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第二次シュネイデ海戦32話

「提督……、本国から帰還命令が降りております」


「なんだと?」


 ムハンマドの元に、ユハリーン本国からの勅使が来ていた。


「シュー軍師の指示でございます。 第6艦隊は本国に戻り、新たな作戦を行うように……、とのことです」


「新たな作戦? なんだ、それは……」


「シュネイデ海の制海権取得は第2艦隊のブラック提督に任せ、我々は本国近海の防衛の任に就くように……、とのことです」


「なんだと? 我々では不足と申すか、本国は!」


「命令でございます」


「……その命令、聞かなかった事にするぞ」


「は?」


「ブラックごとき若造に手柄をもって行かれてたまるか……。 今こそ、ウェンデス海軍を完膚なきまでにたたきのめすことができる好機であるのに」


「ですが!」


「全艦前進……」


「ムハンマド提督!」


 ムハンマドは勅使に向かって銃を構えた。


「な、何を……」


「お前はここに来る前に事故で死に、俺の元には命令は届かなかった……。 簡単な事だろう?」


 パキューーーン


 本国の勅使は、絶命した。


「さて、これで命令違犯にはならぬ……。 第2艦隊が到着するまでに制海権の奪取だ」


 ムハンマドの副官は、敬礼をして出陣準備に取り掛かった。


「ユハリーン海軍で、最前線に立つのはブラックのようなヒヨッコでは役不足……。 この俺が、ユハリーン海軍最強の指揮官である……」


 ムハンマドはほくそ笑んだ。



 ユハリーン第6艦隊動く。

 この報を聞いたリーズは、ウェンデス艦隊をシュネイデ海に向けた。

 やがてユハリーン第6艦隊と、ウェンデス艦隊はシュネイデ海沖で対峙する。

 すでに両艦隊は、戦闘体制に入っていた。

 ウェンデス艦隊は、戦艦6隻。

 旗艦、トップスリーを先頭に正三角の形をとった陣形(三角陣)をとっていた。

 一方、ユハリーン第6旗艦は前列4隻、後列3隻の台形型の布陣をし、後列真ん中に旗艦を置いていた。


「リーズは、三角陣を選んだか」


 三角陣とは、速攻と突撃を司る陣形。

 機動力で中央突破を謀る陣形なのである。

 リファイルは、ユハリーン第6旗艦の布陣を見て、リーズに伝えた。


「ユハリーン艦隊、台形の陣形を取っております」


 リーズは、双眼鏡でユハリーン艦隊を見ながら


「防御で固めたか」


 と呟いた。

 台形の陣形は前衛を盾にして進み、後衛は火力のある砲撃で敵を牽制しながら蹴散らす戦法である。

 両軍にして言える事は、一糸乱れぬ陣形で、両指揮官の統率力の均衡を意味していた。


 一方、ウェンデス艦隊三角陣、旗艦の右後ろに陣取っているのはフェインだった。


「主砲筒、回天!」


 フェインは、指示を出す。


「…………目標、ウェンデス旗艦、トップスリー!」


 主砲筒がトップスリーに向けられる。

 フェインは目をつむった。


「撃て!!」


 フェイン艦からウェンデス旗艦に向けて砲撃した。


 ドカーーーーーーン!


 至近距離からの砲撃により、トップスリーに直撃した。

 トップスリーは爆音を立てて炎上する。

 その光景を見ていたウェンデス各艦は、混乱を起こした。

 フェインはすぐさま


「第2射、目標、隣艦……。 撃て!」


 ドカーーーーーーン!


