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 その後も妹たちの妨害は続いたが、それにいちいち付き合っているときりがないので僕たちは強引に家を脱出した。

 正確には限界に達した伊織が、なかばやけくそ気味に僕の腕をひっつかんで逃げてきたんだけど。

 

「あんのクソガキどもなんなのホント腹立つ! いつかゼッタイ泣かす!」


 激しい怒りによって目覚めた伊織の真の姿。

 肩をいからせ、大またに僕の一歩先をずんずん歩いていく。

 しょうがないからここは一言フォローを入れておこう。

 

「いや大丈夫だよ、さっきの伊織……」

「さ、さっきのは忘れなさいよ! あれはちょっとふざけてみただけで……!」

「かわいかったよ」

「えっ……」


 ピタっと伊織の歩みが止まる。

 あれ、なんかマズったかな……。

 でも正直に「すごくブサイクだったよ」……って言ったら殺されるかもしれないし。


「は、はあっ!? あ、あ、あんたねえ! さっきのに関してこれ以上言ったら殺すわよ!」


 なんだよ……、せっかく無理やりフォローしたのに、またそんな顔赤くして怒鳴らなくてもいいじゃないか。

 どっちにしろ怒られるんだったら本当のこと言ったほうがよかったかな。いや、でもやっぱそれはダメだ。

 むかしちょっとしたケンカの時にブスって言ったら半殺しにされたのが僕の中で軽くトラウマになってる。

 たしかそれは中学に上がる前とかそれぐらい小さい頃だったかな。今や僕も分別ある年頃だから、たとえ言い合いになってもそれだけは禁句にしてきた。

 

 伊織はブサイクのくせに私ブサイクだからっていう感じを全然出さない。

 ブサイクなりにもやっぱりプライドがあるんだろう。

 それか自分がブサイクだという自覚がないか。

 さすがにそれは考えにくいけど、それに関しては雫や泉も同じなんだよな。

 僕なんかはもう完全にあきらめの境地にいるから平気だけど、女の子はなかなか認めたくないものなのかな。

 

「も、もう言わないよ……。でも伊織今日はけっこうガマンしてたじゃん」

「そりゃおばさんもいる手前、あそこでブチキレるわけにもいかないでしょ!」

「だからべつに伊織がさ、朝からウチに顔出す必要ないって」

「だってあんた遅刻するじゃない。それにどうせ通り道だし」


 妹にジャマされて遅刻してしまうことが何度かあった。

 まだ高校に入って一ヶ月ぐらいなのに、これはあまりよろしくない。

 僕たちは普段学校までバスで通学している。お互いの家は歩いて三分程度。確かに伊織にしてみれば、僕の家は最寄りのバス停までの通過点上にある。

  

「にしてもさ、ほんと今さらだけど、なんで伊織は蓮ヶ丘にしたの?」


 蓮ヶ丘とは僕らが通う蓮ヶ丘高校のことだ。

 僕にしてみれば伊織がこの学校を選んだのは意外だった。


「そ、それは……、そこまで遠くないし、私の学力的にもちょうどよかったし」

「っていっても伊織って結構バカだったよね?」

「殴られたいの?」

「成績あんまりよくなかったよね?」


 そこまで詳しく把握していたわけじゃないけど、伊織にしてみればとてもちょうどいいとはいえなかったはず。

 蓮ヶ丘はこのあたりではそこそこ偏差値の高い進学校だ。かなり厳しかったはずだ。

  

「花垣高とか、もっと近くていいところあったのに」

「そ、そんなの私の勝手でしょ! だいたい花垣高とか、あんたに負けたみたいでイヤだったのよ!」


 僕はこれでも安全策をとってレベルを落としたんだけどね……。 

 僕はブサイクならせめて頭だけはと思って普段から勉強はよくしている。自分で言うのもなんだけど地頭もいいほうだと思う。

 中学の時は学年でも常に二十番以内には入っていた。

 それにあんまりいい点ばっかりとって目立つのもイヤだったから、ところどころ手を抜いたり……とかやってたっけ。


「まあ別にいいや、それならそれで」


 よかった。

 もしかしたら僕と一緒の学校に行きたいとかいうふざけた理由で志望校を変えたわけじゃなかったんだ。

 だいたいそんなわけないよな。僕みたいなブサイクがどこに進学しようが知ったこっちゃないだろうし。

 きっと伊織も僕と同じ勉学の道を選んだに違いない。

 

 そんなことを考えながら歩いているうちにバス停までやってきた。小さいバス停なので他に待っている人はいない。

 時間的にもあと少しでバスが来るころだ。

 僕は意味もなく一度ポケットから携帯を取り出した後すぐにしまい、ぼけっと道路をながめながらつったって待つ。

 そういえば伊織のやつ、なぜかさっきからずっとだんまりしてるな。ここは適当に冗談の一つでも飛ばしてやろうか。

 

「いや~てっきり僕が行くからってそこに合わせたのかもって「でも……、ほ、ホントは……水樹と一緒の学校に……」

「……は?」

「……え?」


 お互い顔を見合わせる。

 すると近距離でバッチリ目と目が合ってしまった。

 すぐに伊織はさっと右に視線をそらしたあと、露骨に顔をそむけて、

 

「って、い、言うとでも思った!? ば、ばーか! そっ、そんなわけないでしょ!?」

「う、うん……。……あ、バス来た」

 

 なんだ今の……。

 なんかちょっと……イラっときた。


 いやこれは違う、別に伊織がブサイクだからとかいうわけじゃなくて……。

 リアルのツンデレが不愉快なだけで、伊織は全然悪くない。

 むしろ悪いのは僕のほうだ。そう、僕の心がすさんでるんだ。一瞬食われるかと思ったとか、冗談でも考えちゃいけない。

 本来ここはニヤニヤをこらえるけどこらえきれなくて思わず顔に出てしまい「なに笑ってんのよ!」ってこづかれるシチュエーションのはず。

 

 ああ、でもそれはアニメとかの話であって……やっぱり僕も相当毒されてるな。

 だいいち今のをツンデレだとかそうやって勝手にレッテル貼りするのもよくない。伊織がそういうボケをかましただけなのかもしれないし。

 ここはとやかく考えず、自然にふるまうのが一番だ。



 そうして僕は、無表情のままやってきたバスに乗った。


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