???21話
「やはり、ウェンデスはヴィンセントと結び付く気のようだな」
「はい。 間違えありません」
「それはできれば避けたいところではあるが、そうもいってられぬ事情もウェンデスにはあるというわけか」
「はい。 ウェンデス王国の視野は西方、ナストリーニにあります。東部に位置するヴィンセントとは結んでおくに越したことはないためでしょう」
「だがそれは俺たちからしたら厄介だ。 ヴィンセント帝国個別でも苦戦は必定なのだが、それにウェンデスの力まで加わるとより勝利までが困難となる」
「そのとおりです」
「ウェンデス王国の使者は誰だ?」
「フメレオン王の妹、サレア姫です」
「ふむ。そういえばウェンデスは貴族らを粛清したばかりだったな」
「はい」
「大事な会談だ。 国の代表となる人物はそれなりの地位にあるものでなければならない。 だから妹を派遣するのか」
「ですね」
「その妹の、護衛はだれがやるのだ?」
「その情報料は別途料金になりますがね。 へっへっへっへ……」
「全く……。 いつも利用してやっているだろうが。 少しはイロというものをつけても罰はあたらんぞ?」
「私としてもこれでご飯を食べてる身でありますから。 へっへっへっへ」
「なるほどな。 ほら、これで足りるか?」
「おっとっと。 ……確かに」
「で、護衛は?」
「リーズ海軍提督が行う模様であります」
「リーズ? ……あのリーズか?」
「はい」
「ちっ。 下手な小細工は通用せんな。 フメレオンめ、大胆な人選を」
「それだけこの同盟、本気なのでしょう」
「なるほどな。 で、その使者団はどのルートを使いヴィンセントに入る?」
「へっへっへっへ……」
「……足元みやがって。 ほらよ」
「毎度あり。 ウェンデス海軍の軍船をみるかぎり、金銀財宝を詰んでいるのを確認しております。 恐らく海路をとるかと」
「海路を?」
「海軍提督が護衛でありますからね。 船を使って海路を辿るのは当然の選択かと……」
「俺なら海路は使わんな」
「なぜです?」
「制海権は今、ユハリーンが握っている。 それを承知であのリーズが無策で海路を使うとは思えん」
「リーズ提督もその程度の男だったってなのはどうでしょう」
「俺は敵を過小評価はしない。 ましてやあのリーズだ。 過小評価できる要素が奴のこれまでをみるかぎり見当たらない」
「では、あの艦は我々の目を欺くフェイクだと?」
「あくまで可能性の一端にすぎない。 その可能性を断言に持ち込むためお前ら情報屋を雇っているんだがな」
「面目ない……」
「まあいいさ。 もし、陸路を取るならばどこを通るかな?」
「さようですね。 私どもが考えますに、安全面を考慮するなら、ナカラ地区を通ってこの道で帝都を目指すかと……。 この道ならば同盟国領にさしかかりませんからね」
「普通は、そうだろうな。 だが当たり前すぎる」
「当たり前すぎますか……」
「海路はユハリーン艦隊に任せるとして、問題は陸路だな。 無作為に刺客団を配置できるほど余裕もない」
「そんなに深く考える問題ですかね? ………考えてみてくださいよ。 リーズ提督はずっと海軍やら水軍で生きてきた男ですよ。 水上はともかく、今回は陸地なんですから」
「なるほどね。 それでお前はリーズを舐めているわけか」
「舐めるってそんな……」
「まあいいさ。 直接戦うのは俺達だ。 お前が舐めていようと俺が舐めてかからなければいい話だ」
「かなりリーズ提督を評価されているのですね」
「ああ、油断ならん男であることはもう間違いないさ。 だからこそ、警戒せねばならない。 我がカルザールが勝利を得るためにもな」
「まあ、我々としてもカルザールに勝利していただかないと困りますからね。 あなたのような大口の客がいる以上」
「そう思うのなら良質の情報の供給を絶やさない事だ。 そうすればいつまでもこの関係を維持できる」
「へいへい。 わかっておりますって」
「では引き続き頼むぞ。 ウェンデス……、いや、リーズの監視を」
「了解」
そういって情報屋は去っていった。
なかなか食えない男だな。
リーズめ……。
恐らく、金銀財宝を積んだ船というのはこちらの目を欺くためであろう。
すでにこちらの目がウェンデスに注視していることを読んでいるということか。
まったく……。
厄介な奴がウェンデスに仕官したものだ。
恐らく、これから先ユハリーンも、我がカルザールも奴に苦戦を強いられるだろう。
ウェンデスにおいて、科学なる未知の学問事態も警戒すべき事柄だか、なによりもその科学に頼る傾向がウェンデス軍部にあると思っていた。
科学を使いつつも全てにおいて科学を使うだけではない男、リーズ。
恐らく我が陣営においてリーズに対し、警戒している者はまだ俺を除き、ユハリーン軍軍師のシューくらいか?
ウェンデスの龍をこのまま野放しにしておくのは危険だ。
何がなんでも排除しておくべきだな。
カルザールのためにも。
我々が勝利を掴むためにも。
またまた懲りずにリーズ外視点です。
さらにいうなら、敵側の指揮官の視点。
ヴィンセント帝国と今まさに争っている国の指揮官です。
やっとリーズと同レベルの視野をもつ男が登場したという風に印象もてるよう執筆したのですがいかがであったでしょうか?