フメレオン陛下14話
いきなりフメレオン陛下視点です。
これからの流れの上、必要かな…っと思い執筆しました。
番外編で書けばいいじゃんなどと思われる方がいらっしゃるかもしれませんがあえて本編に掲載させていただきました。
ずっとリーズ視点のままでいたい方にはオススメはしません。
これを読まなくても13話から15話は繋がります。
それでも構わない方のみお進み下さい。
追記いたします。
一応、警告はいれておきます。
女性にとって不愉快な文面があります。
ご注意くださいませ。
余はやり遂げなければならない事がある。
最大な不孝、親殺しをやってでもやり遂げなければならないことがあるのだ……。
「兄上、失礼しますよ」
我が弟にして、我が皇太子にして、政敵のフメロンが深夜、余の寝室に酒を持ってやってきた。
昼間は敵だが、夜くらいは昔みたいに仲の良い兄弟でもいいだろう。
「今日はナカラの20年物をお持ちしました」
「ナカラの? よくそんな良酒が手にはいったな」
ナカラは酒の名産地と知られる。
今はヴィンセント帝国に支配され、交易が滞っており酒はおろか、ナカラ産の商品は何もウェンデスには流れてこないのである。
「なに、闇ルートから流れて来たものです。 我々王族が進んで闇ルートと接触するのはいただけませんが、ナカラの美酒に敬意を評して兄上と私の秘密ということで治めておいてください」
フメロンはそういってグラスに酒を注いだ。
「どうぞ、兄上」
フメロンからグラスを受け取り、乾杯をする。
「そういえば、兄上。 なかなか面白い男を傘下にしたようですね」
「リーズの事か?」
「確かそんな名前でしたね。 あの男の登用を貴族たちは快く思っていません」
「お前はどうなのだ?」
「私は貴族らの傀儡です。 私の意見など、昔からだれも聞いてはいないですよ」
フメロンは苦笑した。
「だが、余はそちの意見を聞きたい」
「そうですね。 私の意見を申し上げるなら、ますます兄上側が怖くなりました。 私の終焉が近づいていることに違いないですからね」
「相変わらず、賢い弟だ」
「兄上まで貴族どもと同じ物言いですか?」
「事実、そう申したまでである」
「本当に賢い男は、貴族どもの傀儡などになっておりませんよ」
フメロンは遠い目をする。
「もう、この話は止しましょうか」
「そうだな……」
いずれ余は、この弟と雌雄を決さなければならない。
後の歴史学者どもは、王家の闇とでも評するのだろうな。
「そういえば兄上は覚えてますか? あのお忍びで二人で城下を回った時の事を……」
「ああ、余がまだ13で、お前が10の時の話だな。 覚えておる」
「あの時、身分がばれないよう二人揃って平民の恰好をして感謝祭を見て回っていましたね」
「あの時食べた、黒パンに蜂蜜を塗ったやつ……、なかなかな味だったな」
「ええ、おいしゅうございました。 あれは兄上がおごっていただけたんでしたね」
「抜け出す時に財布を忘れた馬鹿な弟が不憫でな」
「ははははは……。 あれは失態でしたよ。 まさか取りに戻るわけにはいかなかったからですからね」
「それはそうであろう。 二人して退屈窮まりない勉強を抜け出していったのだからな」
「爺は、血相かかえて私たちを探し回っていたそうですよ。 城内を……」
「まさか爺は、城の外に出たことを夢にも思っていなかったようだからな」
「兄上の脱出方法は奇抜でしたからね。 帰るまで発覚しませんでしたよ」
「そういえば感謝祭で思い出したが、感謝祭に来ていたあの旅芸人覚えておるか?」
「ああ、私たちと対して歳の変わらない子供らの旅芸人のことですね」
「動物使いの……、なんといったか、あの子は」
「確か、ミーシャでしたか。 親方らしき男に鞭で叩かれそうになったのを目撃した兄上は、親方の腕を剣でみねうちにして止めたんでしたね」
「あの時、お前が持っていた眠り玉がなければ、余はどうなっていただろうな」
幼きフメロンは財布を忘れておきながら、王家の護身アイテム眠り玉は所持していた。
眠り玉は、スリープよりはるかに効力が高い睡眠効果を持つ魔法道具で、魔力のないものでも使えるアイテムであった。
「備えあれば憂いなしですよ。 兄上」
なんでそんなものを持ってきたかと問うと、僕らは今、大冒険をしているんだから準備は万端なのですと無邪気に答えたんだった。
そのくせ、財布は忘れた癖に。
「あの娘のした身の上話覚えてるか?」
「ええ、勿論。 私たち王宮という温室暮らしのボンボンには考えられない話でしたからね」
ミーシャという少女の親は、とんでもないゴロツキでミーシャを当面の酒代がわりに旅芸人一座に売り払ったという。
年齢がもう少したっていたならば唱館に売られていたかも知れない。
だから私は早めに売られて運が良かったのだと。
「どこが運がいいのかと二人で呆然としていたな」
「全くです。 今まで私たちは下々の実情を知らぬ世間知らずなガキでございました」
