リーズ提督12話
会食が終わり、解散となった。
ボクは、会食に参加した将たちに挨拶をして、その場を後にした。
日も完全に落ち、ボクは暗い王城の廊下を歩く。
自分の足音が一歩一歩響きわたる。
幽霊など信じないが、なんとなく暗闇の恐怖感がボクの心の中を覆う。
「おい、お前!」
背後から低いトーンの声が聞こえる。
振り向くが、誰もいなかった。
空耳かな……、と再び歩き出そうとするが
「お前だよ、お前!」
先程よりやや、怒気の混じった感じはあるが同じ声がした。
ボクは改めて声のした方を振り向く。
やはり誰もいない。
急な環境の変化からくるストレスがこのような幻聴を聞かせ、自身の身体に警笛を鳴らしているのだろう……。
それに先程、滅多に飲まない酒を飲んだ。
それから推察し、幻聴であろうという結論に達した。
「無視をするな、無視を!」
……………。
幻聴なのか、本当に……。
誰かが声をかけてそのまま隠れてボクの様子を見ながら心の中で笑う。
ボクはうろたえながら声の主を探す。
そんな様を見ながら、陰で笑っている暇人の仕業なのかもしれない。
性格のねじまがった奴だ。
ボクは周辺をキョロキョロと見渡すが人影はない。
だが、どこかから視線を感じる。
どこから見てるんだ?
「下だよ、下!」
下?
ボクは下を見てみる。
するとそこには顔立ちの整った美少年といっても差し支えない少年がしかめっ面で立っていた。
「やっと気付いたか。 己は!」
なんというか…。
この、怒気、威圧感のある声はこの少年が放っているのか?
「なんだ! その顔は?」
しいていうなら、学年主任の先生が出来の悪い生徒に向かって威圧口調で話しているような……、ついでにいうなら新入社員の素行が悪いと主任にどうにかしろっと部長が威圧している時のような口調だった。
「い、いえ……。 何でもありません……です。 はい」
この威圧に不覚にも押されついつい敬語になってしまった。
「そうか……。 で、貴様……!!」
「は、はい」
「ナニをしている?」
ローテンポで威圧的に話され、この年下のガキに畏怖感を覚えたボクはさながら蛇に睨まれたネズミの如く緊張していた。
なんでこのリーズが、かつてファラス水軍中夫という地位にいたこのボクがこんなガキに威圧されているのだろう……。
かつて、死を恐れず特攻覚悟でウェンデス旗艦に突撃したこのボクが…。
ダラダラと冷や汗をかいていたら、
「ナニをしているかと、聞いている!!」
「いえ、これから帰宅しようかとしているところです……」
「そうか!! 帰るところだったのか!!」
語尾に力が入った口調がさらに威圧感を増す。
ボクはこのガキと話しているんだよな……。
なんなんだろう、このとてつもなく一風おかしい違和感は……。
そもそもこのガキは誰だ?
「あ、あの……」
「なんだ!?」
「え……えと、どなたですか、あなたは?」
そう聞くとさらに少年は顔をしかめて言った。
「名を尋ねる時は、先に自分の名を明かすのが礼儀というものだろうが!!」
こ、このガキ…。
いちいち正論できやがる上、この上なき威圧感。
「し、失礼しました。 自分はリーズと申します」
「階級は!?」
「い、いえ。 まだ先日仕官したてで正式な階級は賜っておりません」
そうなのだ。
陛下から仕えろと言われて仕えたはいいがまだ正式な階級を賜っていないのだ。
だから今はまだ客将の待遇に等しい。
「リーズ……。 お前があのファラスのリーズか!?」
旧ファラス軍部においてリーズという名前はボクしかいない。
「は、はい。 おそらくそのリーズです」
「そうか。 前々から貴様に聞きたいことがあった。 この場ではなんだから、一杯やりながら聞こう!!」
ボクに拒否権はないかのように言い切った。
………で、君の名前は?
