リーズ提督30話
帰りはチューイの上位級テレポートとかいう魔法でウェンデスにあっという間に到着した。
こんな便利なものがあるのなら最初から使わせて欲しかった……。
などという虚しくなる独白はさておいて、陛下に交渉の成功を報告するため、謁見の間にサレア姫と共に向かう。
「ご苦労だった」
ボクらの顔を見て、陛下は労いの言葉をかけてくれた。
「兄上、ヴィンセント帝国との同盟に成功致しました。 これが同盟盟約書です」
サレア姫は書類を陛下に渡した。
陛下はそれをじっくりと読む。
「ふむ、上出来だな。 余の想定より完璧な出来ではないか」
陛下は再びボクらを見渡す。
「リーズ提督には、本来の職務に戻ってもらえるな……」
「……ジュネイデ海戦に置ける、戦艦ノヴァイのことでございますね?」
「うむ。 すでに提督の耳に入っておったか……」
「御意」
「提督の意見はどうだ? いかがするか?」
「………討つべきでしょう」
「うむ、余も同じ意見である。 このままではウェンデスの威信にも関わるし、なにより友邦となったヴィンセントの敵。 すなわち、我が方の敵でもあるからな」
「ですが今すぐではありません」
「なに?」
「やるならば絶対な完勝が必要であります。 我々の最終視点はナストリーニ王国との決戦でありますので、ここで無理に戦力を減らすのは得策ではありません」
「絶対な完勝? 可能なのか?」
「ユハリーン第6艦隊のみならば十分可能です」
「根拠は?」
「第6艦隊提督、ムハンマドについてすでに情報は手に入れてあります。 彼の性格を逆手にとれば……」
「ふむ。 提督がそういうならば信じよう」
「御意……」
ボクはそう言って王間を下がった。
そして海軍省に向かう。
海軍省に着いた瞬間、リファイルは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。 留守を預かっておきながらこの度の失策は、とても許容できる範囲ではございません」
「いや……、あれは本当に運が悪かった。 だが、ユハリーン第6艦隊ムハンマドをこのままにしておくわけにはいかない……」
「は……」
「艦隊の艦長をすぐに召集してくれ。 これより作戦会議を始める」
「了解しました」
リファイルは、そういって無線装置に手をかけた。
海洋国家だかなんだか知らないが見せてやろうじゃないか…。
ウェンデス海軍の真の恐ろしさをな…。
海は決して貴様らだけの独壇場ではないということを。
「提督……。 全艦隊艦長、会議室に集結しました」
「ああ、行こうか…」
ボクは海図を手に取り、会議室に向かって行った。
会議室に入ると艦長達が集結していた。
「待たせてすまない。 早速会議に入ろう……」
ボクは海図を開く。
「先にこれだけは行っておく。 今回の作戦は完勝あるのみ……。 そのためには不快な任になるものもいるかもしれないが、トマスの無念を晴らすためだ。 ボクに着いてきて欲しい」
一同、頷いた。
「まずは耳の痛い事をはっきり言おう。 ウェンデス海軍において足りないものはやはり砲撃命中精度と、操縦錬度にある。 それはボクがファラス水軍時代から感じていた事だ。 これではせっかくのウェンデス科学技術が泣いているも同然。 確かに我々は海上において、最強の船を所持している。 ボクから言えることはそれに驕ることないようにだ。 名実共に最強となろう」
「おおーーー!」
ボクは続けて各艦に指示を出す。
「戦艦は全て砲撃精度の上昇の訓練に入れ。 弾を惜しむな。 国庫の火薬、弾が尽きてもかまわんからひたすら撃ちまくれ」
戦艦艦長は一斉に敬礼する。
「戦艦護衛艦(駆逐艦など)、旧式艦(この世界で一般的な帆船闘艦)は、燃料が尽きても構わんからこの海原を翔けまくれ。 操縦を自らの身体を動かすが如くものにしろ」
各艦長は敬礼をする。
「作戦詳細と各艦の役割は後ほど通達する。 諸君の奮闘を祈る!」
それからしばらく日中は大砲の音が聞こえない日はなかった。
他国の間者も、この海軍の訓練に畏怖感を覚え警戒してくるだろう。
そうなれば第一段階は成功だ。
「多恵、ユハリーンはこの行動に対してどう思っている?」
「戦艦に対して、かなり警戒しております」
「そうか」
ボクは今だ訓練をしている艦隊を見てほくそ笑んでいた。
「そろそろだな……」
「そろそろ?」
「多恵、陛下に出陣の旨を伝えてくれ。 それと忘れることなくヴィンセントにもな」
「は、はい……。かしこまりました」
多恵は陛下の元に行く。
「リファイル副提督、全艦に通達。 補給を速やかに済ませ、出港準備!」
「御意」
いよいよだ……。
ついに30話までいってしまいました。
ここまで来れたのも本当にこんな駄文を読んでいただいている皆様のおかげでございます。
温かくも厳しいご指摘などがなければここまで続かなかったと自分でも思います。
この場を借りて改めて御礼申し上げますm(_ _)m