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リーズ提督8話

 フメレオン陛下に与えられた家で軽く一息をついていた。

 その家は、王城から歩いて10分の位置にあり通勤に便利だった。

 隣近所も軍部関係者である。

 その近隣住居も、ボクが与えられた家と景観は一緒でさながら社宅と言ってもいいのかも知れない。


「リーズ殿、ウェンデスの暮らしには慣れましたか?」


 そうだった。 今は来客中だった。


「そうですね。 慣れたとは言えません。 順応に一苦労しています」


 来客者は車児仙。

 ボクと一緒でウェンデス国外からの仕官者だ。

 年はまだ20代といったところか……。

 黒い髪の黒い瞳。

 ヒゲも生やしておらず、シミやそばかすもなく恐ろしい位、綺麗な顔立ち。

 表情が読みにくい。

 着ている服が、質素。

 サッパリとした顔立ちのためか若く見える傾向がある。

 名前から察するに明らかに東方の出身だ。

 おそらくだが、(まだウェンデス陣営の将校と顔合わせをしていない)あの陛下に初見した時に車児仙がいた位置を思い出してみるかぎり、陛下の側近の位置に座していた。

 そんな男がなんのようだ?


「ですね。 私の時もそうでしたし」


「外国人を雇うなどファラスでは前例がないことだからどういう風にウェンデス人に見られているか心配ですよ」


「ウェンデス人からは支持を得るのは難しいでしょうね。 我々の登用じたい快く思っていない一派もありますから」


ボクの差し出したファラス名産の茶をすすりながら車児仙は淡々と答えた。


「………変わった味のするお茶ですね。 甘いような、苦いような、酸っぱいような」


「七色の味と、通は言いますがね。 ファラス貴族はこれを飲んで遊戯に興じます。 ……あ、おかわりはいりますか?」


「いりません」


「まあ、ボクら外国人を快く思わない一派がいるのは当然でしょう。 どの民族も自分の民族が他民族より優秀と思いたがる傾向はありますから」


 ボク自身、ファラスに他民族が入ったら快く思わないかも知れない。

 そういう自分自身の功績でもないのに優等性なプライドを持つのは人間の性。

 それを理解しておかないと外国で働けない。


「外国人に働く場を提供してくれる陛下には脱帽です」


 車児仙はしみじみとお茶菓子ファラス饅頭を手に取った。


「……………他国の食文化を否定するつもりはありませんのでコメントは差し控えさせていただきます」


「この塩辛さが決めてなんですよ」


「塩の塊をかみ砕いてしまったかんじですよ」


 筆者の母がマレーシア人の知人に実家の庭の夏蜜柑を食べさせ、酸っぱさのあまり顔をしかめさせた時と同じように、ある意味複雑な申し訳なさがリーズの胸に込み上げてきた。


「ところで車児仙殿は、どのように士官されたので?」


「私は、東の国にある円という国で生まれ育ちましたが私の家の頭首が帝の怒りに触れ、一族郎党連座させられ処刑されたのです」


「頭首は何をしでかしたんです?」


「帝の教育係の者の横行を進言したんですよ」


「それだけで一族郎党連座の処刑?」


「今や円という国はその教育係が絶大な権力を持っています。 帝はその教育係の操り人形になっていますからそれを憂いた我が家の頭首が諌言したところ、教育係の耳に入り………」


「諌言だけで死刑?」


「風の噂で聞く限り、死刑を怖れて何も言えないようです」


 ボクが円に士官したら即死刑だな。


「たまたま私は各国を放浪していまして難を逃れたんですよ」


「各国を放浪?」


「私は家督を継ぐ立場ではないため、学者にでもなろうと見聞を広める旅をしていたんです。 一族の末路を風の噂で聞いた時もたまたま国外にいてそのまま帰国命令を無視し、西へ西へ流れたんです」


「先に情報を得ることができたのがせめてもの救いですね」


「ええ、運が良かったんです。 本当に」


「運?」


「旅の途中、一人の大道芸人と会いまして、仲良くなったんです。 その大道芸人の名は、多恵といいました」


「多恵!? ………新白衆の?」


「ええ、その多恵です」


 車児仙は手を叩いた。


「はい、お呼びですか?」


 多恵がどこからともなく現れた。


「あのころは多恵が忍びだと知りもしませんでした。 多恵達の曲芸に興味を持ち、いろいろ話を聞いているうちに仲良くなったんですよ」


「あの頃、私たち新白衆は特定の主君を持たぬ忍びで、いつかお仕えするべき主君のために各地の情報を収集おりましたから」


「それで私は、あの事件を追っ手がかかる前に知る事が出来たのです」


「そうだったんですか」


「やがて、フメレオン陛下の話を聞き、ウェンデスまでやってきたのです」


「前王である父を暗殺して王位に着いたという噂ならボクもファラスで聞きました。 ですがその噂だけでよく陛下に会いに行く気になりましたね。 ボクはその話を聞いた時は不快感を覚えたものですが」


「暗殺する前です、ボクが士官をしたのは。 それに暗殺を進言したのは私です」


「は?」


「あの時、暗殺しなければ逆に陛下が謀殺されていました。王 弟のフメロン殿下を次期王にしたくなった前王は、フメレオン陛下の暗殺を企んでおりました」


「そんな話、初めて聞いた………。 一度は皇太子に任命しているんですよね?」


「どの王家でも抱える闇というのか、前王が溺愛していた側室がいまして、その側室が産んだのが王弟殿下です。 我が子を王位に就かせたいと考えた側室は、前王をたぶらかしたんです。 そしてついに、前王もその気になってしまったのです」


