エルゼ36話
あれから1年の歳月が流れた。
エルゼは、いつもどおりに剣の鍛錬をしていた。
「よ……」
声をかけられたエルゼは声の主の方を見る。
「リーズ……」
「聞いてくれよ」
「何を?」
「朝、市場に行ったんだけどさ……。 怪しげな露店があったんだよ」
「怪しげな露店?」
「いやあ、売ってるものがほとんどが胡散臭い商品ばかりで、ある意味シュールでさ……。 だからじっくり商品みていたんだけど……」
リーズはそういって、手に持ってたものを差し出す。
一本の剣だった。
「これは?」
「よーく、見て?」
エルゼはその剣を受け取り、見てみる。
「……これって、まさか?」
「やっぱり?」
世界に名刀というのは100本ある。
だれが名刀だと言っているはともかく、誰もが名刀と言う刀は100本あるのだ。
これはその中のひとつ「雪崩」。
エルゼもカタログで見ただけだから本物か偽モノかの判別は出来ないが、これは偽モノでもそこそこ価値のある刀である。
世の中、贋作は忌み嫌われているが贋作の中でも捨てたものではないものがあるのはどの世界でも共通している。
所詮、似せて作った代物とはいえ。
「雪崩……なのかな? これは本物かどうか私には判別できないよ」
「本物でも偽モノでもいいよ……。 転売すれば高く売れるだろうし」
「て、転売!?」
「だって、ボクは剣の道を歩む剣士じゃないんだよ? これはボクにとって転売してその利益を得る以外に使い道ないでしょう?」
こんな業物を手元における栄誉など、この男にはないらしい。
ただ、高く売れる。
彼の思考の中にはそれしかないようだった。
「商人め……」
「そりゃあ、商人の息子だけどさ」
「もったいないって……。 これいくらで買ったのよ?」
「500金だね」
補足すると、1金で食堂で1食食べてるといったところである。
また、参考までにナマクラ刀は300金といったところ。
つまり……。
「安……」
「値切りは得意だ、任せてくれ」
「……元々いくらだったのよ?」
「10万金だね」
「よくそこまで値切れたね。 その露店商人かわいそう……」
「刀商ってのは難しいんだぜ? 無知なのに刀を扱うほうがダメさね」
「詐欺?」
「失敬な。 商売の基本といってほしいね」
リーズと露店商人のバトルはまず、リーズの
「名刀って贋作多いんだよね。 こういう名刀ってさ、真偽を調べる方法知ってる?」
露店商人は、顔をしかめる。
「名刀には名刀であるという保証書の写しみたいなのがある(近代の名刀匠の一部が近年始めた贋作を見破る方法で、すべての刀匠がやっているわけでもない。 だが、あえてそのてんは触れない)。 当然、名刀というからには、あるんですよね?」
補足すると、雪崩にそんなものはないことをリーズは知っている。
「な、ないですが……、ほら、この刀身の輝き。 見事でしょ?」
「どれどれ?」
リーズは刀の刀身をじっくり見据える。
「うん……、見事な刀身だね。 でも、残念ながら、こういう贋作には刀身をそれらしく見せるだけの技能がある。 この技術が厄介でね。 それに泣く刀剣商は多いんだよね」
露店商人の不安を煽るように、リーズはつらつらと言い出した。
「まず、それが雪崩という証拠がないね。 あなたはこの刀をどのようなルートで手に入れたんで?」
「うちの家宝ですよ。 先祖が有名な刀剣商人から買い入れた品でして……」
それを聞いたリーズは、天を見上げる。
「いつくらいの先祖?」
「私の2代前ですが……」
「贋作全盛期じゃないか(そんな時代は存在しない。 贋作はどの時代でも存在する。)」
「贋作……全盛期?」
「贋作でもものによっては高く売れるんだけど、全盛期出身の贋作は二束三文だな」
それに……と付け加えるリーズ。
「2世代前の刀身にしては光沢がよすぎませんかい?」
露店商人はその刀をマジマジと見る。
「た、確かにそうですが、これはなんといっても名刀ですから……」
「失礼ながら、あなたは刀には詳しくないようですな。 そもそも、名刀と呼ばれる刀も手入れをしていない刀とそうでない刀の見極めはボクでも可能です」
「え?」
「まず、こちらの刀を拝見するに、手入れをしている形跡がありません。 これで、今だ光沢を放っているということは、とある金属を使っているとしか思えないんですな」
「とある金属?」
「簡単にいうならメッキみたいなもんです。 粗悪な金属だから、その刀を使ったら脆く折れちゃうでしょうが」
「そ、そんな馬鹿な」
「気の毒ですが……」
「そしたら、私は二束三文もならないものしか持ってないのか」
「どうしてお金がいるんです?」
「生活費がないんですよ」
「それは困りましたな。 しかたない……。 偽物と暴いてしまったのはボクだ。 責任を取ってそれを高額で引き取りましょう」
「高額?」
「500金。 この程度あれば一ヶ月は生活できるでしょう」
「もう少し上がりませんか?」
「いえ、ボクの提示額は相場のかなり上です。 これ以上はビタ一文とてあげるわけにはいきません」
「わ、わかりました。 お願いします」
「はい」
そういってリーズは財布から500金取り出す。
「どうぞ」
露店商人はお金を受け取った。
「………というわけさ」
「………極悪人」
エルゼはボソッと呟いた。
「何言っているんだか……。 相手を翻弄することが出来なくて将来、軍人になれるわけないではないですか。 軍学というのはいかに相手の裏をかくことですな」
「軍学は、戦場で用いる学問であってそんなことに使うための学問じゃないんだと思う……」
「手厳しいね」
更新遅れまして申し訳ないです。
事故ったため、リアルがはんぱなく忙しいんです。
物損とはいえ、向こう4輪、こちら2輪なんですが、向こうは完全に停車しておりまして……。
全面的に私が悪いんですね。
みなさん、焦りは事故を招きます。気をつけてくださいね。