リーズ提督19話
戦後処理は淡々と終わり、再度評定が開かれた。
見渡す限り、人が減っている。
粛正されたもの……。
粛正を免れても、次は我が身とばかりに恐れ、評定を欠席したもの……。
また粛正に対して、不満を持ち、欠席したもの……。
そのような連中の席が空き、閑散とした評定であった。
「今回は、欠番に関しての人事を決め行う。 こたびの人事は、先の戦いの功労賞も兼揃えるものとする。 この人事に関して、沈黙は了承ととる。異存はないか?」
「「「ははー!」」」
一同、頭を垂れた。
陛下はボクの知らない近従に、功労証書が書かれているであろう手紙を渡す。
「車児仙殿!」
「ははっ!」
「第一軍団総司令官に任ずる!」
「畏まりました!」
近従から総司令官。
大出世だ。
車児仙の作戦発案という功績を考えれば妥当な線である。
それが貴族ならばの話である。
ウェンデスにとって初の平民……、いや外国人の大抜擢。
「ヒューリック殿!」
「ははー!」
「こたびより新設するウェンデス空軍総帥に任ずる!」
「か、畏まりましたー!」
新設の空軍。
今まで空軍という存在はなかった。
これは軍事改革も兼揃えているのか。
航空戦術の第一人者ヒューリック殿なら確かに勤まるだろう。
「セレナ殿!」
「はっ!」
「第二軍団総司令官に任ずる!」
「慎んでお受けいたします」
ウェンデス史上初の女性司令官か。
彼女ならやり遂げる力を持っている。
老若男女果ては民族問わずに任官…。
陛下の大望の第一歩だ。
「ウルブデック殿!」
「はっ!」
「新設される魔導科学研究機関の所長を命じる!」
「はは! 期待に添えるよう誠心誠意働かせていただきます!」
「パンテオン殿!」
「あ、はい……」
「科学機関代表を命じる!」
「さようでございますか。 柄ではありませんが……。 はい、承ります」
パンテオンはぬぼーとしながら答えた。
やる気ないな……。
出世を喜ばないやつなんか始めてみた。
まあ、学者は変人が多い。
偏見かもしれないがボクの印象はそうだ。
「エリック殿!」
「は、はい!」
「内務行政全般を司る、中宰相として任ずる!」
「な!?」
一農務行政官がいきなり中宰相に抜擢だ。
そりゃ戸惑うわな。
中宰相は内務全般を司る国の重役だ。
ちなみに左が外交、右が司法。
このシステムはウェンデス独自の行政システム。
「お前ならやれる、エリック。 しっかり余を補佐してくれ」
「か、畏まりました」
「ゼロ殿!」
誰だ、ゼロって……。
どうやら周りも同じらしい……。
ゼロなる存在を知らず、戸惑っている。
「………はい」
白い髪のまだまだ若い。
というより子供。
年は15より若干下といったところか。
少年だ。
有り得ないくらい調った顔をしている。
なんだ、こいつは?
「機械兵団団長を命じる!」
「……了解しました」
無機質に答えるゼロ。
正直、ゼロなる少年の存在に違和感を感じる。
どことなく生気がないというか、血が巡っていないというか。
なんなのだ、この違和感は。
陛下からゼロの説明はない。
詮索は無用、ということか?
「リーズ殿!」
ボクの番!
「はっ!」
「こたびの働き、見事! 客将より、海軍提督に命じる!」
なんだって?
空耳か?
「リーズ殿なら適任です」
「リーズ殿以外に適役はいないだろう」
車児仙やヒューリックはそう言う。
いいのか?
ボクは新参だぞ?
「リーズ提督、返事はどうした?」
陛下がボクの返事を促した。
「………御意」
「励め!」
「御意!!」
陛下の懐のでかさには感服させられる。
このボクを海軍提督だと?
思いきりすぎる人事だ。
「では、人事も終わった所で次の議題に移る。 これより我が国は国土増大のため、かねてより計画せし南下政策を発動する」
南下?
ファラスの南部国家のことか?
「車児仙! そちはポシューマス王国の攻略を命じる!」
「はは!」
「セレナ! そちはリグウェイ王国の攻略を命じる!」
「はは!」
「ゼロ! そちはライデング王国の攻略を命じる!」
「………わかった」
「空軍は各師団の援護」
「御意!」
ポシューマス、リグウェイ、ライデング…。
共通点といえば山岳国家。
河はあるが滝があり海軍は出番なしではないか。
いきなりあぶれるか。
「なお海軍は、大使とともにヴィンセント帝国に赴き、軍事同盟の締結をしてまいれ!」
「は、はは!」
結構難題だな。
あの孤高の軍事国家ヴィンセント帝国と同盟。
ことが成せば確かに東方に気を配る必要はなくなる。
安心して西の大国、ナストリーニと対決できるというわけか。
ウェンデスは確かにまだ、ヴィンセント帝国と戦端は開いていない。
締結できる可能性は五分といったところか。
「これにて、今期の評定を閉幕する!」
カテゴリー、出世街道と明記しておきながらもう最上位ですか?
と自問自答。
さて、今回複数の新造語を作っています。
最もわかりにくいだろうと思われる科学と魔法科学の差について、解説します。
科学というのは、この魔法社会において突如ウェンデスで発生した学問です。今、この現代社会を取り巻く科学ですね。それがいきなりウェンデスにやってきてパワーバランスを崩壊させました。詳細は本編で近いうちに明かされます。魔法科学というのは、現存する魔法文明の英知を科学と比較融合する学問で、これもウェンデスのみに発生しております。
他の国は魔法学のみです。テクノロジーも魔法から発生、発達したものばかり。
錬金、鍛冶など一見科学のニオイがする学問も魔法学から発達しており、契約、創造、召還など精霊、悪魔、神と呼んでいるものの力を使っている自然調和主体の学問です。
って文字数制限が…。
語り足りませんがこの辺で失礼します