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エルゼ回想39話

 悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴……。


 町に火がつく。


 燃える、燃える、燃える、燃える……。


 町がさっきまで、ほんのついさっきまで平和だった町が野盗の襲来により阿鼻叫喚に変わる。

 町の守備軍がでてくるが、時は遅く火の手が広がっていく。


「ただの野盗がここまでするとか、変だな」


 リーズは表情こそ代えなかったが、何か訝しげな顔をしていた。

 略奪し、火を付ける。

 明らかに中央……、 すなわちファラス国家への挑戦状だ。

 この町は仮にもファラス王領(ファラス国王直領、 すなわちファラス王家が直接治める地区)。

 貴族が治める地方領主の地ではないのだ。


「反乱……くさいな」


「反乱!? だれが……」


「さあ……」


 リーズは物陰にエルゼを連れて隠れていた。

 町を出るためにはどうしても門を通らなければならない。

 しかしその門にはたくさんの野盗の見張りがいて封鎖している。

 先程から我先に逃げようとする人たちを無慈悲にも切り捨てていた。

 ならば物陰に隠れているしかない。

 やがて火の手は広がっていった。


「あの方向は……」


「え?」


 エルゼが見た方向は火の海だった。

 そこにはエルゼの家があるのだ。

 エルゼは立ち上がろうとする。

 しかし、リーズはエルゼの腕を引っ張る。


「離して……、離してよ!」


「……………」


「ねえ、お願いだから離して……。 行かして……、 行かしてよ!」


 それでもリーズは無言のまま、手を離さなかった。

 ふとエルゼは気付く。

 リーズは唇を噛み締めて血がでていることを……。

 悔しいのだ……。

 無力な自分が……。

 何も出来ない無力な自分を責めながら、エルゼだけでも助けたい。

 そのリーズの想いが、エルゼに伝わる。

 やがて野盗は去っていったようだった。

 リーズは無言でその辺りの壁を殴り付けていた。


「リーズ、やめなって!」


「何が剣だ……、 何が軍学だ……。 ボクに、 ボクに何が出来る……。 こんな時の為の剣じゃないか……。 軍学じゃないか……。 ボクはただやられるのを見ているしかないじゃないか……」


 初めて、リーズの顔が崩れていた。


「………………」


「エルゼちゃん!」


 声をかけられる。

 家の隣にすむおばさんだった。


「あんた、無事だったんだね……」


「え?」


 おばさんはエルゼを抱きしめる。

 嫌な予感がする……。


「気をしっかり持つんだよ……」


 何言っているの?

 ねえ、おばさん……。

 何を言っているの?


