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リーズ提督20話

 陛下に呼ばれ、ボクは謁見の間に来ていた。


「先の評定で話したとおり、そちら海軍は、ウェンデス全権を護衛し、ヴィンセント帝国に赴いてほしいのだ」


「了解です。 ところで全権とはどなたでありますか?」


「うむ。 おい、入ってこい」


 陛下がそう告げると、サレア姫が入ってくる。


「サレア姫……? まさか……」


「うむ。 今回、サレアを全権としてヴィンセントに派遣しようかと思う」


「危険すぎます」


「うむ、危険であることは重々承知しておる。 しかしな、他に適役がいないのも事実なのだ」


 確かに、国の代表としてヴィンセント帝国に行くのだ。

 身分など考慮に入れた上でウェンデスにはサレア姫ほど適任な人物はいないであろう。

 しかし、サレア姫はまだ若い。

 国事を背負うにしてはまだきついぐらい若いのだ。


「全権といっても、サレアは若い。 ヴィンセントの魑魅魍魎どもにあしらわれるのがオチであろう」


「そこまで解っていながらどうして?」


「だからその補佐に海軍提督が着いてくれれば、たやすくあしらわれることはないであろう」


 ……………。

 信頼してくれるのを嬉しくないやつなどいないだろう。

 だが、正直畑ちがいだ。

 ボクは海軍の軍人であり、調和と懐柔、弁舌などを得意とする外交官とは遠い存在だと自負している。


「ボクは、万能家ではありませんよ。 いうなら、海軍しか能がない男ですが」


「だが、おぬしはもはやウェンデス海軍提督である。 そろそろ政治というものを学んでおけ」


 学ぶも何も無知な男にいきなり国を左右させる大役を任ずるとは。

 大胆というか……。

 無謀というか……。

 ボクにそんな大役が務まるのであろうか?


「なに、おぬしはいつもの豪胆さでいればよいのだ。 外交の極意は、自国の利を優先しそれに基づき相手を丸め込ませる事。 つまり譲歩しない心意気だ」


「相手が一蹴した場合は?」


「それをさせぬのが外交術というもの。 そのために切り札をこちらも用意する」


「切り札?」


「ウェンデスの秘である科学技術の提供。 ヴィンセントはこれがあれば今現在敵対しているユハリーン王国どもと優位に戦端を開くことが可能だ」


「こちらは何を得るので? 恩の押し付けなど、向こうは快く思わないと思われますが?」


「ほう。 リーズよ……。 先ほど外交畑は専門外とかいっておったわりには意外と的を付く意見ではないか」



「相手の立場なら……、というのは兵法にもあります。 ボクはそれを応用して話しただけに過ぎません」


 敵の心理を読み、その裏をつくことができればその戦の主導権を掴むことができる。

 だからボクらみたいな作戦立案実行する立場にある軍人は、相手の心理を読むのを常とし、習慣にしているまである。


「こちらにも利はあるぞ」


「利……、でございますか」


 東方からの進攻の危険がなくなる。

 そうすることで安心して西方、すなわちナストリーニ王国と対峙することができるというわけか。

 しかしそれではこちらの弱みを見せているに過ぎない。

 不可侵条約は、約束事であり、絶対ではない。

 当然、条約を結ぶ以上破れば対外的にも内在的にも信用を失うというデメリットもあるが、考えようによっては信用を失うだけだ。

 それ以上の魅力的な事柄があれば破るのもたやすい。


「弱いですね。 一時の不可侵だけでよいのならそれでも良いかと。 ですが、ナストリーニと対決するなら長期的になります。 ですので、短期では逆にこちらの危機となります」


