tutu,


ツツー、ツツー、ツツー、


幽霊ゴースト: こちら1945年8月6日の広島。友邦国ドイツの通信者よ、応答せよ、応答せよ



999: ダンケ! 滅びた帝国の残党、通信社番号3275m、通信ネームコード999より。新型の爆弾が落ちたと聞いた、そちらはどのような状況か?



幽霊: 一瞬の光が何もかもを焼き尽くした。ビルも家も何もかもが吹き飛び、生き残ったひとびとが大勢、焼け焦げた肌と、溶けて剥がれ落ちそうな皮膚をたらして、水を、水をと言いながら死にかけの行進をしている。



999: そちらの通信環境は無事だったのか?



幽霊: これはおそらく木霊こだまなのだ。英語のエコー。私こと通信社番号2321a、通信ネームコード333は、おそらくあの光の中で死んでいる。吹き飛ばされて激痛を感じたあと、動かなくなった私のからだが、通信装置を抱えるようにして倒れているからだ。どれほどの死者が出たのだろうか。



999: 幽霊ゴーストが通信をしている?



幽霊: そうだ、。どのようにこの光景を伝えたらいい。赤ん坊を抱えて逃げようとした兄がもろともに焼け焦げて死んだ、母が家に押しつぶされて死んでいくのを見た娘、きのうまでいつものように食べていたごはんのお椀のこなごなに割れた断片、何を語ればそちらに伝わる?



トムキャット: ハローハロー。1955年8月6日。こちら通信社番号5763。通信ネームコード「トムキャット」という。1950年代から通信を送る。



999: ダンケ! そちらは未来からの通信というわけだね。



トムキャット: 広島と長崎に落ちた原爆で一瞬に被爆し、死んだ者たちは20万とも伝わっている。ビキニ、という言葉を知っているか? 日本ではセクシーな水着として知られているが、原爆を開発して何度も実験をした場所の名前だ。1950年代は第二次世界大戦を終えても敵がいつ攻めてくるか分からないと、原爆や水爆を作り続けている。第五福竜丸という日本の漁船が被ばくした、現地のひとびともあの地には住めなくなった。こんなものを作り続けて憎しみ合えば、地球のすべての人間がヒバクシャになる日も来てしまうだろう。



ボナペティ:ボナセーラ、1989年8月6日。こちら通信社番号8712。通信ネームコード「ボナペティ」と言います。1980年代から通信を送ります。



999: ダンケ! 「トムキャット」の30年後はどうなっているのか?



ボナペティ: 広島、長崎のあとに落ちた各地の実験用原爆と水爆で、戦争に使われはしなかったものの多くの国のひとびとが人知れず被ばくをしました。しかしこれは極秘情報、がん患者が増えたが、なぜかと首をかしげる時代です。原爆の仕組みを応用した原子力発電所が多く作られましたが、そのなかのひとつ「チェルノブイリ」が事故を起こし、ふたたび放射能が世界を巡りました。



999: ダンケ! それでも戦争で広島、長崎のあとに原爆が使われてはいないのだね。



トムキャット22 ハローハロー。こちら通信社番号5753。****年8月6日。通信ネームコード「トムキャット22」という。1950年よりも未来から、劣化ウラン弾の使われた戦争を伝える。



999: 劣化ウラン弾?



トムキャット22 原爆の悲惨さ、恐ろしさが世界に伝わり、戦争での使用は多くの国から非難される武器となった。そのために、保管していた原爆の材料であるウランを使った新型の爆弾だ。それでもひとは被爆する。ボスニアヘルツェゴビナの紛争、イラクとアメリカの戦争に使用された。



幽霊: 日本が唯一の被爆国ではなくなったのか、あれほど悲惨なことが起きたのに?



トムキャット22 20万人という一瞬の死者を出す、ということが、何十年と経つとその恐ろしさを忘れられてしまうのかもしれない。ビキニといって水着を思う日本人のように。



ボナペティ: 核戦争をすれば世界が滅ぶ。そうメッセージを送り続けても、忘れられるのですか。



トムキャット22 世界に在庫すべての核兵器が使用されるわけではないが、限定なら良いと思われて使われるのを戦略として模索する。このトムキャット22は、そうして使われた22世紀からの通信だ。



幽霊: トムキャット22、使われた22世紀はどうなっている?



トムキャット22: 使用された原爆は、保管されたものからすればごくわずかだった。しかし、そもそも二酸化炭素の排出で痛めつけられていた地球の怒りを、引き起こしてしまったらしい。



ボナペティ: 22世紀のトムキャット22、そちらの光景を伝えてほしい。



トムキャット22: 21世紀に局地的な核戦争があるうちに、突然の熱波と大雨と洪水と嵐と地震とが、地球の全地域を襲った。昔の黙示録からずっとイメージされてきた、大地に命のないむきだしの土。ほとんどのひとびとは死んでいった。このトムキャット22が使うシェルターも、食料と水が尽きれば終わりだ。



ボナペティ22a: ボンジョルノ。2222年8月6日。こちらは21世紀に核戦争が起きなかった世界から、愛をこめて。



トムキャット22: 分岐したひとつの世界からか。



ボナペティ22a: シー: 核戦争が起きるかもしれないという危機感の元に、そして科学的には30年後に温暖化で亡びるかもしれない地球という予測に対し、地球のひとびとが団結をして平和を結んだ、未来から。



トムキャット22: 俺は不毛のこの地のシェルターで死んでいく。滅びなかった地球のことを聞かせてほしい、死にゆく人間への物語を頼む。



ボナペティ22a: 世界で核兵器を保有することが無意味である、と結論の出たあとは、すこしづつ世界が地球とひとびとを傷つける核兵器の削減へと向かいました。100年をかけての核兵器廃絶が成り、世界の対立は解消をされています。緑あふれる大地、多様性を残す海、生きものたちに満ちた、穏やかにひとびとも暮らす地球があります。



999: ダンケ! 1945年8月6日、そのあとに起きていくことを教えてくれてありがとう。願わくば、ボナペティ22aの未来が、遠く僕らの子どもたちに、この地球に継がれて行きますように。



幽霊: ああ、誰もが核兵器に怯えず、原爆と水爆とが地球から廃絶される日を望む。

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