 フェイン艦の真横を航行していた戦艦にも砲撃。

 この戦艦も爆音を立てて炎上した。


「フェインめ……。 偽りはなかったようだな……」


 ムハンマドは勝利を確信した。


「指揮系統は混乱している! 全艦前進! 今こそウェンデス艦隊を全滅させる絶好の好機だ!」


 ムハンマドは、全艦を前進させる。


 一方、燃え広がる艦橋でリーズは言った。


「よし、今だ!」


 リーズは左手を天に向かって上げた。

 リファイルは、それを確認して


「網始動! 繰り返す、網始動!」


 と、伝達した。


 前進しているユハリーン艦隊前衛艦の操舵手がまず異変に気付いた。


「か、艦速が低下!?」


「な、なんだと?」


「船底に何かが引っ掛かっております!!」


「馬鹿な! 海底は深いはずだぞ! 座礁などありえぬ!」


「うわああ! せ、船体が傾いております!」


 ユハリーン艦隊、前衛艦4隻とも船体が傾きだした。


「な、何が起こっている!?」


「か、海中より、巨大な網が我が艦をすくっております!」


「あ、網だと!?」


 前衛艦4隻は、真下から出現した巨大な網の出現により、次々と傾いて倒れていく。

 ムハンマドは前衛艦の異常に戸惑う。


「な、何が起きている?」


 副官は、状況の確認ができずただうろたえてムハンマドの質問に何も答えられなかった。


「前衛艦の航行する海面に何かがあります!」


 索敵部の報告で、やっとムハンマドは前衛艦の航行する海面を注視した。


「あれは……、まさか」


 前衛艦の下に巨大な網が見えたのである。


 ムハンマド自身、元は漁民出身であったため、海中の浅いところにある網の存在を物語る潮の動きを本能で理解できたのである。


「あ、あれは確かに網だ……」


 と、いうことは網を引っ張っている存在があるはずである。

 ムハンマドは、前衛艦隊両側面に望遠鏡を向けた。



「ば、馬鹿な……。 ありえぬ……」


 望遠鏡から見える光景。

 そこには網を引っ張るウェンデスの駆逐艦の存在だった。

 ユハリーンの艦は木造船ゆえ、船の重量はウェンデスの艦に比べ軽い。

 巨大な網を馬力と、移動力のある船で両脇から引いて文字通り、船を倒したのである。

 ウェンデスの科学力と、ヴィンセントの資源力だからこそなせる大技。

 こんなデタラメな策、想定できるわけがなかった。

 前衛艦4隻は、全て倒れ沈没してしまった。

 前衛艦4隻に乗船していた乗組員は海にほうり出され、海面に漂っている。

 中には船と共に沈んだ同胞もいるだろう。

 いくらムハンマドが優秀とはいえ、一気に前衛艦4隻全て沈没させられては士気の維持をできようはずもない。

 ユハリーン第6艦隊の士気は下がっていく。

 リーズという男を警戒していたはずなのに、ここまで大胆な奇策を用いるとはムハンマドにとって予想を超えるものであった。


「考えついても普通、こんなことやらないだろうが! くそ!!」


 この作戦、リスクが高すぎる。

 ユハリーン艦隊が網の上を通らなければただの徒労な作戦。


「いや……。 俺らがあの海域を使って突っ込んで来るのまで想定していやがった……。 そういうことか!」


 つまり、ムハンマドはリーズの掌で踊ってしまったのだ。

 これでは海洋国家ユハリーン王国が誇る第6艦隊がただのピエロである。


「突っ込む事を想定して……? まさか!?」


 ムハンマドはふと、ウェンデス艦隊を見る。


「ぐ! 俺としたことが……」


 先ほどまでフェイン艦の砲撃によって黒煙たちこめ炎上していた旗艦が、何事もなかったように無傷でそびえ立っていた。


「幻覚だったのか!」


