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リーズ提督10話

 自分の席を見つけ、ボクは腰をかける。

 ボクに視線が集中しているのはきのせいではないだろう。

 誰だ、あいつは? なら問題ないのだが……、どう考えてもボクが何しでかしたか、知っていて注目している。

 敵意というものがとてつもなく感じる。

 嫌な空気だ。

 車児仙殿が訪問してきた時、それとなく示唆された周りは敵だらけという意味…。

 今、まさに肌で感じる。


「……………………」


 不気味な位静かだ。


「フメレオン陛下のおなーーりーー!」


 陛下が評定の間を見渡し、玉座に座る。


「さて、ファラスを陥落させたわけだが、旧ファラス領にて不穏な動きがある。 ガチス王を蟄居させるまではよかったが、旧ファラス王家の亡霊どもが、王家の復権を狙い暗躍している。 さて、この問題をどうするべきか意見を述べよ」


「蟄居など生温い! 今後の憂いを断ち切るため、ガチスには処刑を!」


「だが、ガチスを処刑してしまったら、亡霊どもが徹底抗戦するのでは?」


「確かに……。 ガチスを蟄居に収めたのも、元を正せばファラスの反抗運動を抑えるためだ。 処刑したら主君の仇と称し、反抗運動が活性化するのが目に見えている!」


「だが、亡霊どもを大人しくさせる方法はあるのか?」


 占領後の地元住民の反感…。

 これを抑えるのは容易ではない。 

 さらに自分の母国の対応だけにボクはただ黙って聞いていた。

 ボクが発言したところでそれはファラスの擁護にすぎない。

 今でこそウェンデス仕官だが、先日までファラス仕官だった男だ。

 ファラスを擁護したい気持ちがあるのも事実。

 だがボクの発言は、ウェンデスの為の発言にはならない。

 ただの身内擁護にしかならない上、今ボクはウェンデスの仕官である。

 この世は乱世。

 弱肉強食の時代。

 勝者の評定で、ボクは勝者の将。

 ファラスへの同情はこの場において、自分の立場を悪くさせるだけであり、後々の為によくない。

 だから沈黙を選んだ。

 人間味がないと言われてもいい。

 ボクには、ウェンデスでやる事がある。

 そのために……。

 だが、先日まで主君と崇めていたガチス王への対応。

 ………正直、蟄居というのはホッとしている。

 前の主君が殺されるのは忍びない。


「ヴィンセント帝国と同じ手法を使うのが良案かと」


 車児仙がいった。


「かのヴィンセント帝国は強大な支配力をもって今なお君臨しております。 ですが元は、山海連邦の一国家に過ぎなかったのです。 何故、ヴィンセントがあれだけの広大な土地を治めることが出来るのか、それには上手い手順を踏んだからです」


「ヴィンセントはどのような奇策を用いたのか?」


 陛下は車児仙に尋ねた。


「占領した国家をそのまま併合せずに、改めて旧王をその地に置いたのです」


「下策! そんなことしたら、亡霊どもがつけあがるだけだ!」


「そうとも! 先のファラス攻略戦、我がウェンデスは莫大なる戦費を消費して勝利を収めた戦い。 ファラスどもに復権されるのは、ファラス攻略戦で散った英霊たちに申し訳たたぬ!」


「まあ、話は最後まで聞くものですよ、皆様」


 車児仙はにっこり微笑んだ。


「うむ、続けろ。車児仙」


 陛下はそう言い放ち、今だ文句を垂れている一同を制した。

 車児仙はゆっくり話し出した。


「皆様が心配しているのは復権ですよね。 ご心配なく……。そもそもガチスを王として置きますが、ファラス政権はガチス王のみ。 他のファラス人はファラス政権に入閣できません。 全て我がウェンデスの息がかかったものに入っていただきます。 そして王にも何の実権も与えません。ただの飾りとして、いてもらうだけです」


「傀儡政権か」


「御意」


「ファラスの貴族どもはどうする? 黙ってはいまい…」


「ファラス貴族には王都ジブリタスに移住してもらいます」


「移住? その後ファラス貴族はどうなる?」


「思想に問題がなければ平民として生かしておいてもいいでしょう。 ですが、過激な方々にはこの世から退場していただきます」


「それがわかっていて、貴族どもは王都ジブリタスにやってくるか?」


 確かに…。

 ボクなら来ない。


「来ないというならガチスを処刑するまでです」


「本末転倒だな、その策は」


「何を言ってるんです。 我らが処刑したら、我らがファラスの恨みの矛先を受けますが、我らは敢えて選択肢を提示したのです。 選ばなければファラス貴族がガチスを見殺しにしたということになります」


「つまり、ファラス貴族には拒否できぬというわけだな」


「はい、王を見捨てる貴族など、誰が支持しますか?」


 恐ろしい男だ、車児仙という男は。

 選択肢はあるようで実はないではないか。


「やがて、反抗運動が鎮静化したらガチスを廃位して、併合すればいいんですよ。 そうすれば、動揺が最小限ですみます」


陛下は車児仙をまじまじと見つめ、


「怖い男だ、車児仙。 お前の事だ。 すでに過激な者のリストアップは終わっているのであろう?」


「御意」


「しかも、貴族全部を始末しないところにこの策は意味があるのだな」


「復権の夢を持たせつつ、飼い殺しです」


 ?

 飼い殺し?

 どういう意味だ?