「誰も家臣は諌言しなかったのですか?」


「あの頃の陛下は変わり者だったため、家中でおおいに嫌われておりました。 その点、王弟フメロン殿下は文武に優れ、礼節を重んじ、臣下の支持を集めていました」


「それで一度皇太子に任命した陛下を疎んじたのですか……」


「私は陛下にその旨を伝え、やられる前にやるしかないと伝えたのです」


「ん? 車児仙殿は、まだ当時浪人の身。 陛下は皇太子。 よく会う事が出来ましたね」


「ああ、それは簡単でした。 陛下が私に興味を持てばいい……。 そう仕向けただけです」


「興味?」


「陛下が当時、興味を持っていたのは軍学でした。 そこで私は私の知っている軍学の知識を本にまとめ、陛下に献上したのですよ」


「陛下が興味を持つまでの軍学の本……。 車児仙殿は、それだけの知識を有していたのですか」


「なに……、私の国の軍学です。 私の国は歴史が古く、国が栄えは滅び、栄えは滅びを繰り返しています。 だから常に軍学は必要で、常に発展して行くのです」


「それでもたいしたものだと思います」


「案の定、陛下は私を訪ねて来ました。 そこで陛下が今置かれている状況を私に相談されてきましたので暗殺を薦めたわけです」


「……………よく決心されましたね。 対外的にも、後世にも、それは不孝だと罵られる行いだと思いますが」


「当然、悩まれましたよ。 そこで私がある話をしました」


「ある話?」


「ある男が乗っていた船が沈み、その男が海に投げ出されました。 すると目の前に板があり、男はそれにしがみつきました。 すると、男のしがみついた板にもう一人が手をのばそうとしていました。 これ以上、この板に重さが加えられると、この板は沈んでしまうとわかっています。 男には帰りを待つ人がいて死ぬわけにはいかないのです。 そう思った男は、手をのばしてきた男を払いのけました。 払いのけられた男はそのまま沈んでいきました。」


「……………」


「さて、リーズ殿。 あなたはこの男がとった行動に非難できますか?」


「え……。 いや………」


「男がもし手を払いのけなければ、その板は沈み男も溺れるんです。 それを踏まえて……払いのけた事を非難できますか?」


「………………」


「これの答えは長年、議論されていますが答えはでてません。 倫理感と自分の命を天秤にかけて、どちらが重いと問いかけているものです。 どちらが重いですか?」


「…………」


 どちらが重い?


「手を伸ばした人によりますね。 もし、陛下や部下が伸ばしてきたならば譲ると思います。 ですが、知らぬ者だとはねのけると思います」


「それは海に生きる軍人の考え方ですね。 あなたがた海の軍人は海で死ぬ事を本望としていますから」


「ええ」


「ですが陛下には大望があります。 それを叶える前に果てる事をよしとしません。 陛下の大望は、リーズ殿が士官した場で聞きましたよね?」


 封建社会の廃止と、技能に応じた階級の配布。

 なるほど…。


 そんな事を考えている皇太子は上流階級からしたら変わり者。

 いや、普通に謀殺されるだろう。

 今まで吸っていた甘い汁が吸えなくなるのだから。

 失脚させようと企む者や謀殺してしまおうと企む者もいるだろう。

 いや、今だっているはずだ。


「まだウェンデスは陛下にとって予断の許されぬ状態。 陛下にとって陛下の為に働く人材を多く集めるのが、陛下の急務。 それゆえ、我々外国人も登用なされた。 私やリーズ殿がそれに当たります」


「なるほど、今回の訪問の目的はそれですか」


「ええ、あなたが王弟派に行く事は有り得ませんが、あなたが本当の陛下派になるように私が来た次第です」


「つまり、陛下派の重鎮たる車児仙殿がここにこうして私の前にいるということは、陛下派は苦しい立場にいるということですか?」


「そのとおりですが、私自身あなたに興味がありました」


「興味?」


「あなたは、王弟派を一度大黒星を与えています。 ウェンデスに士官する前……、ファラス水軍中夫として」


「あの旗艦の艦長か……」


「フェン提督は、王弟派の急先鋒です」


「…………………」


「覚悟してください。 外はもとより内も敵だらけということを…」


「わかりました。 我々で陛下を盛りたてましょう」


「今度の評定終了後、私達陛下派を紹介します。 その者達以外のもの以外には気を許さないでいただきたいのです」


「わかりました」

この場を借りて厳しい感想、意見ありがとうございます。感謝です。


今回、意見を参考に車児仙の風貌等も加筆させていただきました。


また、作中にある車児仙の話、どっかで聞いたぞ!と思われた方もいらっしゃると思われますが…。



カルネデアス(だっけ?)の板そのまんま引用いたしました。



若干食い違っているとこがあるかもしれませんがご容赦下さい。



円の国の教育係…。

中国史に詳しい方ならピンときたかもしれませんが、悪名高い秦の宦官趙高がモデルです。


「馬鹿」のエピソードで有名な(笑)



それではまた厳しくても構いませんのでご意見ご感想評価、よろしければお願いします。



長文失礼しました。


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