「長期に結べさせればよい。 そのための切り札だ」


「なんです。 その切り札って?」


「しいて言うならば機械兵団のゼロ……」


「陛下。 ゼロ将軍に関して、我々は何も知りません。 彼は何者なのです?」


「うむ。一言でいうなれば、ウェンデスの新しき剣」


「新しき剣?」


「そちたちもいずれわかるときがくる。 いずれな」


 嫌な予感がする。

 杞憂であればよいのだが。

 だが、ボクに陛下を詮索する権限などなければ、臣家として陛下に疑いを持つという行為はよくない。

 しばらく、この疑念は封印しておいたほうが懸命だ。

 憶測で陛下のなさる事に異義を唱えるわけにはいかない。


「かしこまりました。 それでは出発の準備をいたします」


 ボクは一例し、退廷した。

 サレア姫もボクに続く。


「まさか私がヴィンセント帝国に行くことになるなんて」


 サレア姫の顔には不安という文字が踊っている。


「我々、海軍が御身に降り懸かる災厄を払ってみせますのでご安心あれ」


 等と強がって見せるもボク自身不安はある。

 それだけ責任重大なことがボクら二人の双肩にのしかかっているのだ。

 失敗は今後の戦局にも大きく影響する。

 普通、一軍人と、世間知らずな姫が抱える負担ではないのだ。

 だが、命じられた以上、やるしかない。


「期待していますよ、リーズ提督」


「ええ。 ご期待に添えるよう、真剣に働かせていただきます」


 ボクら海軍の任務…。

 サレア姫の護衛も兼揃えている。

 あいかわらず、ボクの許容限界以上の仕事がくるものだと思いつつも、任された以上やるしかないという気持ちになる。


「それではサレア姫。 ボクはこれより、出発に当たって緒準備を行っておきます。 姫も準備が整われたら連絡をいただきたく思います」


「わかりました。 それではリーズ提督」


「はい?」


「よろしくお願いしますね」


「かしこまりました」




 ボクは海軍本部のある建物に着き、とりあえず一息をつける。


「多恵……」


 ボクの呼び掛けに多恵は返事をする。


「はい、いかがいたしましたか?」


「君の意見を聞きたい。 この同盟、成ると思うか?」


 多恵は少し考えるそぶりをし、そして……。


「十分、可能かと…」


「根拠は?」


「ヴィンセント帝国は先の帝位継承戦争の内乱で立ち直る暇もなく、ユハリーンを筆頭とする対ヴィンセント同盟連合軍と開戦しております。 この状況を考えるに、ウェンデスと結び付くのはヴィンセントにとって優位に結び付くかと存じますが」


「互いに敵がいる以上、新たな戦乱を望まないということか…」


「そのための同盟かと推察いたします」


 確かに、そうかもしれない。

 ヴィンセント帝国皇帝、デュライは先の帝位継承戦争にて帝位を勝ち取ったばかり。

 先帝の死去と共に次の帝位を争って帝国は真っ二つに割れた。

 先帝の長男である三歳の幼帝ニグラゥを擁立した一派と先帝の末弟の現帝デュライを立てた一派の争い。

 前帝が早世したために起こった悲劇の戦争だった。

 帝国に属する貴族や軍人、はては藩属国まで巻き込んだ内乱は長期にわたり繰り広げられ、国力を疲弊させていた。

 当初、劣勢を強いられていたデュライは様々な奇策で自分に勝利を導いたのである。

 やがて、デュライは帝位に付く。

 やがて、彼と敵対した者を粛清していく。

 その粛清は、敵対した藩属国にまで及ぶ。

 藩属国は、決死の決起をする。


 カルザール王国、マウンテーヤ王国、オオエド幕府はそれぞれ立ち上がったのだが、個別では撃破されるのは時間の問題。

カルザール王国女王エリカは、三国と結びやがて帝国と敵対関係にあったユハリーン王国と同盟することに成功し、対ヴィンセント同盟が誕生した。


 この同盟は、ヴィンセント帝国にとって脅威になった。

 デュライは、この同盟軍の討伐を決意。

 再びヴィンセントに戦乱の嵐が吹き荒れようとしていた。


「と、なると……。 当然ボクらとの同盟を対ヴィンセント同盟は快く思わないだろうな」


「はい。 警戒されております……」


「下手すると衝突の危険もあると考えたほうがいいな」


「ルート、次第ですね」


 ボクは地図に目を落とす。

 帝都への最短ルートを線で引く。


「このルートに問題は?」


「無理ですね。 この海域はユハリーン王国が制海権を握っております。 また、マウンテーヤ王国領にも面している部分がありますので戦闘になります」


「むむむ。 意外とユハリーン王国の制海権は広いな」


 地図を見るかぎり、どの海路をすすんでもユハリーンの制海権にひっかかる。


「ユハリーン王国は海運国家でございますから仕方ないです」


「となると、陸路になるわけだが。 正直ボクらが丘に上がった河童に成り兼ねん」


 海路を使っていってもいいのだが、ウェンデス艦はとても目立つ船である。

 見つからずに進むのは非常に困難なのである。

 かといって陸路を取る場合。

 水の上とは勝手の違う海軍がどこまで変事に対応できるかという点がある。


「この際、下手な小細工を使わず海路を突っ切るかな?」


「私は陸路を推しますが」


「え?」


 多恵は意外な事を言った。


「陸路なら、敵にばれることの無い道も存在いたしますので」


「ばれることの無い道?」


「私たち忍びの使う道があるのですよ。 ですので地図にも載っていない隠し道になりますが」


「うーむ。 隠し道か。 だがな、こちらにはサレア姫がいる。 まさかサレア姫に野宿させるわけにはいかんだろう」


 隠し道ならば、その道に村などあるわけがない。

 となると、野宿ということになる。

 ボクらはいいが、姫を野宿などさせるわけにはいかない。

 まあ、サレア姫はそこまでこだわらない性格だろうから問題はなさそうだが、臣家として野宿を奨めるなどと出来るはずがない。


「私の知る隠し道には、村があるのです。 その点はご安心くださいますように」


 多恵はクスクス笑う。


「村? そんなのがある隠し道、隠し道というのか?」


「外界から閉ざされている村でございます」


「まさか、忍びの里とかいうやつか…」


「御意」


「忍びが我々を受け入れてくれるのか?」


「私たちが通る隠し道に存在する里は、石雪衆、黒凪衆、そして新白衆でございます。 全て、親ヴィンセント……、もしくは親ウェンデスの里でございますので、恐らく熱烈な歓迎を受けるのではないでしょうか」


