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リーズ提督44話

  あれから、ナストリーニ国王レオンと、エルゼとその場から離れた。


「リーズ様……」


  多恵が不安そうに聞いてくる。

  聞きたい事はわかっているし、返答に選択の余地もない。

  決まりきった当然の台詞をボクは言った。


「さっきも、レオンに言った通りボクは三君も持つ気はない……。 こうみえて、ボクはフメレオン陛下に感謝しているんだよ」


「しかし、まだ全容を掴んでいないのですがユハリーン王国の軍師をご存知ですか?」


「………いや」


「シュー=オオサカ……、若干15歳でユハリーンの軍部を司る軍師に抜擢されました」


「ほう、思い切った人事だな」


「カルザール王国に現在仕えているナオト=ヒイラギと共に、対ヴィンセント同盟としてユハリーン、カルザール、マウンテーヤ、オオエドの4か国の同盟を成功させています」


「………なるほど」


「あまり驚かないですね?」


「合点が言っただけさ……。 ヴィンセント帝国が、ウェンデスと不可侵同盟を締結した理由がね……」


「その軍師なんですが、ウェンデスに厄介な策を張ろうとしております」


「………ウェンデス王家に対して外国人排斥運動を持ち掛けているやつか?」


「御意」


「確かに今、フメレオン陛下の側近は殆どが外国人だな……。 王家どころか、貴族も快く思っていないだろう……」


  陛下は、外国人の排斥には賛同しないだろう。

  だが、議会は黙っていない。

  武力蜂起は王弟派の失敗により、起きる可能性はなくなった。

  だが、次は理論武装による外国人排斥運動が始まる。

  遺憾だが、こればかりは陛下の政務能力に期待するしかない……。

  ボクも排斥対象の外国人であり、ボクがこの件で公に動くのは、排斥熱を加速させるだけだからだ……。

  だからと言って何もしないわけでもないがな……。


「しばらくその件は静観だ……。 それに陛下お抱えの諜報部もバカではない……。 きちんと仕事していればネズミに気付くさ」


  しかし、多恵の表情は晴れず、静かに首を横に振った。


「あまりにも狡猾すぎて、彼らでは尻尾を掴む事はできないでしょう……。 私達新白衆ですら、この情報を得るのに二人犠牲になりました」


「!」


  新白衆の情報収集能力の高さと隠密精度は、ボクが身を持って知っている。

  その精度を持ってしても二人も犠牲者が……。


「すまん……。 色々考えが甘かったようだな。 とりあえずこの件に関しての新白衆の行動は終了だ」


「いいえ、その主命は辞退させていただきます」


  多恵はキッパリと言い切った。


「は?」


  ボクは多恵からの予想外の返答に困惑してしまい、つい間抜けな受け答えをしてしまった。

  しかし、これ以上死んで欲しくない。


「お言葉ですが、リーズ様が戦場で命を賭けるのと同等に私たち忍びも情報収集に命を賭けています。 仮にリーズ様は、同情で陛下より中断と下知が下り任務を放棄することができますか?」