このクソガキに先導され、ボクらは城門まで歩いていた。
すると、サレアお嬢さんがポツンと城門で立っていた。
そういえば、ファラスの事を教えると約束したんだったな。
サレアお嬢さんに気付いたクソガキが
「サレア!! 何をしている!!」
「……え?」
クソガキの怒号にサレアお嬢さんは一瞬ビクッとしてこちらを振り返る。
「あ、いえ……。 リーズ殿にファラスの事を聞く約束をしていまして、ここでリーズ殿を待っていたのですよ」
クソガキはボクとサレアお嬢さんを見比べて
「いつの間に知り合ったのかは置いといてだ!! サレアの目的がボクと同じなので同伴を許す!! 着いてこい!!」
そう言い放ったクソガキは、サレアお嬢さんの意思を聞かずに歩き出した。
何者だ、このクソガキは…。
サレアお嬢さんは溜息をつき、ボクらに同伴した。
やがて一軒の渋い感じが漂う居酒屋にズンズンと入っていくクソガキ。
ボクらもそれに続く。
「まずは飲み物を頼むか!」
クソガキが仕切る。
このままでは大人の威厳というものの示しがつかない、という奇妙な意地からボクが注文をとろうとした。
「すみません、お酒二つとサレアお嬢さんにジュースを……」
「待たんか、このバカモノが!!」
クソガキがボクの言葉を制した。
「今!! 貴様は、お酒二つと言ったな!! 一つは貴様が飲むとして、もう一つは誰が飲むんだ!!」
………え?
「まさかボクに飲ませる気か、このバカモノが!! ボクは未成年だ!! 未成年に酒を奨めるなど言語道断!!」
すっかり忘れていた。
外見は確かにチビで見た目は少年だが、このプレッシャーから年上と話している感がある。
言われてみればこいつは子供だった。
「あ、お酒一個取り消し……。ジュースをもう一杯……」
ボクは慌てて注文の訂正をする。
「ジュースは好かん!! 暑くて渋いお茶を持ってこい!!」
…………未成年を主張した割に妙にジジ臭いことをほざくクソガキだ。
「と、ところで……、私はあなたの名前を聞いておりませんが……、一体どこの何者で?」
威圧に負けながらも自分だけ名乗ってそちらが明かさないとは不公平だと抗議めいたボクの発言にクソガキは答えた。
「チューイというものだ!! 神童六人衆の一人だと言えば理解できるだろう!」
「なんです? その神童六人衆って?」
思ったまま聞いてみた。
するとクソガキ、もといチューイがクワッと目を開き、
「知らんのか!?」
と怒鳴った。
するとサレアお嬢さんが助け舟をだすかのように
「全国各地から優秀な子供を集めて、将来の人材を育成させているんです。 兄が王位についてから始まった政策で、六人の神童と呼ばれる子供が選ばれ育成のために城で様々な事を学んでいるんです」
「わかったか!?」
「ええ、だいたいは…」
だいたいはわかったが何故にこのクソガキに偉そうにされているのかがいまだに腑に落ちないが。
ん?
兄が王位?
「え、えと……。サレアお嬢さん……。 今、兄が王位とか言ってませんでしたか?」
「今頃、何ほざいている!! サレアは、フメレオンの妹だ!!」
「…………」
なるほど。
言われて見ればボクが迷い込んだ場所は王家の空間だった。
そこを歩いていたんだから王家縁の者だと推察するのは簡単な事だった。
そういえばあの時、迷ってしまっていたあまり、混乱を起こしその程度の状況判断を見誤ってしまったんだな。
と、いうかボクは王家の姫君に道案内させてしまった?
なんというマヌケ。
下手したら不敬罪だ。
ていうか、待て。
「というか、チューイ殿……」
「殿はやめろ! チューイでいい!」
「では、チューイ君。 畏れ多くも陛下を呼び捨てにしたどころか、陛下の妹を呼び捨てにするのはいかがかと思うのですが?」
「ボクはボクが敬意を評するに値するもの以外には敬語は使わん!」
「では誰に使うんで?」
「今のところ、該当するものはおらん!」
まあ、世間知らずなガキの一言だ。
いずれほっといても粛正されるだろう。
わざわざボクが矯正してやる義務もなければ、義理もない。
「さて……、つまむ者を頼むか! ボクは精進料理にする! お前たちはどうする!?」
「あ、じゃあ枝豆でも…」
「枝豆だと!?」
な、何かいけないのか?