 そう。

 ヴィンセント魔法文明が誇る魔法による幻覚。

 爆発炎上していたのは魔法によって見せられていた幻覚だったのだ。

 フェインは実弾を砲撃したのではない。

 空砲を発砲。

 タイミングよく、幻覚が発動させたわけである。

 それを確認したムハンマドは自らの策がなったと思い込み、前進し網を仕掛けた海域に誘導させられたのである。

 まずの失敗は両脇に配備された駆逐艦の存在に気付かなかった事。

 いや、ウェンデス艦隊内に駆逐艦の存在がなかったことに疑問を持たなかった事だ。

 戦艦の主砲に頼った戦略だとムハンマドに思わせるための速攻、突破を得意とする三角陣の配置。

 そして開戦前……、ムハンマドの元にやってきたフェインの恭順。

 リーズ率いるウェンデス艦隊に砲撃をくわえるという事をこちらにさも当然とばかりに仕立てあげられたのである。

 最初、埋伏の毒と疑っていたのだが、埋伏の毒よりたちが悪い……。

 フェインが旗艦トップスリーに砲撃をくわえるのが当たり前というこちらがわの思い込みを植え付けるための行動。

 そして台形の陣形は、フェインの裏切りを想定していたからこその布陣。

 本来ならば、フェインの裏切りによって混乱しているウェンデスの艦隊に近づき、息の根を止めるためにもっとも都合のよかった陣形だったのだ。


 この一連の行動がウェンデス艦隊提督リーズの描いた作戦なのだ。

 その作戦にユハリーン第6艦隊は見事に飲み込まれてしまった。


「く!」


 一方、ウェンデス艦隊旗艦トップスリーの艦橋。


「全艦、主砲……、用意!」


 リーズは右手を勢いよく振った。


「撃て!」


 リーズの合図に、ウェンデス艦隊は後衛艦に砲撃をくわえる。

 さすが鍛練しただけあって命中精度は飛躍的上昇していた。

 命中、命中、命中、命中である。

 耐久性の低いユハリーン艦艇にはたまらない砲弾の嵐…。


「ムハンマド提督! 駄目です! 沈没してしまいます!」


「うぐ……」


「退艦命令を!」


「総員、退艦!」


 この砲撃により、第6艦隊所属艦は全て海中に沈んでしまった。

 この海戦でユハリーンは建国以来始めての敗北を経験した。

 リーズは完全勝利をものにした。

 こちらの被害はゼロなのである。

 そしてなにより戦艦ノヴァイの艦長、トマスの仇を取れたのである。



「全艦に告げる……」


 リーズは、海の軍人として命令した。


「生存者の救出を行え」


 この命令に驚いたのはリファイルだった。



「生存者の救出……ですと?」


 海戦後、敗者を捕虜として収容するケースは多々ある。

 が……。


「提督……。 本気ですか?」


 ユハリーン王国海軍の前身はユハリーン近海を拠点とした海賊(ユハリーン王朝時代に圧政に立ち向かった義賊ではあるが)である。

 リファイルの心配は、救出した敵兵が再び襲って来ないかという心配である。

 正直にいうとウェンデス海軍は白兵戦になるとやはり元海賊であるユハリーン海軍兵には太刀打ちできない。

 それをリーズも理解しているはずだった。


「副提督、復唱はどうした?」


「………私は反対です。 海上に漂っているものどもは……」


「元、海賊だから白兵戦はお手のもの……だろ?」


「わかっていながらどうして!?」


「この海戦の勝利でしばらくユハリーンはジュネイデまで他の艦隊を派遣できまい。 となると他は?」


「他?」


「カルザールは山岳国家。 海軍はもってはいない。オオエドはあまりにも距離がありすぎる。 ここまで海軍の派遣は絶望的だ。 そしてマウンテーヤも海軍を廃止した国。 つまり彼らは我々が救出しなければ全員死だ」


