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 午前中の授業を終えて昼休み。

 伊織は携帯を取り出し、なにも変化がない待ちうけ画面を確認する。

 朝の水樹からの返事には、『ありがとう』とだけ返しておいたが、それっきり特に返信はない。

 その後も授業の合間に意味もなく携帯をチェックしてしまったりと、我ながらちょっとおかしい。


「あれ、牧野さん今日お弁当は?」

「今日はちょっと、忘れちゃって……あはは」

 

 席にやってきて声をかけてきたのは、葉山美歩。

 一見地味めでおとなしいが、いざ仲良くなるとよくしゃべる気さくな子だ。

 中学が一緒だったのだが、中学時代はお互いほぼ面識はなかった。

 高校で同じクラスになりどこかで見た顔だな、ぐらいに思って、それでちょっと話しかけてみて仲良くなった。

 こういうとき男子はわりと一人で食べている人もいるが、女子の一人はキツイ。

 だから早めに運よく友達を作れたのは僥倖だった。

 美歩はいい子だし、趣味もちょくちょく合うしなにも問題はないのだが。


「なにいおりん、弁当忘れたの~? 超ドジっこじゃん」


 ついでやってきたのは、篠崎茜。

 彼女は当初、クラスでも最も目立つ女子グループにいたと思うが、ハブられたのかなんなのか、急に絡んでくるようになった。

 仲間から外された子は、下のランクのグループに入るというがこれがまさにそうなのだろうか。

 もともとのきっかけも特になく、ただ席が近くてむこうが一方的に話しかけてきただけ。

 そこまで嫌というわけではないけど、なんかちょっと、めんどくさい。

 それは美歩も感じているだろうが、口には出さない。茜が来るとたいてい、急に美歩の口数が減る。

 服装検査には問題ない範囲で小綺麗にしている美歩にたいし、茜はスカートの丈も髪の色もギリギリセーフぐらいの垢抜けた感じ。

 こんな二人が揃うとどうにもアンバランスだ。

 

「今日はちょっと寝坊しちゃって……」

「そなんだ、珍しいねー」


 昼食は母親が作るか、自分で作るか買うかして用意するの半々。

 ただ、本当なら休んでいたかもしれないので、今日はそのどちらでもなく用意してこなかった。

 面倒だけど買いに行くかしないと。

 

「ちょっと購買でパンでも買ってこようかなと……」


 言いながら席をたとうとすると、不意に現れた第三者が伊織の机に影を落とす。

 美歩と茜の視線がその人物にいったので、何者かと伊織も同様に見上げると、

  

「僕も今日お弁当持ってきてないんだよね」

「ひっ」


 思わず変な声を上げてしまった。

 ガタタっと椅子の音をたててずっこけそうになる。

 いつの間にやってきたのか、妙にさわやかな笑顔を浮かべた水樹が、他の二人と同じノリでそこに立っていた。


「奇遇だなぁ、お弁当ないんだよね」

「なっ、なによあんた、なにしてんのよ!?」

「昼休みですがなにか?」


 一体どういうつもりか。

 水樹が伊織のクラスにやってきたことなんてこれまで一度たりともなかった。

 高校入りたての時に、お昼一緒に食べようか、みたいな話をしたら「あ、いや大丈夫です」とかなんとか言われて断られた記憶はある。


「あらら~? いおりん、これはこれはどちら様でしょうか?」


 茜が意味ありげな笑みをこちらに向けた後、しげしげと水樹のことを観察する。

 こういうのがあるから嫌だったのかな、と今ならあの時断ってきた水樹の気持ちがわからないでもない。

 茜は見るだけでは我慢できなかったのか、なれなれしく水樹に声をかけた。


「え、なになに、いおりんとどういう関係なの?」

「父さんに朝ごはんを用意するから、弁当を作っている時間がないとか言われちゃって」


 だが水樹は無視してこっちにしゃべりかけてくる。

 無視というよりかは、自分が話しかけられているとは思っていないのかもしれない。

 この状況をどう処理したらいいかで頭が混乱していると、それまで黙っていた美歩が突然口を開いた。


「な、長瀬君、ひ、久しぶり……」


 美歩が水樹の名前を知っていたことに驚く。

 だが彼女も同じ中学なので、名前ぐらい知っている可能性は十分ある。

 さすがに名前を呼ばれては無視できなかったのか、水樹は美歩に視線を返す。


「ん? 誰だっけ……」

「あの、私、葉山だけど……、中三のとき、い、いちおう同じクラスだったんだけどね……」


 まさかの同じクラス。

 そういえば前に水樹に、クラスに同じ中学の子がいるんだよ、ぐらいは話したと思うが、特に関心をしめされなかった。


「ああ~、なんか、見たことあるかも?」

「ていうか、隣の席だったこともあるんだけど……」

「あはは、ほんとに?」

「ああ、でもあのころは私眼鏡かけてたし、髪型も違うから……」


 あははで済むのか? 無礼なやつだ。

 だが美歩も一緒になってくすくす笑っている。


「長瀬くんも同じ学校って知ってたから、声かけようとしてたんだけどなかなかタイミングがなくて。せっかくだから、な、仲良くしようかと思って、あ、ほら、牧野さんも同じだし……」


