第2話
「初めまして。私は日下部学園の学長を務めています、黒瀬真と申します」
入学式当日、他の生徒より1時間も前に呼び出された俺は、学長と対面している。
次期魔王という肩書から、もっとゴツい筋肉隆々男だと思っていたが、目の前にいる人物はまだ若く、細身だ。
「君限定の確認事項と注意事項を伝えるために呼び出しました。まず一つ目。君は、人間の匂いに対する耐性を身に着けていますね?」
「はい。俺は人狼として覚醒した後も、1か月の訓練を経て、人間として普通の中学校に通っていました。大丈夫です。」
覚醒した時は人間の匂いがすると
(食べたい)
という衝動に駆られていたが、覚醒後も半分は人間のままであったため、比較的楽に食欲を抑えることを覚えた。
「それは良かった。では二つ目。君はAクラスに入ってもらいます。ただし、君の兄上たちとの約束で人間の混血だということは伏せていただきます。」
これは兄たちから散々言われた。
(お前は神白家の恥だから)
だそうだ。
王家のプライドがあるのだろう。
心底くだらない。
「それから最後に。これが一番大事なことです。本年度、君と同じ1年Aクラスに赤城華音という生徒が入ります。それから3年生に彼女の兄が在籍しています。君はご家族から神白家と赤城家の関係について説明はありましたか?」
「はい」
父から大体の話は聞いた。
遥か昔、まだ両家の関係が良好だった頃のこと。
ある日突然、赤城の姫様が神白の姫様を殺すという大罪を犯したそうだ。
怒り狂った神白家当主は、魔王の指示を待たずして、直接手を下したらしい。
赤城の姫様は強大な魔力を持っていた。
加えて魔力の性質は炎。
一方、神白家当主の魔力は氷。
相性は最悪だった。
それでも死闘の末、神白家当主は勝利した。
ここまでは良かったのだが……。
体力の限界を感じた神白家当主は、目の前の赤城の姫様の亡骸を食べることによって何とか命を繋いだらしい。
これを聞き、赤城家当主は神白家当主を非難した。
当事者が死んでしまった今、真相を知ることが出来ない。
我が娘を殺した神白家当主は判断を誤った、と。
魔王が仲介し、何とか両家の戦争に突入することだけは避けられたのだが……。
事件の後に生まれた神白家当主の子供から、異変が起きた。
赤城家のヴァンパイアの血肉と魂に、強く惹かれるようになってしまったのだ。
赤城以外にもヴァンパイアの血筋は存在するが、そちらには惹かれない。
赤城の血のみに反応した。
原因は分からない。
ただ、事件の後に起こったので、当主が赤城の姫様を食べたことが原因だろうと。
現在に至るまで両家の子孫たちは何度もぶつかり、時には殺し合いも起きた。
俺にもその血が色濃く受け継がれていると。
「じゃあ、話は早い。彼女を襲わないよう気を付けてくださいね。私としても、これ以上両家の関係悪化は望みませんので」
「はい。大丈夫です」
と返事はしたものの……。
実は、俺は今まで一度も赤城のヴァンパイアに会ったことがない。
まあ、心配もあるが俺の半分は人間だ。
だから覚醒の時と同様に、すぐ耐性が付くと思っていた。
この後、俺は自分の認識が甘かったことを痛感する。