「ボクも枝豆は好きだ。着たら貰うぞ!」
……………。
心臓に悪いガキだ。
「さて、脱線してしまったがそろそろ本題に入るとするか!」
「本題?」
このボクの余計な一言がクソガキの琴線に触れてしまった。
「貴様は!! 何をしにはるばるこの居酒屋に来たか、忘れたのか!!」
……ああ。
忘れていた。
ファラスのことを語る為だった。
というか、このクソガキの存在感に圧倒されてしまったんだから忘れてしまったのは仕方ないと思うのだか……。
「えっとファラスの事を語るんですよね?」
さて…。
何を話すか?
自分の国の事を話せと言われて、何を話すのが普通であるのか?
「えっと……、ボクの家はファラスでは結構大きな商人で、その家の力によって軍の中で中枢の位置に苦労なく就いたのですが…」
「何の商人だ!?」
「貿易商です。 主にスパイスやらを扱っていました」
「茶などは!?」
「茶も扱っています」
「倭国の、玉露は扱っておるか!?」
「……よく知っていますね、玉露のことを」
倭国は大陸のさらに東方に位置する島国で、その存在を知る人は意外と少ない。
倭国の民は、この大陸に移住してきて倭国の民の国家、オオエドという国を大陸東方に建国はしている。
東方から流れて来た漂流民というのが倭国人の印象だ。
彼らは独自の文化を持ち、彼らが倭国本土から運んで来た緑茶など、希少でその存在を知る者じたい少ない。
玉露とは緑茶の種類で、最高級に位置する。
一度ボクも実家で抹茶という物を飲んだことがあるが、ただ苦くてエグい味しかしなかった(何の知識もなくただ、適当に抹茶をティーカップに注いで飲んだためこんな感想をリーズはもっている。まあ、外国人に飲ませればこんなものかも知れない)。
「玉露も多少なりとも扱っていたと思いますが……、まあ……脱線したので話を戻します」
「うむ、続けろ!」
このガキは……。
脱線させたのはお前だろうが…。
「ボクは次男だったので店を継ぐ立場ではなかったため、軍に入ることになりました」
「安直だな!」
「他に選択肢がなかったのもあります。 次男以降は、軍に入るものだという風潮がありましたから」
長男は家督を継ぎ、次男以降の男子は軍へという風潮は、ファラス貴族みなやっていたことである。
うちの親父もそれを真似てボクを軍に入れた。
「で、入る時に騎士団か、魔法軍か、水軍かの選択をさせられて水軍に志願したのです」
「なぜ、水軍に!?」
「ボクは軍で他の貴族と共に遊ぶ気はなれなかったということですね」
「意味がわからん! もっと解りやすくかみ砕いて述べよ!」
「騎士団は、ただの貴族の社交場。魔法軍というのはただ無意味極まりない魔法を開発しては悦に入るだけの研究機関でした。 ボクもそれなりに向上心はありますし、腐りたくないという理由で辛うじてまともな水軍に入ったんです」
「国防の概念がすでに無かったのだな!」
「はい、だからあっさりウェンデスに滅ぼされたわけです」
「そうか! で、国の経済はどうなのだ!」
「経済……ですか」
ボクはファラスの情景を思い出し語り出した。
メールからの投稿のため、一話全角五千文字という制限のもと書いていたのですが、一話に収録できず、話半分で12話が終わってしまいました。
小説を書く媒体が携帯しかない以上、うまく小説になろうの機能を使えれば問題ないとは思うのですが、下手に触ってぐちゃぐちゃになるよりはと今回は妥協の末、話半分で終わってしまいました。申しわけありません
m(_ _)m
書きながら思っていたのですがクソガキことチューイをだしたのは失敗でした(°o°;;
脱線、脱線、脱線…。
書いてて楽しいキャラなんですが話の本筋を叩き折るこのキャラ…。
修正作業中、誤字をまたまた発見。(´Д`)
誤字がでないよう努力はしているのですが、パソコンに比べどうしても記入速度が落ちるうえの焦りと、おバカなマイ携帯の勝手な予測変換機能に翻弄されております。
ああ、パソコンがあれば……。
またこの場を借りてこんな駄文を読んでくださった皆様に感謝ですm(_ _)m