リーズ提督1話
ボクは仰ぐべき君主を間違えた。
名門ファラス王国に士官したリーズはそう思っていた。
ファラス王国は元々小国ながら数々の歴戦を勝ち抜き大勢力となった国であった。
やがて、近隣諸国を従属・併合して強国となっていたのである。
しかし、それは過去の栄光。
ファラスが誇る騎士団は様式美に捕われた貴族の社交場となり、水軍は威を誇るためだけの巨艦の増築にのみ心血を注ぎ、魔法軍は、実用性のない魔法開発をするだけの研究機関となっていた。
またどの軍にも悪い習慣とボクは思う世襲制をしき、軍として…、いや、国防軍として機能するのかと、不安になる。
ボクが士官した場合も、親がファラスの有力な商人という背景から士官が決まったものである。
周囲が平和なら問題ないのだが、ボクは一抹の不安があるのだ。
ファラスの西方、広大なナストリーニ砂漠のオアシス都市ナストリーニ王国が騎士団の造反により、滅亡に追い込まれた。
やがてナストリーニ騎士団は新国家を建設し、東侵してくるのではないかとボクは思っている。
そして、ファラスの北方に位置するウェンデス王国…。
王であった父を追放し政権を握ったフメレオン。
化学という学問で独自の軍隊をもち、軍備の増強を図っている。
ファラスの多くの重臣がこのニ国を軽視し、我が主君も同様であった。
「ボクは臣下として、我が主君にあのニ国の脅威を進言するべきだろう」
評定が始まる。
我が主君、ガチス=ファラスが重臣を集め国政を採る重要な会合。
ボクも水軍中夫の地位にいるので出席する。
この身分に若輩ながらいるのはやはり実家の権力であり、実力も何もない。
有力商人の次男坊。 ただそれだけの人事である。
実家は騎士団に入る事を強くボクに奨めたが、ボクはまだ軍隊として辛うじて機能している水軍に志願した。
「騎士団はこの度、藩属国家にファラスの威信を見せるために大規模な演習を企画しております。陛下、許可を承りたいのですが」
「演習であるか。ちと金が動くのぅ」
演習……。
ただのパレードみたいなものに成り下がっている演習が国益になるとも思えない。
ただ、金を使うだけの行事になる。
その金は、騎士団の実家や騎士団を指示する商家に下りる寸法だ。
悪習ともいえる騎士団の伝統。
「私は反対でございます、陛下」
「リーズか。汝は演習は反対か?」
「はい。 演習を行わずとも藩属国家との結び付きを強化する手法はございます。 外交をよろしく実行し、有事に備えるのが懸命かと」
「有事?」
「昨今、ナストリーニ並びにウェンデスの動向をみるかぎり、いずれファラスに侵攻してくると思われます。 藩属国家と強固たる結束と、富国強兵は急務かと」
「控えよ! リーズ水軍中夫!!」
演習を主張していた騎士シャアプルは怒鳴り出した。
「己の物言い、我がファラスがナストリーニ、ウェンデスに遅れをとるような物言いである!」
シャアプルは騎士団の団長であるため、発言力がある。
ボクも重臣の一人とはいえ、評定のなかでは身分は下位に位置する。
どんなに抗ってもボクの意見は我が主君に届かぬ限り黙殺されるだろう。
「ですが我がファラスは戦乱に著しく離れており、有事に機能するという保証もありません。」
「黙れ、コワッパ! 我が騎士団はファラス創立以来歴代王陛下と共に戦場を駆け、無敗を誇る伝統と実績がある! 不愉快である!」
伝統と実績だけで勝てるなら古代からの国は滅亡しない。
時代には時代にあった戦いをしないかぎり、国が滅びるのは明らかだ。
だからボクは引けない。
「ですが、我らの時代には前王らの功績により、久しく戦乱は起こっておりません。 我々は戦場を知らぬ世代であります。 そんな兵が有事に対応出来るでしょうか?」
「我らはファラス王国軍の英雄の末裔である! 後参の水軍将ごときがでかい口を叩くな!」
末裔?
そんなものが実際に役にたつと思っているのか?
偉大な先祖を持てば自分も偉大であるという考えがこの国をおかしくしている。