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 目が覚めると部屋の中はすっかり暗闇だった。

 いつの間にか眠ってしまっていたようだ。にしてもまたおかしな夢を……。最後のほうは完全に悪夢だ。


 そうだな……、今のは、雫と泉が初めて伊織と会った時のことだろう。細部は違うだろうけど多分あんな感じだったと思う。

 しかしあの三人が仲良さそうにしているのはやっぱいいな。なんていうか……見てるだけですごく癒される。

 それがなんで今はビッチとかおばさんとか、かたやあのクソガキとか言うようになってしまったんだろう。

 時の流れは残酷だ。いやほんとに。


 あれ、今何時だろう。

 体を起こしてとりあえず部屋の電気をつけようとすると、どたどたっと足音がした後、ぱっと部屋の電気がついた。


 まぶしさで一度閉じた目を開くと、部屋のドア横に人影を発見した。電気をつけたのは雫だった。

 軽く寝ぼけていた僕は、この不思議な状況にしばらくハテナマークを頭に浮かべていたが、じつは何も難しいことではない。

 つまり、雫がなぜか暗闇の中この部屋にいて、僕が起きたから慌てて電気をつけた、ということだ。


 ちら、と机の上の時計に目をやると、時刻はもう七時前だった。雫が帰ってきていておかしくない時間だ。

 僕はベッドから立ち上がり、決まりが悪そうにしている雫に向かって声をかける。

 

「……雫、なにしてたの?」

「ち、ちょっとおかえりなさいのキスを……」

「なんだよそれは……。帰ってきたのはお前の方じゃん」

「え、えへへ……」


 断っておくが僕は妹と日常的にキスをするような変態じゃない。

 雫は口ではいつもふざけてあんなこと言うけど、実際に行動に移したことはない。はず。

 なんでもギリギリで寸止めして、あわてる僕の反応を見るのが楽しい、らしい。

 しかし雫のヤツ、よくもまあ暗闇の中で……ホントなにしてたんだか。


「も、もうちょっとだったんだけどなぁ~、急に起きるんだもん」


 昨日あんなふうになったくせに、昨日の今日でよく言うよ。口だけは達者なんだよな。

 そうだ、昨日の……。

 僕が雫を押し倒して危うくキスしかけたアレ。

 あれから特に何も触れてないけど……やっぱこのままなかったことにっていうわけには……いかないよなあ。

 まあちょうどいい、ここはうまく話に乗っけてごまかす方向で……。

 

「そんなこと言って雫……、昨日僕がちょっと、ふ、ふざけたらビビってたくせに」


 僕ができるだけおどけた調子でそう返すと、雫は体をびくりとさせた後、うつむいて黙り込んでしまった。

 げっ、なんだこのリアクション……。

 僕の見立てでは「別にビビってないし! じゃ今する?」「しないって。はいはい、もういいよ」ってなるはずだったのに……。


 そして沈黙が続く。

 ヤバイ、またしてもこの感じ。早くなんか言わないと……。

 

「……き、昨日のことなんだけどね」


 僕が一人焦っていると、不意に雫が顔を上げあさってのほうを見ながら口を開いた。


「いきなりでちょっとびっくりしちゃって……。その、……やっぱりキスだけは特別だし……」


 雫は体をもじもじさせながら少しずつ言葉をついでいく。

 いつもの雫らしからぬ態度だ。

 というかなんだ、そのすでに体は許してるみたいな言い方は。

 確かに口にキス以外はかなり自由にやってくるけどそういう論理があったのか。なんか複雑だなあ。


「そんな兄妹でなんて……ってわかってるけど……、でもお兄ちゃんが……、雫のこと……本気でその、あ、愛してくれてるなら……」


 何を言い出すかと思いきや、本気で愛って……。

 なんだなんだ、そういうことか。

 またあやうくからかわれるところだった。まったく勝手に早とちりして……、僕はなにをバカな想像してるんだ。

 しかし雫の演技もずいぶん幅が広がったなあ。これは案外役者とか向いてるんじゃないだろうか。

 

「はいはい、もういいよ、わかったわかった」

「……えっ」


 さらっといつものノリで流してやると、雫は口を開けたまま固まった。

 どうやら渾身の演技をあっさり見破られてショックだったようだ。


 せっかく熱演してるところ悪いけど、いつまでも雫のお遊びに付き合っていてもしょうがない。

 そんなことより今の僕にはどうしても気がかりな事がある。

 やっぱりこれを早いところはっきりさせておかないと、ろくに勉強も手につかない。


 なに、大丈夫だろう。雫だってこれだけふざけてるんだから、僕もこのノリで軽く……。

 だいたいそこまで過剰に妹に気を遣うこともないのかもしれないし。

 ……うん、そうだよ。兄妹なんだからこんなことぐらい、もっとオープンに行くべきだったんだよ。

 

「それより雫、僕もちょっと聞きたいことが……、まあその軽く確認っていうかそんな感じなんだけど」


 雫はなおも放心状態っぽくなってて反応がいまいちだったが、気にせずそのまま続ける。


「僕は雫のことかわいいと思うし、好きだよ」

「あ……、う、うん!」

 

 雫の顔がぱあっと明るくなる。今にも抱きついてきそうな雰囲気。

 変な方向に行ってしまいそうなのでちょっと修正。


「あ、いや、その……かわいいって言っても、ホントはそんなにかわいくはないよ? あくまで妹としてかわいいってことであって」

「そ、それってどういう……」


 ふたたび一転して雫の顔が曇る。

 ちょっとそんな顔されるとやりづらいな……。


「えーっと、なんて言えばいいんだろうな……、難しいんだけど……、そう、こう見た目だけで客観的に判断した場合」

「客観的?」

「うん、まあ……公平にね。その場合、お前って……どっちかというと言うと……その……」

「……なあに?」

「ブ、ブスだよね?」

「へ?」


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こいつ言いやがったwww
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