「ですが!」


「もう戦いは終わったのだ」


「……………提督。 敵に情けをかけると自らの破滅を導いてしまいますよ?」


「副提督……。 海に生きる者の掟を忘れたのか?」


 遭難者は何においてでも助ける。


「…………彼らは…」


 リファイルは言いかけたが辞めた。

 リファイルも海に生きる者であるから。

 危険はわかっていても海に生きる以上、この海の者としてリーズが言いたいことがわかるからだ。


「彼らも海に生きる者。 例え敵であってもな」


「これよりウェンデス海軍全軍、遭難者の救出に向かいます!」


 リファイルは復唱した。

 ウェンデス海軍兵は、上からの意外な命令に驚くが、やはり海に生きる者たちであった。

 戦艦・駆逐艦関係なくユハリーン兵の救出に全力を尽くした。

 助けられているユハリーン兵も、このウェンデス海軍の行動に驚く。

 だが、船と共に沈まなかっただけでいずれは力尽きて死を待つだけだった彼らにとって、ウェンデス海軍の行動は、まさに救世であった。


 そんな中、一命を取り留めたムハンマドは、フェイトの戦艦に収容されたのである。


「……………」


「……………」


 二人の間に流れる沈黙。

 策略とはいえ、フェイトはムハンマドを騙した者であり、すごく微妙な空気が流れ込む。

 ムハンマドはついに口を開いた。


「笑うがよい。 俺のぶざまな姿に」


「ムハンマド提督。 あなたは死力を尽くされました…」


「ふん。 騙された俺は滑稽よ」


「一つ、言っておく事がございます」


 フェインはムハンマドを見据えて言った。


「私は確かに王弟派でございました。 仲間もフメレオン王の命令により多くが散りました」


 フェインはゆっくりと語る。


「もしあなたがトマスを討っていなければ私はこのような下劣な策に便乗しておりません」


「トマス?」


「あなたがこの海で沈めた、ウェンデス戦艦の艦長です」


「…………」


 トマスは、貴族に位置したが没落した貴族であり平民となんら変わらない位置にいた。

 一方、フェインは当時有力な貴族の一人であった。

トマスはリーズによって登用され、フェインはフェン(初代ウェンデス海軍提督。王弟派)に登用された。

 二人はそれ以前に親交があった。

 とはいっても二人の間は仲の良い親友などではない。

 二人の出会いは、少年期。

 フェインは有力な貴族の息子。

 トマスは没落して平民に成り下がった貴族の息子である。

 そんな二人は、王都のある店で出会ったのである。

 年齢は同じ。

 そして、趣味も同じ。

 趣味が、当時ウェンデスではやった盤ゲームであった。


 つまり、対戦式。

 当然、二人はそれぞれの思惑によって負けるわけにはいかないという気概の元、対戦したのだ。

 フェインは、平民ふぜいに負けるわけにはいかない。

 トマスは、貴族のボンボンに負けるわけにはいかない。

 お互いの立場による意地の戦いであった。

 勝負は進退極まる戦いで、向こうが勝てば、こちらも次に勝つ。

 やがて彼ら二人は別のことでも競いあった。

 気付けば好敵手になっていた。

 やがて二人は本当の敵味方に別れる。

 王陛下派と王弟殿下派に別れた戦争であった。

 結果は、王陛下派が勝った。

 フェインは処分を待つ身であった。

 だが、トマスはフェインの助命嘆願をしたのだった。


 トマスは言った。


「好敵手を失うのは、これからの生きる上での張り合いがなくなるから」


 と……。


 そしてリーズの旗の元、初めて同志となる。

 だが、それでも彼らは好敵手だった。

 しかし、第一次シュネイデ海戦が起こる。

 これにより、トマスは海で散っていった。

 フェインにとってそれは許容できる事ではない。

 そんな理由だった。


 フェインがリーズの策に乗った理由。

 そして外部の者が彼らの関係に気付く事が出来なかった原因。

 だからフェインにリーズは偽の降伏をさせたのである。


「……………そうか。 そこまで読めなかった我々が負けるのも、無理のない話だ」


 ムハンマドはため息をついた。



 この第二次シュネイデ海戦において、対外に置けるリーズの評判は高まった。

 海戦無敗、世界最強のユハリーン海軍の一艦隊を完全勝利で滅ぼしたのだから。

う゛……。


なんといいますか、網でつりあげる作戦とか現実には絶対不可能な作戦ですよね。

私程度の応用力じゃここまでですか。

書き終わった後に読み返して無理があるかなぁ?っと感じましたが、他に新たな手を思いもつかず結局こうなりました。

実話海戦で唯一知っている戦法が日露戦争日本海海戦のTの字戦法のみ。

こんな作者が海軍戦記などを書いております。


今更ながら何故私は戦記を書いているんでしょうか?と、弱気発言を言ってしまいますね。



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