リーズ提督18話
先の騒乱に関わった者に対して、ほとんどの者が国家反逆罪として粛清される。
貴族という身分を考慮して毒杯が主な刑となった。
「陛下」
「いかがしたか、リーズ」
「王弟殿下も、やはり毒杯でございますか?」
「…………うむ」
陛下は少しだけ躊躇って言った。
「畏れながら申し上げます。 陛下と王弟殿下が通じていた件、公表すれば何も王弟殿下を処刑する必要などないのではないでしょうか?」
あまりにも悲しすぎる結末。
知っていながらボクは無視できる性格ではない。
「おぬしは、知っていたか…」
「……御意」
「リーズ……。 おぬしもまだ若いな。出来るなら余とて、あやつを殺したくはない。 だがな……」
「また、別の者が王弟殿下を祭り上げる可能性と、王弟殿下がこたびの騒乱に加わったのは連名書に代表者として記されているのでその責任でございますか」
「うむ」
「ですが、やはりあまりにも不憫でございます。 本人には反逆の意思はなかったのに、勝手に祭り上げられ……」
「リーズ殿」
車児仙はボクの言上を遮った。
「そういう前例を残すと、次が必ず起こります。 このたびの結論は、その次を防ぐための抑止にもなるのです」
そんなことはわかっている。
でも、ボクは納得いかないのだ。
「まだまだそちも甘いな、リーズ…」
「え?」
陛下は遠くに目を凝らして言った。
「あやつも死は覚悟の上。 あやつは死ぬ事を望んでおるのだ」
「望む?」
死を望むってなんだ?
なんでそんな結論に達するのだ?
「あやつは利用されるくらいなら死を選ぶ男ということだ」
え?
利用されるくらいなら死を望む?
矛盾していないか?
王弟殿下は、利用されるくらいなら死を望むって利用されている事をしっているはずだ。
それでいて、死を選ばなかった理由……。
そんなの一つしかない。
「あえて、利用されたというわけですか?」
「察しがいいですね。 そうでなければ我が陣営に引き入れた意味がありません」
車児仙は、そう言った。
「あやつがあそこで死を選んだ所で結果は変わらん。 あやつ以外の王族、サレアを祭り上げればいいだけの話」
それであえて王弟殿下はその策に乗ったと。
自分の結末も見据えた上で。
サレア姫がもし、王弟派に担がれたら何もかも王弟派の連中にいいように動かされるだろう。
まだサレア姫は若い。
そして、政治云々は無知に等しい。
恰好の操り人形だ。
それを理解した王弟殿下は、あえて自分が担がれたという事か。
「………つまり、王弟殿下を厳しく処罰しなければ、次はサレア姫を担ぐバカが現れる可能性があるということですか」
つまり、みせしめ。
例え王族といえども反乱を起こせば厳罰に処すという、王の確固たる意思。
「あやつもそれを承知しておる。 余の治世のためにな」
だがしかし、なんだ。
なんだ、この無謀極まりない賭けのような策は。
失敗すれば陛下はあの場に座っていない。
ボクでも穴を見つけることが出来るこの安易な策は…。
「陛下……。 終わった後に進言するのもなんですが、穴だらけです。 こたびの策は」
「穴?」
「この策は、陛下に敵対する貴族たちをあぶり出し、処罰する策でありますが、彼らを促し決起まではたやすいでしょう。 ですが、敗れた時の事を考えていません」
敵がフェン提督程度の思慮の足らない連中だから事がうまくいったにすぎない。
敵に優秀な軍師がついていればこちらの動きを封じる事もたやすい。
現場にいたからそれが強くわかるのだ。
あの時は、奇襲がうまくゆき、敵が混乱したからこそ事がなせた。
あの場で、混乱がおきなければ駆逐されているのは我が方。
集中砲火でトップスリーは沈んでいる。
その前もそうだ。
トップスリーは、艦隊所属の船ではない。
ほんの少しでもこちらを注意していれば予測できる奇襲だった。
