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さようなら、夏
歌わずにはいられない虫の音を聞く
きりっきりっきり
ころころころ
歌い始めは音量も大きく
旋律は単純で
俺の歌を聞けぇ、とばかりに
なんともうるさいだけの音
それが次第に
疲れてきたのか
歌うことに慣れてきたのか
力が抜けると
美しい音色となった
りーろりーろりーろ
きゅりっきっきっ
虫の音が一晩で
成熟してゆく、そのはかなさ
気が付けば
セミは最後のツクツクホーシが
昼に鳴くようになっていて
夏の初めのニイニイゼミも
バトンを渡されたかのように鳴き始めるアブラゼミも
彼らをかき消して大音量で鳴き散らすクマゼミも いない