突然の出会い
3年後…
ある日の夕方、とある男子高校生、鈴森羅生は、人気の無い海沿いの道を一人で歩いていた。
「ああ…とりあえず能力が欲しい……」
夕焼け空を見上げながら、重い溜め息をつく羅生であった。
彼は無能力者であり、能力がないことをコンプレックスに抱いているのである。
「あーーーっ! 多少のリスクは勘弁するから俺も能力が欲しいなーーーっ!」
人気が無いので、羅生は大声で夕日に向かって叫ぶ。
いや、人は存在した。
大きなバックを肩にかけ、地面に付くくらいの長い白衣を着ていて、流れるような長い黒髪の美しい顔立ちをした、15歳くらいの少女であった。
何と、歩きながらカップ麺を食べていた。
(聞かれた!? この立ち食い少女に今の独り言を聞かれてしまった!? うん。でも立ち食いに夢中そうだし、人目をはばからず立ち食いをしているわけだから、何だかんだで同士だよね☆)
羅生はそんなことを心の中で思って立ち止まっていたら、少女は前が見えていなかったらしく、正面から激突した。
「す、すまん… 考え事をしてた……」
一応謝っておく羅生だが、それとは対照的に少女は地面に落ちたラーメンを指差した。
「これは、高級ラーメン店の味をリアルなまでに再現したラーメンのわけだけど、それをあなたは無慈悲にも落としてしまった。さあ、どうやって責任をとるべきだと思う?」
「……まあ、弁償くらいならするよ」
「答えは『私に土下座して謝る』が正解よ」
「意味が分かりません」
予想していなかった答えであったが、羅生は冷静に対応する。
「分からないのなら教えてあげる。あなたは私のカップ麺を落とした。これは終身刑、もしくは死刑に相当する罪よ。それを土下座で許してやろうって言ってるんだから、ありがたく思うことね」
「カップ麺落とされただけで死刑か…。お前の脳内法は随分とまた厳しいものですね」
それだけ言うと、羅生はその場を去ろうとする。
しかし、少女は彼の服のすそをその小さな手で握る。
「お嬢ちゃん離しなさい。俺は用事があるんだ」
「あなた、私を子供扱いしてる?」
少女は『コホン』と咳をすると、自分の腹部を指差す。
「さっきの罪は見逃してやるから、私に夕食をごちそうしてくれない?」
彼女がそう言うと、呼応するように腹部から独特の音が鳴る。
「…仕方ねえな。俺の家はこの近くにあるから、夕食くらいならご馳走してやるよ」
「最近はカップ麺ばかりだったから、それ以上の味がするものを頼むわね」
「はいはい」
羅生は面倒そうに相槌を打った。
羅生の家にて
「へえ……。なかなかいけるじゃない。米の研ぎ方が分かっているわね」
「一応自炊してるからな」
夕食はご飯と味噌汁と漬物であったが、少女は十分満足しているようだった。
そんな彼女を、羅生はじっと見つめていた。
「どうしたのそんなに私を見つめて?」
「いや、お前どっかで見たことあるような……?」
「そう。私に見とれて欲情してるのね。このエロ野郎」
「それは自意識過剰だ!」
「私は自意識過剰などではないわ。 それよりも、私をどこかで見たことがあるって言ったわよね?」
少女は腕を組みながら問い返す。
「ああ」
「それは私が高名な科学者、東条セレナだからかしら?」
東条セレナと聞いて、羅生は唖然とする。
「まさかと思ってはいたが… お前が東条セレナか…」
「いかにも私は東条セレナだけど、なんであなたはそんなにもショックを受けたような顔をしているのかしら?」
「IQ180の天才少女が一人じゃ何もできなそうな奴だったら、何となくだけど失望する」
「あなたってけっこう失礼ね」
セレナはそう言うと、手を口に当てて可愛らしいあくびをする。
「そういえば、ここ最近お前ニュースや新聞に出ていないよな。3年前くらいは見飽きるほどに出ていたのに」
羅生の呟きに、セレナは一瞬表情を曇らせる。
「私、今追われているの」
「は!?」
セレナの言葉に羅生は驚きを隠せなかった。
「追われてるって、警察とかに?」
「詳しく聞きたい?」
「言いたくなかったら言わなくてもいい」
「あなたって案外優しいのね。でも一応言うわ。
私はあることで政府の高官ともめて、彼を撃ち殺してしまったの」
数秒の沈黙の後、羅生は口を開く。
「撃ち殺した……ってことは殺人の罪で追われているのか」
「ちょっと違うわ。私を追っているのは政府の裏組織で、理由はこれの製造方法を知りたいから」
セレナは白衣から、一枚の紙を羅生に手渡した。
「これは?」
「魔薬…と言っても分からないはずだけど……。簡単に説明するとこれは私が開発した薬で、能力者のランクを上げるものよ」
「ランクが上がるってことは、DがC、CがB、BがA、AがSになる感じか」
「人によって違うから一概には言えないわ。私はB~Aだしね。他にも、無能力者が所用すると何らかの能力が目覚めるわ」
その言葉に、無能力者の羅生は素早く反応した。
「その薬、後生のお願いですから俺に一つ下さい」
「駄目よ」
しかし、あっさりと断られる。
「絶対に駄目……。とんでもない副作用があるから……」
「副作用くらいなんてことないぞ。どうせ飲んだらしばらく頭痛に悩まされるとかそんなものだろ?」
「あなたは何も分かっていないからそんなことが言えるのよ!!」
突如、セレナは食卓の上に拳を叩きつけた。
「わ、悪かった……」
「謝らないで。今のは私が勝手に感情的になっただけ。ごめんなさい」
頭を下げると、セレナは話を続ける。
「いきなりだけど、私の3年前の顔写真とか覚えてる?」
「…まあ、そこそこ覚えてるが…」
「何か変化しているところとかあるかしら?」
「よく分からないな。そもそも3年前の記憶なんて曖昧なところもあるだろうし」
「そう…」とセレナは消えるように呟く。
「私ってね、3年前と全く同じ姿なのよ」