 周囲を見渡しても、真に理解しているものは少ないようだ。

 ボクもよく意味がわからない…。


「過激な亡霊どもは全て成仏か」


「罪状は扇動未遂罪。 対外的にも申し開きできる罪状です。 しかもでっちあげではなく証拠も握っておりますから」


「ふむ、その手で行くか。 何か意見のあるものはいるか?」


 シーンと静まりかえる。

 ボクの実家は貴族ではない、ただの商人である。

 親父は強か者なので、おそらくウェンデスに組み、益々商魂を燃やすであろう。

 祖国は客であり、客としての価値が無くなれば新たな客を捜す。

 客になる可能性の高いウェンデスに反抗などしないであろう。

 ボクの家族は大丈夫だろう。

 きっと……。


「では、そのように動くとするか。 車児仙は、その運動の責任者を命ずる」


「御意」


「さて、対外の情勢についてであるが……、リーズ」


「は?」


「そちの知る限りでよい。 ファラス西方の情勢を述べよ」


「西………。 つまり、ナストリーニ王国の事でございますか。」


「うむ。 そちはファラス軍の中核にいたもの。 そのファラス軍が得ていた情報を述べよ」


「私の知っているまででよろしければ……。 ナストリーニ王国より北方に位置するシルラビア王国という小国があります。 その国より北方には不毛の大地が広がっております。 そこに住まう、ヌーダン族という遊牧民がいて、たびたび南下してきては略奪行為を行っております」


「リーズ殿! 殿下は、ナストリーニの情勢を述べよと申されたのだ!」


 ふむ、いらない前置きは不必要というわけか。


「では、単刀直入に申しましょう。 ナストリーニはすぐに東進はないでしょう」


「単刀直入すぎるわ、このバカモノめが!!」


 名前も知らない、どこかの将に怒鳴られ、ボクはつい苦笑した。

 自分らがいらない前置きは必要ないという態度を取っておきながらそれはないだろう……。

 まあ、ボクも説明を省き過ぎた。


「では、簡潔にその訳を申します。 ナストリーニはシルラビアと婚姻関係を結び、同盟関係となりました。 ナストリーニは、ヌーダンを討伐すべく主力部隊を北上させております。 故に東進は今は無いと見解しております」


 と、おおまか過ぎる説明だが、だいたいのニュアンスは伝わっただろう。


「今はということはヌーダンを平定した後は有り得るということだな」


「御意」


「では、おぬしの見解で良い。 いかにして、ナストリーニ東進の備えをする?」


「ヴィンセント帝国と不可侵条約を結ぶべきだと思いますが…」


「そう簡単に事がなせるか!」


 あれ?

 東の情勢を彼らは知らないのか?

 ボクは多恵から聞いた情報だから、重臣は知っている事柄だと思っていたのだが…。


「いえ、今だからこそ可能ではないかと思います。 何故なら、ヴィンセント帝国の属国、ユハリーン王朝が民衆たちによってクーデターか起こり、新生ユハリーン王国が建国しました。 新生ユハリーン王国は、ヴィンセントの属国を破棄し、近隣のヴィンセント属国を独立させ、対ヴィンセント同盟を締結しております。 今やヴィンセント帝国の意識は自身の東方にありますから、完全に東方に意識を持たせるため、この不可侵条約、ヴィンセントは飛び付いてくるでしょう」


「ヴィンセントが東方を鎮めたら不可侵条約を破ってくるだろう?」


「互いに有益な条約にしてしまえば問題はないでしょう。 こちらからは軍事技術の提供。 あちらからは豊富な財源、資源を……。」


「しかし我らの軍事技術を提供すれば我らの手の内を明かすことに成り兼ねんぞ!」


「貴殿は、話を正面から捉えすぎますね。なにもかも全部提供するわけではないです。 そのように思わせるようにすればいいのです」


「………リーズよ」


 今まで黙って聞いていた陛下が声をかけてきた。


「そなたは、ファラス水軍の水軍中夫であったな……」


 いきなり陛下は何を?


「……御意でございます、陛下」


「なぜ、水軍中夫の地位に就いた?」


「私は貴族の出ではありません。 たまたま力のある商人の家に生まれたため、中夫の地位に収まりました」


 簡単にいうなら成り上がり。

 力を持った平民にすぎない。

 それがボクの出自だ。


「では何故水軍に?」


「ファラス三軍の中で唯一、軍隊として機能していたため、水軍に仕官したのですが…」


 ボクは、遊ぶために軍に入ろうと思ったわけではない。

 正直、ボクの目から見て騎士団にしろ、魔法軍にしろただ遊んでいるようにしか見えなかったから。

 ボクの兄貴のように、怠惰な生活をする気にもならなかったし、どうせ仕官するならば自分にとって有益な所がよかった。


「つまり、海戦戦術が得意という理由というわけではないのだな?」


「そうなりますね」


「車児仙よ……」


「はい」


「余たちは、運が良かった。 ファラスにおいて、リーズに与えられた権力が闘艦一隻だったという事が…」


「御意でございます、陛下」


「リーズよ」


「は……」


「なぜ、リーズの意見をガチス王は取らなかった?」


「それは私の身分でしょう。 身分の高い者がいう意見のほうがファラスでは真理ですから」


「だろうな。 我々がファラス進攻に備え、準備しているにもかかわらず軍事パレードをやっているくらいだからな……」


 やっぱり、陛下はあの無意味な演習を知っていたわけか……。


「では、ヴィンセントに使者を出すという方向で検討しよう」


 陛下は、時を見て、


「そろそろいい時間だな。今日の評定は閉会する。また明日、招集するので同じ時刻に集合だ」


 陛下はそういって評定の間から去っていった。

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