「お父さんと……お母さん……は?」


「…………………」


 おばさんは何も答えなかった。

 フラフラっと、エルゼは家に向かう。

 近所は、半焼や全焼しており、いまだブスブスと煙が立ち上がっていた。

 エルゼの家は、半焼だった。


 といっても、辛うじて家の形が残っているだけであった。

 エルゼは馴染みの玄関からゆっくりと家の中に入っていく。

 エルゼが生まれ育った家が、火に荒らされて見るかげもなかった。

 ふと台所に何かある。

 人の足みたいなものが横たわっているのだ。


 見に行かないほうがいい……。

 エルゼの心の中で、警鐘が鳴り響く。

 見に行くと後悔する。

 だがエルゼは、ゆっくりと台所に近づいていった。

 そして、その何かの正体を知る。


「お母さん!!」


 そこには無惨な姿で殺されている母親が横たわっていたのだった。

 火ではない。

 母親を殺したのは火ではない。

 そう、理解できたのは母親の胸に剣が突き刺さっていたからである。


「いや……、いや……」


 ふと、奥の部屋にも何か違和感を感じるのだった。


 考えたくない、考えたくない、考えたくない……。


 エルゼはゆっくり奥の部屋に歩いていく。

 何かが立っていた。

 その何かは、剣を握ったまま佇んでいた。

 こういうのを弁慶の仁王立ちというのか……。

 その何かは、立ったまま沢山の矢を全身に受け、事切れていた。

 この何かに向かってエルゼは叫ぶ。


「お父さん!!」


 お父さんの部屋だったその場所は、徹底的に荒らされていた。

 野盗にめぼしいものは持ち出されていた。

 エルゼはそのままペタンと床に腰を落とす。

 俯いたまま、動かなかった。


「エルゼ……」


 後からやってきたリーズはエルゼに声をかける。

 エルゼはゆっくりとリーズを見る。

 リーズはなんと声をかけていいのかわからなかった。


「リーズ……」


「…………」


「私、帰るとこ、無くなっちゃった……」


「……………」


「私、何も無くなっちゃったよ……」


 うわごとのようにつぶやきながら明らかに無理している笑顔でそうリーズに言った。

 リーズは思わず抱きしめる。


「こんな時に言うのは不謹慎だというのは分かってる……。 でも、言うよ……。 二人で生きていこう?」


 エルゼはボロボロと涙を流した。





 それから二人町から離れ、小さな村で暮らし始めた。

 その村は猟で糧を得ておりリーズもその村の猟を営み、質素ながら慎ましい生活を営んでいた。

 エルゼも家事に追われる日々。

 それでも二人は幸せだった。

 だがそんなささやかな幸せも突然壊れる。

 リーズがいつものように朝早く猟にでかけていったある日、二人の家に来訪者が来る。


「ごめんよ」


「あ、 はい?」


「ああ、 私はこういうものでね……」


 男はエルゼに紙切れを渡す。

 今でいう名刺みたいなものだった。


「?」


 だが、エルゼは文字が読めなかった。

 補足までにファラスでは文字を使うのは上流階級くらいなもので、(一応リーズは上流階級)エルゼら中流階級の娘は文字など習う術もないのが現状であった。


「ああ、こりゃ失礼……。 私はリーズの父ですわ」


「……え?」


「この度はお父上、お母上のこと深く同情いたします」


 リーズの父は丁寧にお辞儀をした。


「あの事件は私の店もゴタゴタしましてね……。 まあ、そんな話はどうでもいいですな。 エルゼさんっとかいいましたね……。 なんでもうちの不肖な息子のお嫁さんだとか……」


「え……、 あ……、 はあ………」


「いやはやいやはや……、 なんでこんなめでたいことをあのバカは言わないんだか……。 いや、父として息子が身を固めてくれるのは嬉しい限りですよって」


 リーズの父親はニコニコと語った。


「えっと、エルゼさん……。 エルゼさんは読み書き出来ますかな?」


「え……、 いえ」


 エルゼは首を振った。


「ウ〜ム……、 それは困りましたな。 あれは一応ファラスの軍に入る身でしてね。 そこには軍人の妻の会っていう銃後の守りを固めるいわば婦人会っていうのがありましてね……。 そこで読み書きは必須となるわけですな」

 

 リーズの父親は煙草に火を付けた。


「つまりですな、 エルゼさんの読み書きができないということはひいてはリーズの評判に繋がるわけですよ。 リーズのために文字を覚えてくださらないですか?」


「お、覚えると言ったって……」


「大丈夫です。 その辺りの手配は私がしますよって」


 リーズの為……。

 そう言われてエルゼは考え込む。

 リーズの為ならなんだってやる。

 エルゼはそう思った。


「よろしく……お願いします」


「そうですか、そうですか……。 いやはやありがたい、ありがたい。 リーズも果報者ですな。 こんないい嫁をもらって」


 リーズの父親はさらに続ける。


「善は急げといいます。 外に馬を待たせていますので」


「い、今すぐですか?」


「確かに急すぎるのはわかります。 ですがあいつが軍に入る日も近い……。 もう時間が無いのを察して戴きたい」


「はあ……」


「それでは、すぐにいきましょう。 リーズには私から話しておきますので」


「わ、わかりました……、お願いします」


 こうしてエルゼはリーズの為に文字を習う為、馬に乗っていった……。


ふぃ〜……。

一ヶ月ブランク空けておいて翌日更新とか、不定期気まぐれ更新と罵られても仕方ないですね(笑)


やっと回想編、終わりが見えてきました。

長かった……。


ってまだ終わってないんですけどね。


なんやら様々な伏線敷いておいて伏線とは掛け離れたこのダメダメクオリティー……。


こんなんなるなら伏線なんざ貼るんじゃなかったと後悔しても後の祭りというやつでφ(.. )


というか、どこが戦記だ!

とか言わないでください(´Д`;)


作者である私も戦記な感覚が(ゲフゲフ……。




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