表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/49

リーズ提督4話

 王都への航海はいつもの同じ景色でも、いつもと同じ波でも……。

 今日の航海は何かちがった。

 部下たちの悲壮な顔だ。

 戦友を見捨て、敗走しているから…。

 バセ副提督はカネル水砦の守りをしていた。

 あの空を焦がす炎だ。

 バセ副提督の性格は知っている。


 逃げるくらいなら、砦を枕にして死ぬ男だということを…。

 だからアロー提督は自分の片腕とした。


「副長……。 王都まであとどれくらいかかる?」


「夜明けまでには……」


「この変事に騎士どもはどう対処するかな」


「……さて。 とりあえずはこの艦の現状を非難するでしょうね」


「カネル水砦を捨てた事についても……、言ってくるだろうな」


「カネル水砦の件は、この艦の戦闘力に置いて、救援に駆け付けても犬死にという判断のために断腸の想いで断念したのは皆わかっています。 ですが騎士どもは責任の追求をしてくるでしょう」


 30門装備していた大砲は一門もなく、武具なにひとつない。

 闘艦とはいえぬ船であった。

 ……さて、どうしたものか。

 実際に王都まで行き、再装備して再び戦場にいったところで……、この船はいとも簡単に沈没するだろう。

 あんな化け物艦隊相手では全水軍艦隊を集結したところで圧倒的物量、科学力で蹂躙されるのが目に見えている。


「考えれば考えるだけ、無駄なあがきだということを思い知らされるな」


「いっそのこと、敵に降りますか?」


「はっはっはっは。それもいいな」


 降った所で打ち首は免れまい。

 母国では売国奴と罵りられ、敵国では保身を図った臆病者、偽りの降伏の間者スパイ


「まあ、王都につくまでに策を考えておこう。」



「な、なんだ。 ありゃ」


「水軍の艦だが、大砲がないぞ」


 王都の港に着いたボクらを迎えたのは、ファラス水軍にあるまじき逃げるため軽量化した闘艦に対する市民たちの非難の目であった。


「さて、我が主君に報告と今後の対応を相談してくる」


「私も着いていきます」


「やめとけ、やめとけ。 ボクらはどの道……敗軍の将。 恥をかくのはボクだけでいいよ」


「だからこそです」


「物好きだな。 いいよ、ついてきな」


 ボクと副長は港に降り立った。


「リーズ水軍中夫だぜ」


「確かカネル水砦で国境警備をしているはずじゃなかったか?」


「ペイマの演習には参加してないはずだが」


「何しに王都に来たんだ? 次の評定までかなり日数があるはずだが?」


 ザワザワと、市民たちがボクらを好奇の目で見る。


 ボクらは馬車を拾い、王城に向かった。


「リーズ!」


 ボクを呼び止めたのは王都防衛の任に就くナハルト水軍大夫であった。


「何しに王都に参った?」


「ウェンデスがカネル水砦を攻撃しました」


「なんだと!?」


 ナハルト水軍大夫はマジマジとボクを見つめる。


「バゼ副提督は?」


「………………」


「副提督はどうした?」


「不明です」


「不明?」


「我々は海賊討伐の任についておりました。しかし、任務達成不能のため帰還中に、カネル水砦の炎上を確認。 その旨を伝えるため、我が主君に報告するべく王都に参りました」


「見捨てたのか、お前らは?」


「………」


「それに今なんだ…。 海賊討伐が任務達成不能だと…?」


「海賊はウェンデス水軍でありました。 それはボクが確認しております。 我々は見事に敵の分断作戦に嵌まったのです」


「………えらいことだ。 完全に水軍の失態ではないか…。 騎士団や魔法軍が我々の責任を追及してくるぞ」



「それでは我が主君に報告してきます」


 うろたえているナハルト水軍大夫を尻目に登城した。


「我が主君。 リーズ水軍中夫であります」



「エクセル水軍小夫であります」


 ボクの言上に副長は続いた。

 我が主君、ガチスは突然の訪問に不機嫌をあらわにしている。


「中夫。 何の用であるか?」


「はっ…。 カネル水砦において、ウェンデス水軍の攻撃により陥落したものと思われます」


「な、何だと!!」


「完全な侵略行為ではないか!」


 文官たちが騒ぎだす。


「演習が完全に裏目にでたか」


 ザワザワ


 我が主君は茫然としていた。


「我が主君。 演習を中止し急ぎ緊急評議を!」


「い、言われなくともわかっておる。 これ、誰か早馬を飛ばせ」


………。


「我が主君」


「なんじゃ」


「演習中の騎士団たちより先にウェンデスが押しかけてくる可能性があります。 それに備える必要があると思うのですが」


「具体的にはどうする?」


「あれだけの艦隊、正面から戦っては勝ち目はまずありません。 ですので火を持って撃退するべきたと思います」


「火? 敵の船に火をつけるのか?」


「はい、火薬を仕込んだ船を用意し、火をかけて敵艦に体当たりをするのです。」


「体当たり?」


「この船には操舵士が突っ込む前に火をつけ脱出します。 この作戦は火薬、油なんでも構いません。 敵方ほどの大軍を我が方が破る策は他に思いつきません」


「しかしそれは卑怯ではないか?」


「………は?」


「向こうは卑劣にも何の通知もなしに攻め込んできた蛮族。 そんな連中に策を持ってあたるなどファラスの名誉に傷をつけることとなるであろう」


「我が主君。 敵は強大ですぞ。 名誉にこだわって正々堂々と戦おうとしても敵に蹂躙されるだけ」


「おもしろうない!」


我が主君は珠をボクに投げ付けた。


「………え?」


「我が軍団は偉大にして最強の精鋭である。 お前は一敗地まみれた敗軍の将であるから弱気な発言を繰り返すのである! そんな魂胆では士気にかかわる」


「で、ですが」


「くどい! 下がれ!」


 ボクはなす術もなくすごすごと立ち去った。


「リーズ」


 ナハルト水軍大夫が声をかけてきた。


「自分の艦で謹慎しておれと我が主君が申された。 弱虫はいらんとさ。 この水軍の恥知らずが」


 そう言ってナハルト水軍大夫は去って行った。


 ボクは壁を叩く。


「くそ!」


「……艦長」


「臆病だから策を進言したのではない。 策を用いても勝てるかどうかわからないからこそ進言したんだ」


「王都のものは戦場も遠くいまいち敵の強大さがわかっていませんね」


「このまま故国がなす術もなく滅びる様をただ見ているしかないのか……」


「謹慎を命じられたのは艦長だけです。 私は命じられていません」


「え?」


「私が我が主君や他の連中に気付かれぬよう火計の準備を行います」


「副長。 そんなことをしたら君が命令違反で罰せられるぞ」


「かといって、負け戦の準備をする気は毛頭ありません。 勝たなきゃファラスは終わりです。 なら勝って喜んで罰を受けましょう」


「副長……」


「我らの艦の他にも艦を集めなければなりませんね。 盛大に燃やすための船と火薬が」


「漁船に枯れ草を積み、火薬を仕込む。 また、船端に銛をつけるんだ」


「銛……。 なるほど」


「頼むぞ」


「できるかぎりやってみせます」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