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41話 回想錯綜する想い

「くそっ……」


 リーズは誰にも聞こえぬよう、人のいない場所で呟いた。

 うまくいかない……。

 リーズの父に勝つ為の切り札が見つからないのだ。

 今、手元にあるカードはたかが知れているし、このカードでのコンボなど対した効果はない。


「焦るな……。 機を計れ……」


 自分で自分に言い聞かす。

 向こうにこちらの弱みであるカードであるエルゼを握られている以上、迂闊なカードを切るのは自滅に繋がる。

 色々模索した。


 まずはエルゼの奪還……。

 これが一番最初に引き寄せたカード。

 しかし、奪還は成功したとしてその後の問題が処理出来ない。

 逃げても追い掛けてくる。

 隠れても見つけられる。

 それをやってのける手段を持つ者に対し、このカードは死に札だ。

 それだけ強大なエンセンツ商会に太刀打ちできるカード……。


 次に考えついたカード……。

 内毒……。

 エンセンツ商会内部に亀裂を走らせ混乱のさなかにエルゼを奪還する。

 言うは易し……。

 この手札ほど、危険極まりなく失敗は目に見えている。

 時間が掛かりすぎること。

 絶対に信用できる毒……、すなわち人の調達が現在のリーズには不可能だった。

 金に転ぶ奴は多くいる。

 だが、金で釣った人材は金によって裏切られる。

 リーズは父親とは無縁の金調達のルートを持っている。

 そこでの金をかき集めた所でエンセンツ商会の資産の20分の1も満たない。

 かと言ってリーズには、信用でき、その者からリーズにたどり着かない人物など思い付かなかった。


 内伏……。

 こちらが弱みを掴まれているなら向こうの弱みを掴めば良い……。

 一見、有効な手だてと思ったが、やはり死に札だった。

 そもそもあの父が大事にしているものってなんだ?

 あの愚兄……。

 いや、あれが現在優遇されているのはあの父に取ってメリットがあるだけで、父の弱みとなるなら切り捨てる。

 そんな存在でしかない。

 ならば父の顧客……。

 商売人である以上、自分に利潤をもたらす者は大事であるはず……。

 だが、顧客を引き込むには顧客に取って現状以上の利が必要であり、それと等価、それ以上の利をリーズから発生させるのは前述で上げたとおり不可能である。


「今は、従順しかない……」


 それがリーズの結論。

 このカードは勝つ為の布石だ。

 機が熟すまで、何枚でも切り続ける。

 やがて、リーズの年齢がファラス軍の規定年齢に達した。


 ここで切るカードも従順。


「水軍?」


「ああ」


「まあ、いいが……」


「意外だな、あっさりと承諾するとは……」


「お前が騎士団に入ろうが、水軍に入ろうが国家貢献度に差はない……」


「それでエルゼは?」


「あの娘と今会う事によるデメリットくらい、想像できるだろう?」


「デメリット……。 すなわちボクのか……」


「そのボクという一人称、直したほうがいい」


「……………」


 やがて、ファラス軍に入る日がやってきた。


 同期と思われる貴族のボンボンらとファラス王城広場に整列する。


 騎士団、魔法軍、水軍3軍合同の入隊式。

 出世と縁無き、人生の牢獄。

 ここで生涯朽ちるのみ。

 ファラス国民に見守られながら、入隊式というセレモニーはつつがなく終わろうとしていた。

 あれからリーズはエルゼと会う事すら出来なかった。

 リーズの父も巧妙なもので、エルゼの所在をリーズが捜す事が出来なかったのである。


 一方そのころ、エルゼは……。

 入隊式を見ていた。


(ごめんね……、 リーズ)


 入隊式を見守る観衆の中でエルゼはそっと呟いていた。

 リーズの父親の狡猾な嘘に気付いたのは、リーズの父に連れられてしばらくしてから……。


 リーズの父は表面上は良い人そのものだった。

 だが、エルゼもバカではない。

 やがて周囲の同情の篭った眼差しで、自分が置かれている立場が見えてきたのである。

 騙された……。

 と、喚くにはその根拠が不足していたし、なによりまだ一縷の望みがエルゼにあったのだ。

 

 金のかかった入隊式。

 ファラスの民衆はそれぞれファラス国旗を振り、紙吹雪を舞わせる。

 自分らの新たな剣の誕生を祝福しているさなか、エルゼはそっとその場を離れたのであった。

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