予測できれば立て直しもあっという間。
それを出来る人材が向こうにはたまたまいなかっただけである。
と、それらを述べたボクに車児仙は笑いながら言った。
「あの戦いにおいては必勝の策です。 なぜなら敵陣営を深く理解していましたから」
「理解?」
「フェン提督をはじめとした貴族の王弟派はウェンデス貴族外の存在を許容しないのはご存知のとおり。 失礼ながら、ウェンデス貴族においてこれを破る才覚を持ち合わせたものはいません。 と、なると後は平民や外部から招聘するしか方法はないのですが、フェン提督らはそれを承服しますか?」
「……………ないでしょうね。 ボクや車児仙殿に対しての態度をみるかぎり…」
「ですから、必勝の策になりえたのですよ」
「敵陣の穴はともかく、こちらがらにも穴はありました」
「こちらの穴?」
「ボクですよ」
「リーズ殿が穴?」
車児仙ははて? っというような顔をする。
「ボクの馴染みの無い技術を持つ艦に載せて、いきなり指揮しろなどと、無謀すぎます。 しかもボクらの役目は敵の出鼻をくじく大事な役目。 今回はたまたまうまくいくことができましたが、それは奇跡に等しい確率でした」
車児仙はやれやれと言って
「あなたは自分を過小評価しすぎですね。 私の中ではあなたの艦内掌握とこたびの戦功は必然です」
「なぜです?」
「戦場において、指揮官に問われるものは瞬間的な判断力と度胸。 戦争はチェスのようなゲームのようにターン制ではなく、リアルタイムです。熟考している間も敵は動いてくるのですよ」
陛下が補足するように言ってきた。
「すなわち、リーズはそれを兼揃えた人材であることは先のファラス戦で実証されている。 でなければ余が我が陣営に迎えるものか」
「それはいくらなんでも買い被りすぎです」
「謙遜を。 ではお尋ねいたします。 あなたはファラス旗艦が沈んだ時、突撃してきたのですか? 相打ちとはいえ確実に沈める事ができると判断しての突撃だったはずです。 なぜ、突撃に至ったかの心境をお聞かせいただきましょう」
「確かに、沈めることが可能と判断し、突撃しました」
「どのように判断したのですか?」
「我がファラス旗艦が沈むのを確認し、ウェンデス側は勝利を確信し油断緊張の糸を切ったと推察しました。 一度解いた緊張を貼り直すのは容易ではないことくらいボクも軍人ながら経験上理解しております。 その隙をつくのはたやすいことでした」
なによりもウェンデス艦隊は圧倒的技術差において圧勝ムード。
勝利の確信は間違えないこと。
何故ならボクも敗北の確信をしていたのだから。
さらにいうなら練度。
ウェンデスは海軍を所有していなかった。
目の前の艦隊は経験が浅いのは明白。
急造艦隊が圧勝ムードの中で警戒を怠らないわけがない。
自信からくる過信。
そこを付け込む余地があるとボクは当時、判断した。
それであの海戦において一矢報うことができた。
「それをあなたは一瞬で判断し実行に移した。 少しでも判断が遅れれば突撃に失敗していたかも知れません。 ですがあなたはうまくタイムラグを利用できた」
「誰でもできることです。 たまたまボクがそれを行った。それだけです」
「誰でも出来る?」
車児仙はポカーンとした。
「お言葉を返すようですが、あの状況で思うことは出来るかもしれませんが、実行に移すのは難しい。 これは事実です。 なにより艦内クルーには敗戦ムードが停滞していたはずです。 その中で突撃を成功させる統率力の持ち主はなかなかいませんがね」
陛下も車児仙の意見に頷いた。
「だから私たちはリーズ殿にトップスリーを任せた。 統率、瞬間的判断力、度胸を兼揃えた人材をね」
「それに先見の目もある。 聞いているぞ。 新白衆を配下に就けたこともな」
なんで陛下が知っている?