「む……」


「出来るなんて言わないですよね。 リーズ様の性格からして」


  参った……。

  多恵の言う通りだ……。

  ボクは、危うく忍びの誇りを傷付けるところだった。


「前言撤回だ……。 だが、無茶はするなよ」


「そちらに関しては、承服します」


  そして多恵はニコニコと笑顔になって


「私達新白衆は良い主に恵まれました。 だから私たちは命を賭ける事が出来るんです」


  そう言った。


「もうひとつ、早急に調べて欲しいことがある」


「はい?」


「ナストリーニ軍の同行だ」


「承服しました。 行軍日程ならすぐにでも調べる事ができます」


「後……、奴らが我々ウェンデスに対して、なんという大義名分を掲げるかも頼む」


「と……、いいますと?」


  若干疑問に思っている多恵にボクは付け加えるように言った。


「一応、ファラスにいたころからボクはナストリーニを注視していたからね……、どんな国風なのか、自ずと見えてくるものなのさ……」


  ナストリーニはボクの知る限りでは大義名分を最も重んじる。

  何故なら彼らは侵略という言葉を極端に嫌うからだ。

  やっている事は侵略でも、それは侵略と対外的に見られてしまうのは避けるはずである。

  今までナストリーニがウェンデスやファラスを攻撃しなかった理由は、大義名分が弱すぎる事にある。

  現在、ユハリーンとナストリーニが同盟を密に締結している事までは知っているが、これはまだ公にされていない。

  ボクの推測に過ぎないが、現在のユハリーン王の過去にやや問題があるからだろう。

  彼は、元々海賊上がりの王なのだ。

  それが義や忠節を重んじる騎士の国が結び付く事を国民が果たしていい目でみるだろうか。

  湾岸都市を持つ国は共通の悩みがある。

  ……海賊の襲撃。

  大なり小なり海賊はどの海域にもいる。

  場合によっては一国の海軍を圧倒する兵力を持っている連中もいるのだ。

  それに、ユハリーンに仕える武将の大半が元海賊。

  その中には、かつてナストリーニ海域を荒らし回っていた海賊もいるのである。

  制海権の大半は既に大半が海賊が握っている。

  海賊に襲われないために、船ごとに通行料を払う商人もいる。  商船は大事な積み荷を奪われないために……。

  客船は客の安全を守るために……。

  当然、払えない者は襲撃対象。

  それによる怨恨は、切っても切れない。

  恥ずかしい話、制海権は海軍では、海軍砦近辺まで程度しかなく、遠洋や、地方は海賊天下。

  ユハリーンの王が義賊だとしてもやっていることは略奪行為に分類し、そこらにいる海賊と同一視する人も多いだろう。

  多いでは済まされない……。

  大半が同様の見解を持っていると言って過言ではない。

  そんな国と軍事同盟を結んだ事を鑑みると、国民は黙っていないはずである。

  ボク自身はユハリーン王に不信感はない。

  シュネイデ海戦でも、彼らは海の者として立派に戦ったし、本来ボク個人は敵対したくない国なのだ。

  妹が嫁いでる国だしね。

  ……でも、それは私情。

 国が敵対した以上、敵として見なさなければならない。


  話を元に戻すと、ナストリーニは、大義名分を第一と考える風習がある。

  対外的にも、自国の国民に対しても攻撃できる真っ当な理由。

  1番手っ取り早いのは、シルラビア王国と同じく、援軍の要請である。

  しかし、現在は援軍を呼ばれる前に制圧している。

  その辺は車児仙も認識しているため、徹底した包囲作戦を敢行している。

  そのため、援軍を呼ばれる隙を作らずにナストリーニは動けずにいるのだ。

  そのため今の所、ウェンデスを攻撃できる大義名分がない。

  しかしだ……。

  レオンははっきりとウェンデスを悪と断言した。

  何か別の大義名分を既に掲げている可能性がある。

  近いうちに戦端は開かれるであろう。

  開かれた際、向こうに堂々と大義名分を語られたらこちらの士気が下落する。

  今のうちに反論材料をかき集める必要があるのだ。


  ……と、多恵に語った。


「なるほど……」


「それにウェンデスは多少強引な所もある。 生半可な事では反論の余地がないからな……」

「それならおそらくですが、大義名分にされそうな事がウェンデスにはあります」


「?」


「ゼロ将軍、覚えていらっしゃいますか?」


「ああ、面識はほとんどないがな……。 彼がどうした?」


「彼はホムンクルスです」


「ほむん……なに?」


  聞き慣れない単語。

  ボクはさらに説明を求めた。


「分かりやすく言うなら人工生命です」


  人工生命?


「錬金術師の世迷い言のやつか?」


「錬金術では提唱こそ出来ても理論では不可能と烙印を押されています……。 しかし、ウェンデスの科学省は科学の力で成し遂げたのです」


「すごいな、この国の科学は……。 海軍の戦艦といい、機械歩兵団といい」


「感心している場合じゃないですよ……。 これが大義名分にされる事なのですから」


「?」


「問題は生まれる過程にあります」


「生まれる過程?」


「ゼロ将軍一人が生まれる為に248人が犠牲になっているんです」


「?」


  よく意味が分からない……。

  多恵は何を言っているのだろうか?