「ふむ。 ならばその隠し道を使う陸路で向かうべきだろうな。 しかし……」


「はい?」


「忍びの里とは、外界の人にその存在を知れるのをもっとも恐れるのではないのか? いくら、我々を支持する里とはいえ」


「さようでございます。 ですが、ウェンデス・ヴィンセント両国に恩を売る絶好の機会ではないでしょうか」


「なるほどね。 打算的なことで……。 逆にいうならそれは信用できることだな」


「さようでございます」


「わかった。 多恵を信じよう……。陸路で行く」


 と、なると連れていく人間をかなり選抜しなければならない。

 道案内として多恵。

 護衛として海軍のものを…。


「隠密行動になるな、陸路だと。 ゾロゾロ連れていくわけにはいかないな」


「はい」


「姫、ボク、多恵を合わせて後何人が望ましい?」


「そうですね。 多くても後二人が限界かと…」


 後、二人か…。


「リファイル、いるか?」


「はい、お呼びで?」


「ボクらは陸路を取ることにした。 それに伴い、隠密な行動となるため、ゾロゾロと護衛を引き連れるわけにはいかん」


「ふむ。 さようでございますな。 賢明な判断だと心得ます」


「うむ。 ……でだ」


「隠密で陸路を渡る以上、科学武器類は使えませんな。 あれは優秀ですが共通していえることは、音がうるさい……、ということですから」


「よく言いたいことがわかるな」


「なに、私はリーズ提督の副官であります。 それ位察しなくて副官が勤まりますか」


 リファイルは不敵に笑う。

 頼もしい男だな。

 本当にボクは部下に恵まれている。


「そうか。 では、護衛として多くても二人しかつけられない。 護衛として適任は誰かいるか?」


「ふむ。 陸路でございますか。 我々の畑とは違いますな。 かと言って陸軍は、南下制作に着手のため人材をこちらに遣す余裕があるとも思えませんし」


 リファイルはヒゲを触りながら考え込む。


「ああ、彼らならば適任かもしれませんな」


 リファイルは思い出したように言う。


「彼ら?」


「元々、車児仙殿の貴下のものですが、提督に憧れ海軍に異動してきたものたちです」


「そんな連中がいたのか?」


「はい。 彼らを手配致しましょう」


「わかった。 頼むよ」


「さて、一つ重大なことをお忘れのようですが」


「ん?」


「我ら海軍はほとんどが留守番になりますがいかが致しますか?」


「うん。 そうだな。 一時指揮権をリファイルに預ける。 必要に応じ、南下政策の支援。 本土防衛の任を頼む」


「畏まりました。 一時指揮権を預からせていただきます」


 リファイルは一礼した。

 リファイルは退室していった。


「うーむ……」


「どうか致しましたか?」


「一つ、重要なことを忘れていた」


「?」


「ヴィンセントに贈る献上品だよ。 あまり重いものは無理だな」


「陛下は何を用意していらっしゃるので?」


「任せる……、とのことだ」


「なら何を迷う必要があります? ウェンデスの最大の武器は科学でございますよ……」


「うむ……。 だが、それだけで納得するかどうかもわからん。 失敗するわけにはいかぬ交渉だ。 万全を尽くしたい」


「かといって金銀財宝を贈ったところで、ヴィンセント帝国は我が国の評価を変えないでしょう。 平凡すぎますから」


「平凡……な」


「大砲みたいに重いものを運ぶのは不可能です。 ですが、ウェンデスの最新の鉄砲なら……」


「まあ、我が切り札は科学だ。 それを誇示できる献上品の方が説得の切り口になるか……」


「はい」


「そうだな。 最新式の鉄砲を一丁贈るか」


「一丁ですか……」


「うん、一丁だ」


「何か企んでいますね。 さては」


 多恵は楽しそうに聞いてくる。


「まあ、ボクも少々の小細工はしておくさ」


 さて……。

 こちらの準備は整った。

 後はサレア姫を待つだけだ。

やっと…やっと投稿できました。


なかなか執筆の時間が取れず待たせてしまいまして申し訳ありません。




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