「なんで知っているかって顔ですね。 知っていて意外でしたか?」
そうか。
ボクは陛下と王弟殿下の繋がりを知っていることを自分で認めていた。
すなわち、ボクが新白衆と繋がった事を自分で公表したようなものだ。
「多恵がな。 いずれ自分の主となるとお前を余の元に連れてきた時から言っておった。 それから推察すればたやすいことよ」
陛下は笑った。
「我が国にも諜報部はあるが、忍びには無念だが負ける。 奴らはそれに長けるからこそ存在できるのだ。 負けるようでは存在価値はないからな。 のぅ、多恵…」
ボクの後ろにいきなり現れた多恵は
「そのとおりでございます、陛下……。 陛下お抱えの諜報部の方たちに負けるようでは廃業しなければなりませんからね」
「果報者よ、リーズ。」
「全くです。 我らのウェンデス諜報部の勧誘を蹴ったのですから」
「その儀に関しまして、改めてお詫び申し上げます」
深々と多恵は頭を下げる。
蹴った…。
ボク一個人に仕えるより国家に仕える方が忍びとしては安定するはずだ。
「忍びは主君選びに慎重を期します。 忍びの仕事は命を賭ける仕事でございますので、生半可な主君では自らの悔いに繋がりますので」
「ハンパは惚れ込みようだな。 多恵」
「自分の真な部下をもつことは容易な事ではない。 だからおぬしは果報者なのだ。 心せよ」
「御意」
「リーズ。 おぬしに任を与える」
「任、でございますか?」
「我が弟、フメロン皇太子の最後を見届けてこい」
「!」
なぜ、ボクなんだ。
理解はしているが納得はしていないボクなんだ?
「不服……か?」
「……………御意」
陛下は一瞬、優しい顔をした。
「お前に送られるなら弟も本望であろうという判断だ。 行ってはくれぬか?」
「………王命とあらば」
車児仙は、ボクを連れて、王弟殿下の部屋に案内した。
「………こちらです」
屈強な衛兵が、王弟殿下の部屋の前に立っている。
護衛のためではないことは一目瞭然。
万一の脱走を防ぐための存在か。
おそらく中にも同じような衛兵がいるのだろう。
車児仙は、ボクに包み紙を渡す。
聞くまでもないことだがあえて聞いてみる。
「これは?」
「刑具です」
さらりと車児仙は答えた。
やはりか…。
ボクに死刑を執行させる道具なのか。
「即効性です。 使い方は水に溶かしそれを飲ませるだけです」
そんな事言われなくともわかる。
「王家秘伝の薬です。 間違えても握りつぶさないように」
秘伝ね…。
どの王家にも毒薬に関しては熱心に研究する。
負けた時、敵の手にかかるくらいならと誇りを持って自害するため。
政敵に対して、毒殺を用いるため。
もしこれを事を起こす前のフェン提督らに服毒させれば……。
いや、無理か。
フェン提督らを排除したところで第二のフェン提督らがでてくるのは明白。
毒による謀殺では、みせしめとしては弱すぎる。
処刑だからこそのみせしめ効果だ。
だから陛下も車児仙も毒殺で解決しなかったのだろう。
そして、車児仙の握りつぶすなという警告。
情けをかけるなと言っているのだ。
「………御意」
「では、私は戻ります」
車児仙はそう言って去っていった。
ボクは手にある包みを恨めしげに見る。
ボクはあの時、陛下に付き従うと誓ったはずだ。
早速、迷ってどうする。
ボクは衛兵に
「入れろ。 王命だ」
と告げた。
衛兵はボクに敬礼をし、扉を開ける。
意を決し、ボクは中に入っていった。
「やあ、君がリーズだね。 はじめまして」
部屋に入ると王弟殿下は椅子に座りボクを見つめていた。
「お初にお目にかかります。 リーズでございます」
王弟殿下はにこやかに頷いた。
「兄上も粋なことをしてくれる。 私の最後を看取るのが君だとは…」
この兄にして、この弟というべきか。
陛下と同じ雰囲気。
なるほど、貴族に担がれるわけだ。
王弟殿下も盟主たる器を持っている。
初見だけでそれを感じる。
そしてボクがこの王家秘伝の薬を渡すことにより、この偉大な男は散るのだ。
なんていう役割をボクにさせるんだ、陛下は。
「話をしよう。 リーズ」
「え?」
「私がこの後に及んで逃げると思うか?」
王弟殿下は、優しく微笑まれた。
「有り得ないと存じます」
「なら、構わないだろう?」
「御意」
「私はね、兄上が好きなんだ。 もっとも尊敬した男なんだよ」