「だが、あの子にとって旅芸人に売られたのは幸運だったといいきったものだったな」
「兄上は、彼女にあの蜂蜜黒パンをおごったんでしたね」
「こんな、高価なものいただけません……か。 いまだに覚えてる。 たがが蜂蜜黒パンだぞ」
「彼女にとっては、とてつもなくご馳走だったんですね。 ただの蜂蜜黒パンが」
「彼女の芸は今も覚えている。 あの華麗な動物使いは、一朝一夕の芸ではない。 余でもわかるほどの血が滲む努力の成果だ」
「そんな彼女にとって蜂蜜黒パンは、手の届かないご馳走ですからね」
「余は、それからこの封建社会に疑問を持つようになった」
「ええ」
フメロンは、溜息をついた。
「私に兄上ほどの強い意思があれば、このような構図は発生しなかったのにと、いまだに思います」
「余はな、あの子の結末を調べ知ってしまった」
「結末?」
「余が皇太子の権力を手に入れてひそかに調べさせた」
「………」
「ふん。 思い出すだけではらわた煮え繰り返る」
「…………私も、実はつい最近ですが調べましたよ。 結局、唱婦となり…、最悪な客の性癖の末、殺されたんですよね」
「最悪な客か……。 お前を擁立する貴族の一人だぞ?」
「情けない事に……」
「貴族以外は人に非ずか……。 彼女がいったい何をした……」
「彼女は、ただ生まれが不幸でした」
「生まれ……な」
「兄上、私は白状しますよ。 彼女は私にとって初恋の君でした」
「奇遇だな。 余もだよ」
「やはりですか。 そうではないかと推察しておりました。 兄上のなさろうとしていることは、壮大な彼女の敵討ちなのですね」
「私怨と笑ってくれても構わんよ」
「私個人としては、兄上を支持します。 私個人ではですが……」
「王家に生まれ落ちたからこそできる敵討ちだ。 余は、きっと成し遂げて見せる。 例え、最大の不孝者と罵られようとも」
「立派です」
「そして、父殺し……弟殺しと言われようとも」
「兄上……。 私の死を無駄にしないでくださいよ。私は冥府で兄上を応援しますので……」
フメロンは悲壮な目をして言った。
「そうそう、兄上……。 決断の時は近づいています」
「なに?」
「兄上を排除しようと、ついに運動が始まっております。 理由はおそらく、兄上の独断によって登用したリーズです」
「ほう?」
「議会を通さず、勝手に人事を決めたのが連中には面白くないのでしょう。 準備を怠りなきように」
「ふ……。お前ほどの最高の間者はいないな」
「私もおかげで演技上手になりましたよ。 貴族の傀儡に徹しています。 私の名台詞、父の仇……ってね」
「事が成せばお前と今生の別れか……」
「何かをなすには、何かの犠牲が必要です。 私は喜んで兄上の理想の礎になってみましょう。 私の一世一代の晴れ舞台……、とくとご覧あれ」
「ああ、余は生涯……、生涯……、我が心に刻むだろう。 余には、余には勿体ない果報な弟がいたことを……」
「では私は……、そろそろ戻りますが……、最後に一つだけ……」
「なんだ?」
「サレアのことです。 この手紙をサレアに事が終わった後、渡してほしいのです」
余は手紙を受け取った。
「これは?」
「サレアにとってこれから起こる惨劇は、醜い兄弟争いにしか見えないでしょう。 それはあの純粋なサレアにとって堪え難いことにちがいありません。 だからサレアには知っていて欲しいのです。 私の遺言として」
「ふん……。この妹バカが」
「私らの大事なかわいい妹の心が壊れるのは偲びない。 ただそれだけでございますよ、兄上」
「しかと、承った」
「兄上……。間違えても失敗しないでください」
「余とその陣営を舐めるなよ。 フメロン……」
「ええ、期待しております」
そう言ってフメロンは出ていった。
余もフメロンも、わかっている。
これが最後の兄弟付き合いだということを……。
「車児仙……」
「は……」
部屋の外で待機していた余の最も信頼の置ける側近を呼び出した。
「余たちを笑うか?」
「なぜですか?」
「聞いておっただろう? 余らの茶番を……」
「御意………、ですが改めて王家の闇に触れた気が致します」
「明日は頼むぞ……」
「御意……」
感想でご指摘頂いたのですが、科学レベルがわかりにくいとのことで、この場を借りて追記させていただきます。
世界全体の科学レベルは、欧州歴で換算しますとちょうど大航海時代と同程度の科学力です。
木造帆船に、大砲といったのが海の常識です。
が、ウェンデスにおいてのみ、特化しまくっておりまして大艦巨砲主義までのし上がっております。
なぜ、ここまで特化してしまったかは、ネタばれになるので言えません。
というか、気付いた人は気付いてしまいましたかね(-。-;)
ここまでこんな駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
厳しい感想などでも遠慮なくおっしゃって下さい。泣いて喜びます。