リーズ提督34話
今、目の前には敵国として定めているナストリーニ国王レオンがいた。
ボクに何か話があるとのことだが、今更何の話であろう?
「それで用件は?」
「君という男を見に来た。 それだけなんだがね。 そんなに警戒しないでくれよ」
「警戒するなというほうが無理があると思いますが?」
「確かにね……。私が君の立場でも、警戒はするかもね」
レオンはニヤニヤと笑う。
「シュネイデ海戦……、見事だった」
「敵に褒められるとはね」
「あんな作戦よく思い付いて決行したものだ」
「あなたはそれをいいにわざわざウェンデスまで危険を冒してやってきたのですか?」
「いや……。 ただの儀礼文句だ」
「では、本題に入っていただきましょう。 何用で?」
「我々、ナストリーニは義の上に立つ国だということは提督もご存じであろう?」
「ええ……、存じておりますよ」
正義を愛する国、ナストリーニ。
正義に反する国はナストリーニの義により討伐される。
いい例が、ヌーダン族であった。
ヌーダン族は、シルラビア王国の国境を幾度となく侵し、強奪を繰り広げていた。
ナストリーニはヌーダン族を悪とし、シルラビア王国と盟約を結び、ヌーダンを攻め、滅ぼした。
そして彼らナストリーニが次に悪と定めるのは疑うことなく我々ウェンデスであろう。
陛下は不忠の王として評判であるし、なにより今も勢力拡大のため近隣諸国に遠征をしている。
ナストリーニが我々ウェンデスを悪と定めるであろう条件は揃っている。
「次は我々ウェンデスに兵を進めるおつもりですか?」
「さてね」
「ウェンデスを悪と決めつけ、出兵するのはわかっております」
「うん。 ウェンデスは正真正銘の悪だといわざるえない」
やはりか……。
「ただ不思議なことに、ウェンデス全部が悪であると決めかねることが出来ないんだよね」
「……というと?」
「例えば君さ。 ……君はシュネイデ海戦に置いて、敵国ユハリーンの遭難者を救助したね……。 なぜだい?」
「彼らは彼らで誇りを持ち戦った……。 ボクは同じ海の軍人として、彼らに敬意を払ったまで」
「ほぅ……。 敬意ね」
「ええ、そうです」
「参ったね」
「何がです?」
「やってることが悪じゃないんだよね。 君の場合は……」
「国を悪と定める貴国の浅はかな愚かさでしょ。 その苦悩は……」
「言うね」
「ボクの意見を言わせて頂ければ、ナストリーニの正義とやらは胡散臭い。 素直にそう思っております」
「胡散臭い……ね」
「正義であれば、何をしてもいいって考えはボクには合いませんな」
「そんなつもりは毛頭ないのだけどね」
「いかにも民衆の好む正義だと思いますがね。 勧善懲悪は……」
「勧善懲悪か……。 まるで俺らナストリーニが安っぽい劇を上映しているような言い方だな」
「失礼ながら、ボクの目にはそう写ってますがね……」
レオンは頭をボリボリとかく。
「参ったね……。 君をあわよくば勧誘しようと思ってここに来たのだが、そこまで嫌われていたのか」
「ええ、あなたが主導者で有る限りボクがナストリーニに就く事はありえませんので……」
「仕方ないか……。 次に会う時は戦場かな?」
「まあ、そうでございますね」
「残念だよ。 俺は君の事結構好きなんだけどね」
「生憎と、ボクの最後の主君はフメレオン王陛下です。 ボクはすでに二人の主君を持った者ですが、これいじょうボクに主君はいりません」
「相変わらず硬いのね」
エルゼはそう言った。
「君もボクの性格くらい知っているだろう……。 自分の主君が無駄足を踏む事くらい容易に想像できたはずだけど?」
「うん。 想像通りだね……」
レオンはエルゼを見て言った。
「エルゼと提督は同郷だったな……」
エルゼは頷いた。
「古い付き合いです」
「よく言うよ」
「?」
第三者であるレオンと多恵はボクらの会話の意味を掴めていない。
「エルゼ……。 君に聞きたいことがあるんだけどさ……」
「あのことでしょ? ……今更何を言っているのよ」
「今更? それはボクの台詞じゃないのか?」
「白々しいことよく言うね」
「お互い様だろ」
「………約束の場所に来なかったのはあなたでしょ?」
「は?」
「どれだけ私があの日、惨めだったか……、エリートコースを歩んでいたあなたにわかるかしら?」
今、エルゼは何と言った?
「あの頃は私もまだまだ若かったからね。 あなたに遊ばれていたと気付くのにどれだけの時間が必要だったか……」
「違う」
「何が違うのよ……。 あなたのお父様を介してあなたの本心を聞いた時、私は泣きそうになった」
「………あ〜、なんだ」
レオンがボクらの会話に割って入ってきた。
「口を挟んですまないが、なんか聞いているうちに一つの真理が見えたのでね……。 リーズ提督も悟ったと思うが?」
「うちのクソ親父にボクとエルゼは嵌められたようですな……」
ボクはため息をついた。
「だが、お互いが相手よりクソ親父の台詞を信じた……、それだけのことですな」
ボクは渇いた笑いをしていた。
多恵は黙って今までの会話を聞いていたが口を開いた。
「つまり、提督とエルゼさんは……、元恋人同士だったんですか?」
多恵は遠慮がちに聞いてきた。
「……………」
「……………」
二人から沈黙が流れる。
ここから回想に入る。
当時、二人はまだ若かったあの日……。
時は7年前のファラスから始まる……。