「同意いたします。 殿下」
「兄上の理想……。 それは封建社会の破壊。 それって普通の王族の兄上から出て来る発想じゃない。 人間、甘い汁を吸えればそれに越したことはないんだ。 自ら辛酸を舐めるのは勇気のいる行為だと私は思う。 君もそう思うだろう?」
「……御意」
「ボクもそれを支持する。 変わった王家の兄弟だと思わないか?」
「御意」
「それに至るまでには理由もある。 私も兄上も共通の娘に心奪われたのがはじまりだ。 リーズ、だれだと思うかい?」
その言い方から推察するに下々の娘だろう。
陛下たちの心を奪った娘か。
「旅芸人の娘だ。 お忍びで城下に遊びにいった時、旅芸人の芸をみたんだ」
「旅芸人ですか。 私も何度か拝見したことがあります。 芸をしながら旅をする……。 容易なことではありません」
「うん。 私たちも同じ感想だよ。 ちなみにどんな人が旅芸人になると思う?」
「金に困った親が子を旅芸人に身売りさせる。 娼館とは比べものにならない安値ですが」
「知っているのか」
「実家が貿易商なもので、そういう見聞はあります」
「まあ、その子もそのパターンだよ。 その子は言うんだ……。 自分は運が良かったって」
「娼館に入れられるよりは運が良かったかもしれませんね。 娼館というものは人としての誇りを捨てなければやっていけないと聞いております」
「彼女はまだ年齢が娼館で働くに適さない歳で売られたからね」
「………」
「だが、彼女たちの芸、一朝一夕で出来る芸ではない。 相当訓練したはずだよ」
「人に見せれる芸に達するのは至難の業です。芸 は人の心を掴まなければ誰も見向きもしない厳しい世界でありますから」
殿下はうんと頷く。
「全くだね。 私たち王宮育ちのボンボンには考えられない世界だ」
「確かに」
と頷いてしまった。
「正直だな、君は。 まあ、そのとおりだしね」
王弟殿下の顔がふと淋しそうな顔になる。
「知っているかい? 彼女らは黒パンの蜂蜜かけごときがご馳走なんだよ」
「……………」
旅芸人の末端は、そんなものだろう。
人権もない世界だ。
彼らの芸の稼ぎは上のものに行くシステム。
芸をするものには稼ぎが行き渡らない。
「おかしいじゃないか? 芸をしたのは彼女たちだ。 でも親方のみ、贅沢ができる」
「御意」
そのとおりだな。
いくら努力しても報われない世界だ。
ボクですら同じ感想をもつのだから。
「それから、兄上は変わった。 この腐敗した封建制度を壊すために」
「………なるほど」
しかし、その少女の結末はなんとなく想像できる。
旅芸人に売られた所で行き着く先。
男は奴隷か、最前線に赴く傭兵。
女はたいてい娼館。
良くて奴隷か。
親方らが金を得るためにさらにまた売り飛ばす。
旅芸人に売られるということはそういうことだ。
旅芸人の親方は独自の人身売買のルートを持っている。
売られた時点で人権はないのだ。
「ちなみにその子な、今はもういない」
「娼婦として、殺されましたか?」
「うん。 そのとおり」
王弟殿下は、椅子から立ち上がり窓を見つめた。
「兄上は、彼女の敵討ちをする。 私もそれを支持する。 リーズ、お前も手を貸してくれ」
「御意であります」
「そして、私の存在は兄上の、いや……、私達兄弟の大望の障害になる」
「殿下の存在は、貴族にとっての拠り所でございますからな」
「全く。 私は望んでおらぬのにな」
「ですが、殿下が担がれたおかげでサレア姫が担がれずにすみました」
「ああ、サレアは私達兄弟の宝だ。 あの妹を貴族どもの薄汚い欲望で汚す気にはなれぬよ」
「陛下といい、殿下といいご自愛が欠落しておりますな。 ウェンデス王家というものはボクら臣下にとってハラハラさせられます」
「そう言うな」
王弟殿下は、はははっと笑った。
「殿下。 殿下には死んだということにして、替わりに一民として生きるという選択肢もありますが、いかに?」
「面妖なことをいうな。 私は君の敵だぞ?」
「敵であろうと偉大な男を死なせるのは忍びありません」
「ははは。 それもいいかも知れない」
そして王弟殿下は、こちらに振り返った。
「だがな、私は私を盟主として担いだ貴族たちにそれでは申し訳たたないではないか」
「あなた様は貴族たちに無理矢理担がれたにすぎません」