「越権行為とは思いましたが、科学省を調べました……。 そして、科学省の機密とされる書類を複写したものがこれです」


  多恵は、一冊といっていいくらいの紙束をボクに手渡して来た。

  ボクは何気なくパラパラと紙束をめくる。

  そこには度重なる人体実験と、それを成功させるまでに犠牲となった個体(人の事を個体と示している)の顛末が克明に記されていた。


「……これは」


「人工生命の製造は、神をも恐れぬ行為です……。 それもそのはずです……。 無神論者でもないかぎり、生物の創世主は神であり、人が行う事を禁忌としたものです」


  ボク自身が、無神論者であるため、生命の創造という事に関して特に嫌悪を抱かなかった。

  純粋に科学に感嘆したのみだった。

  失念していたがこの行為はほとんどの宗教関係者を敵に回す行為である。

  信者を大量に抱える宗派を敵に回す事はその国の存亡に拘わる行為であると、過去の歴史からも明らかである。

  そしてなにより……。


「やり方がマズイ……」


  無神論ですら嫌悪感を抱かずにいられない人体実験。

  もはやチェックメイトだ。


  ふと気付く。


「多恵……。 これがナストリーニに察知される可能性は?」


「十分に……」


「やってしまった……。 だがもうやっていないは通じないぞ……。 陛下は知っている事なのか?」


「知っているわけがないです。 この資料を閲覧出来るのはスポンサーではなく、関係者のみが出来るものですから」


「取り急ぎ、これを陛下に……」


  そう思ったが一瞬躊躇した。

  この情報を陛下にもたらした際、ボクがもたらしたとイコールで、新白衆が調べあげた事が公になる。

  そうなった際、新白衆が危ない。

  人を人と思わぬ科学省だ。

  新白衆に何らかの報復行為を容易に想像できた。

  ボクでは守りきる自信がない。

  ボクが新白衆を抱えているのはもはや周知すぎる。


「どうしましたか?」


「うん、これをボクが上秦するのはやめておこう……」


「な、何故です?」


「………」

  自分らに構うな……と、多恵なら言うだろう。

  だが、相手が悪すぎる。

  こんな事は言いたくないが、こうでも言わない限り多恵は納得しないだろう。


「ボクとお前ら新白衆が科学省に狙われるからだ」


  ボク一人なら、なんとかなるだろう。

  だがそれは新白衆を切り捨てる行為。

  そんな下策を実行できるほどボクは腐っていないし、腐りたくもない。

  だから敢えて

「ボク」の単語を付与した。

  ボク個人な敗北宣言もいいところだが、ボクのプライドなんかこの際ドブにでも捨てる。

「ですか……。 でも放置するのですか?」


「いや……」


  ウェンデスの臣下として、それも許容できる事ではない。

  ナストリーニに大義名分を与えてしまう時が速まってしまう恐れがあるが、この際仕方ない。

  出来るかぎり内密裏に進める事を心掛けよう……。

 この暗部を、表沙汰に今は出来ない……。

  かといって、陛下の預かり知らぬ所で国という隠れみのを着て背信行為を行うゲスな科学者たちを放置するわけにもいかない。

  そうなると、ボクの浅はかな策では一つしか思い浮かばなかった。

  下策だが、他に手段を思い付かないし、なにより時間が限られている。


「陛下お抱えの諜報部にこの資料を流せ……」


  ボクや、新白衆の名が付かないように……。


  軽く自己嫌悪する。

  連中の矛先をボクらではなく諜報部に向けさせるだけだ。

  だが仮にも諜報部は国営だ。

  陛下という巨大な後ろ盾があるのだ。

  ボク個人より強大な後ろ盾……。

  汚い策だが、現実的な策だ。


「……承服しました。 内容が内容ですので近日中には陛下の耳に入るかと思われます」


  問題は、科学者たちはこぞって外国人ということだ。

  外国人排斥の火種に薪をくべてしまう行為にもなる。


「……陛下の裁量次第だな。 ボクには陛下を信じるしか手はない」



  さてさて困った事にホムンクルスのことをよく調べもせずに出しちゃいました。

  まあ、独自の世界感ということで、見逃してくれると有り難いのですが。

  有史に登場する錬金術と今作に登場する錬金術はそもそも違った学問であることをご理解頂ければ幸いでございます。

  ただ名前が一緒な異なる学問ということには……ならないよね(^-^;

  できればその辺はスルーしていただけると嬉しいです

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