ナオト客将23話
一本取られたな……。
それが正直な感想。
俺は愛刀、霧雨を鞘に戻した。
先程俺から逃げたリーズ提督を過小評価しないといいながらどこかでまだ甘く見ていた自分に気付く。
あの男の一挙一動が全て策中だったというわけか。
俺はふと、育ての親からよく言われていた言葉を思い出す。
「戦場において、最も策に嵌まるのは猪武者。 力に頼ったものほど術中に嵌まり易い」
リーズ提督と対峙した瞬間、俺とリーズ提督の戦争が始まっていた。
俺はもはやリーズ提督に退路無しと決め込み、思考を放棄したのが敗因。
だがあの男はしたたかだった。
脱出の瞬間まで、俺に脱出の術があることを悟られなかった。
そしてしっかりとサレア姫らの逃走時間を稼いだ。
兵法に例えるなら俺は陽動に嵌まってしまったというわけだ。
目の前のリーズ提督という餌に目が眩み、ものの見事に奴の術中に嵌まる。
「まったく……、いい恥晒しだ」
俺は笑っていた。
こうも見事に策に嵌まってしまった自分が滑稽で……。
だがもう二度と奴を舐める事はない。
ぴぴぴぴぴ……。
ぴぴぴぴぴ……。
俺の腰から奇妙な音がなる。
音のなる道具を取り出した。
よく理屈はわからないが魔法を媒体とした装置で遠くの声をこの装置に届ける仕組みらしい。
カルザール魔法技術の結晶。
……と言われて持たされている。
対になっていて、その装置間しか通信できないのが欠点とかいっていたがそれでも十分だと思う。
連絡手段に便利なためカルザールにきてから常に携帯していた。
「はい?」
「あ、お兄ちゃん。 今どこにいるの? 大変なんだよ!」
装置から妹の声が聞こえてくる。
「どうした?」
「マウンテーヤ王国の王様が単独でヴィンセント帝国領に侵入してしまったの……」
「最悪だな」
明らかな同盟違反だ。
マウンテーヤ、ユハリーン、オオエド、カルザールの4国が連携して同時4ヶ所進攻するという話になっていた。
それが単独での暴走。
何があった?
「なんでもマウンテーヤ王の元に手紙が届いたらしくて、それからいきなり出陣してしまったみたい」
「……手紙?」
マウンテーヤ王の性格は、自己顕示欲が強く、英雄願望があり、なおかつ短気。
言い換えるならば簡単に策に嵌まり易い男である。
手紙……。
すなわち、誰かのはかりごとの可能性……。 誰か?
このタイミングでの策だ。
決まっている。
奴の策か……。
用意周到な男だ。
これでは刺客どころの騒ぎではない……。
またしても、やられたな。
今回は俺の完敗だ。
戦端は開いてしまったのだ。
こんな所で遊んでいる暇はなくなってしまった。
「至急、帰る」
しかし大胆な策を使う。
奴らの旅はヴィンセントとの同盟を結ぶため……。
このタイミングで軍事提携はヴィンセントにとって、ありがたい申し出となる。
ここまで読んだ上での策か。
「ははははは……。 なんて男だ」
最近自分のHNの漢字を忘れてしまうというアホなことをしておるふじぱんでございます。
代えることができるのなら近々HNを返させていただきますm(_ _)m