「だが、担がれたのは私の意思。 貴族とともに殉じるのが、担がれた神輿としての最後の責務」
この男の意思をボクは曲げることはできないのか…。
この偉大な男をボクは殺したくない。
それが例え王命でも。
「自分の兄弟の死を願うのは、本意ではありません。 陛下とて同じ考えだと推察いたします」
「だろうね。 だから車児仙ではなく、君を遣わした。 兄上はそういう男だ」
王弟殿下は、椅子に座る。
「でも私の決意は変わらないさ。 さあ、そろそろ『執行』してくれないか?」
「………………なぜ、変わらないのです?」
「私がもし仮に生き延びるとする。 だが、それが新たな騒乱の種になることを私は知っている。 人間とは貪欲なものだ。 私の生存を嗅ぎ付けまた私を担ぐ可能性もある。 そんなことになったら今回のはただの茶番だ」
事実だ。
言っていることは最もなことなのだ。
「私の死は無駄にはならない。 君も理解しているだろう。 私の死によって我がウェンデスがどれだけの利を生むか」
確かに陛下以外の王家の人間を今回のように安々と担ぐことは困難になる。
それは内乱の危険が薄らぐ事を意味する。
内乱を続ける国は、支配力の低下を招き、国家の消滅を早める。
有史がそれを物語っているのだ。
「人間、意味のある死を迎える事が出来る者は本当に一握り。 私はその一握りになれるのだ。 名誉だと思わないか?」
「思いません……。死は生に対しての敗北だと心得ます」
「まあ、そんな意見もあるが、君からそんな事を聞けるとは思わなかったよ」
「確かにボクは、一度死を覚悟しています。 そして死に損ないました。 だから言えるのです」
「うん。 重く響く言葉だな。や はり君のこと、嫌いじゃないよ」
「光栄でございます」
「でもね、知っているかい? 私は生きていい人間ではないのだよ」
「…………………」
「兄上の理想にとって私は障害としかならない。 それを知って生きながらえることが君にはできるかい?」
「……………くっ」
ボクにはできない。
それが結論。
ボクは自分の出来ないことを殿下に勧めている。
実に滑稽だ。
「さあ、私にこれ以上生き恥を晒させないでくれよ」
万策尽きた。
この男を生かす術はボクには思い付かない。
ボクは懐から包みを取り出した。
「ああ、それが私の刑具なんだね」
ボクはその包みを投げ捨てたい衝動にかられながらも、その意思に逆らって机の上に置いた。
王弟殿下は、自分のグラスにその包みの中身を溶かして行く。
「なあ、リーズ」
「はっ…」
「兄上に伝えてくれるかい?」
「我が命にかえましても…」
「兄上の覇道、魂となりて見守り続ける…と」
「……確かにお伝え致します。 ………殿下」
「ん?」
「御心、静かに」
「ああ。 ありがとう、リーズ…。 そして兄上を頼むぞ」
「御意」
王弟殿下はボクの返事を聞いて、安らかに微笑んだ。
そして、グラスの中を飲み干す。
王弟殿下は、最後に笑って逝った。
ボクは王弟殿下の最期の言葉を陛下に伝えなければならない。
「そうか。 逝ったか」
「はい。 笑って逝かれました」
「そうか、笑ってか」
陛下は立ち上がり、後ろの壁に向く。
「陛下。 殿下から陛下に対する伝言を承っております」
「…………うむ」
「兄上の覇道、魂になりて見守り続ける……。 以上です」
「そうか……」
陛下は微かに肩を震わせている。
「ご苦労、下がれ」
「……御意」
そういってボクは下がった。
今回の投稿に関して、初めて後悔させられました。
メール投稿のため、カチカチと執筆していた矢先、画面がブツン…。
慌てて再起動。
そこにあったのは、冒頭のみ残った文章。
くぅおの!!馬鹿携帯がああああああ!!
保存は大事ですね。うん…
(´Д`)く俺の3時間が………。
さて、14話を読まれた方には似た文章をかいてしまい、退屈でしたね。申し訳ございません。
やっとリーズも陛下の思惑を知ることができたと理解いただければ幸いです。
殺す必要ないのでは、とご意見までいただいたフメロン殿下。
結局、死にました。
私も殺したくないキャラでした。
悩みました。
でも無理です。
死亡フラグがたっている男を殺さないのはそのキャラに対して情が移りそれは結局甘えでしかない。
断腸の思いです……。
などと考えた末の結末です。
厳しいご意見、ご感想お待ちしております。
m(_ _)m