 これまで水樹のことなんて全く話題に出してこなかったのに、そんなことを考えていたなんて知らなかった。

 美歩はそんなキャラじゃないと思ってたのに……。

 だけど緊張しているのか、声が少し震えている。


「なに美歩っちも知り合いなの? なんだよー、そうやっておな中同士ずるいなー、あたしだけハブられてるじゃん」

「オナ中……?」


 水樹が一つの単語に過敏な反応を見せている。

 どうせくっだらない下ネタでも考えてるんだろう。


「いいじゃん、なんか楽しそうだし仲間外れにしないでさ、あたし篠崎、茜ね。あかりんって呼んでもいいよ」

「あかりんのくせに存在感がすごいね……」

「ん? それどういう? とにかくよろしくー」

「いや、その、オナ中の人たちとはちょっと……」


 水樹が若干引き気味に言葉を濁す。

 茜のノリが苦手でごまかしたのか、ただのバカなのか。


「……これってそういう集まり? こうやって集まるなんてなかなかすごいね」

「いやあたしは違うっての」

「え? だって仲間に入れてって……」

「は?」


 話が絶望的にかみ合っていないようだ。

 絶対に解説したくないので黙ってスルーする。

 正直言ってこの二人はとても合いそうにない。


「……うーん、伊織はいいとして、葉山さんは意外だな」


 水樹が一人でぶつぶつ言っているのが聞こえた。

 あとで殺す。

 このままだとろくなことにならなそうなので、さっさと水樹を隔離する方向を選ぶ。

 

「わ、わかったわ、水樹もお昼買いに行くっていうんでしょ? ならさっさと行きましょ。じゃ、ちょっと行ってくるね」

「あ、わ、私も、付き合うよ」


 席から立ち上がって水樹をせかすと、それを呼び止めるように美歩が言った。

 おそらくこのまま茜と二人で残されるのが嫌なのだろう。

 自分がいないところで二人がしゃべっている姿を伊織はほとんど見たことがない。


「えー、じゃあ、あたしもついてくー」


 茜が乗り遅れまいと声を上げる。

 やはりそうなると思った。こんな大所帯で行く必要なんてないのだが……。


「さすがにオナ中同士の結束は固いな……」

 

 また水樹がバカなことを言っているので、軽く肩をこづいて早く行けと背中を押す。

 すると、すぐ後ろでこそこそ茜が美歩に何か耳打ちするのが聞こえた。

 

「今の見た見た? あの自然なボディータッチ。これは怪しいですぞ」

「あ、あはは……」


 そんな風に言われてしまい、顔が熱くなるが、聞こえないフリをして水樹の後に続く。

 しかし、なんで今日に限って水樹が……。確かに今日は朝から様子がおかしいが。

 でも朝は散々ほったらかしにしたくせに、どういうつもりなのか。


「あっ、いた! おい待て!」


 廊下に出てすぐ、シャツの裾をだらしなく出した男子がこちらに向かって声を張り上げた。

 思考をさえぎられた伊織が何事かと思っていると、彼は水樹に近よっていきなり食って掛かった。

 

「お前なに逃げてんだよ、飯オゴリって言っただろ!」

「いやいや、あれはだいいちさ、そっちが勝手に帰ったのが悪いじゃん」

「違う違う、そういうことじゃなくてだな、お前が弥生ちゃんと二人きりの時間を共有したっていうことがな、もう罰金なんだよ」

「また気持ち悪い言い回しするね……。別に、そんなに面白いことはなかったよ」

「あー言っちゃった! そういうこと言っちゃう? これはもう弥生様にチクり決定だわ、はっ、お前も終わったな」

「まあ別にいいけど……」

「うわ出たよ、またその余裕な感じがまた腹立つわ~、なんだよなんなんだよもう」


 まったく話が見えないが、この男は何者だろう? 水樹の友達なのだろうか……?

 なにをそんなに騒いでいるのか……? なぜくやしがっているのか?

 そしてその眉毛は成功なのか失敗なのか……?

 などと伊織がさまざまな疑問を浮かべていると、ふとその男子と目が合った。


「あ、牧野伊織……」


 ぼそっとフルネームで名前を呼ばれた。

 この男にそうやって名前を呼ばれる筋合いはないのだが。

 この手の輩は、過去にさんざん自分にちょっかいを出してきた奴らとダブる。

 それなりの相手には、それなりの態度を。

 というか、自分でも無意識のうちに自然とそうなってしまうのだ。

 伊織は眉一つ動かさず、まっすぐ鋭い視線で相手を射抜きながら、短く一言だけ返す。


「なに?」

「あ、いや、なんでも、ないっす……」

 

 向こうはあわてて目線をそらした。

 水樹が少し驚いた顔でそのやり取りを見ていたので、またやっちゃったかな? という感じで軽く微笑もうとしたが、水樹も目をそらしやがった。

 ……そんなに怖いか?

 これは絶対後でネタにされる。

 微妙な空気になっていると、後ろから茜がやってきて素っ頓狂な声を上げた。


「わー、なんかチャラそうなのに絡まれてる~」

「なんだよ、そっちこそチャラいっしょ、その髪アウトじゃねえの?」

「は~? そっちだって髪型キメすぎで必死じゃない?」


 虫の居所が悪そうだった男子は、絡みやすそうなのが来たとばかりに、茜に食いついていく。

 すぐにあーだこーだと言い争いが始まった。

 それを尻目に、水樹がすました顔でうながしてきた。


「さて、今のうちに行こうか」

「え? ああ……そうね」


 茜を身代わりに置いて行くのは悪い気もしたが、なんやかんやで波長が合うのか、楽しそうに見えなくもない。

 もはや我関せずとさっさと場を去る水樹の後について、伊織は購買に向かうべく階段を下りていった。

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