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 やがて両腕にとりついた妹たちによる胸の押し付け合いが始まった。

 でも僕は妹に迫られて興奮してしまうような変態じゃないのでなんともない。

 不覚にも体が反応してしまうということはないし、最悪二人の顔面を見つめていればいくらでも乗り切れる。


 どっちの方が胸が大きいかとかいう言い争いに発展しそうなとこで、僕は二人を振り払ってリビングへ。

 もういいかげん、学校に行く準備をしなきゃ。


 はあ……、やっぱり朝っぱらから二人同時攻撃は別の意味でちょっとこたえる。

 もしこれがアニメとかラノベだったら……きっと二人ともかわいくて……まさに天国みたいな……。

 

 けどそんなものはただの妄想だ。現実はこんなものだ。そう、僕の妹はブサイク。

 ただし誤解しないでほしいのは、僕は妹たちのことは普通に好きだ。

 見た目だけで嫌うのはよくないし、なんせこれだけ慕われてるんだからね。

 強がりでもなく、心の眼で見ているとかでもなく。い、いや強がりじゃないよ、決して。

 ただまあ……、ちょっと残念だなっていう気持ちがなくはないかもしれない。


 と言ってももちろん「お前たちはブサイクだ!」なんてはっきりと彼女達に向かって口に出すことはしない。

 いくら家族だからといっても最低限の気遣いはすべきだし、なによりもそんなことしたらかわいそうだ。

 それになにをかくそう僕自身が、それはもう笑っちゃうぐらいのブサイクなのだ。ブサイクがブサイクを笑うことほどむなしいものはない。

 要するに一家揃ってブサイク。悲しいけど、これブサイク家族なのよね。だからもうしょうがない。

 

 二人は中学生で、僕は高校生。僕は二人より家を出る時間が早い。僕は二人より一足先に準備をしなければならない。

 朝食にトーストを二枚かじって、後は着替えと身支度だけだ。 


 洗面所に向かうと、鏡の前に陣取って雫と泉がしきりに髪型を気にしている。

 雫は髪の毛を二箇所で結わえて、泉はセミロングの髪をさっさととかして。

 いっちょまえに髪型にも気を使っているみたいだけど、まったくそんなことしてもムダだっていうのに。

 あっ、今のは違う、ブスのくせにウザいとかそういう意味じゃないから。

 二人ともあの髪型がバッチリよく似合っているんだ。


 僕なんかはブサイクなのを自覚しているので、鏡を見るのも嫌なぐらいだ。

 最低限寝ぐせを直す程度で、頭髪剤を使って髪の毛をセットするなんていう発想はない。

 妹たちの背後から、ちらっと鏡を確認しただけで終わり。

 

「水樹~! 伊織ちゃん来たわよ~」


 リビングのほうからブサイクな母さんが僕を呼ぶ声が聞こえた。

 あ、この場合ブサイクっていう情報は別にいらないか。


 やっぱり来たか。

 伊織とは、同じ高校に進学した幼馴染の牧野伊織。

 小学生のときからの付き合いで、いわゆる腐れ縁ってやつだ。

 ちなみに紹介が遅れたけど僕の名前は長瀬水樹ながせみずきという。

 

 僕が鞄をつかんで玄関まで向かうと、ブレザーの制服姿の伊織が玄関口に立っていた。


「おはよう、水樹」

「うん、おはよう」


 にこりと微笑んであいさつ。すると僕たちをさえぎるように、さっきまで洗面所にいたはずの泉が間に入ってきた。


「お、おはよう泉ちゃん」

「うちは読売とってますから結構です。お帰りくださいおばさん」


 にっこり微笑んで泉が一言。

 反対に伊織の笑顔が引きつり不穏な空気になったところで、どたどたっと雫が走りこんできた。

 伊織に向かって手に持った何かを差し出す。 

 

「伊織ちゃんはい、これあげる!」 

「あ、ありがとう……。でもこれ……なんでするめいか……?」

「イカくさいビッチ女にぴったりの一品でぇす☆」


 一瞬伊織のほうからピキッという音が聞こえた気がした。

 伊織はなんとか仲良くしようという努力の片鱗が見られるけど、こっちの妹二人にそんな気はさらさらない。

 なのであっという間に伊織のペースは乱される。

 結果的に両者仲良くしているところなんて見たことがない。


「あらそう、よかったぁ、ちょうど食べたかったんだぁ!」


 食ってるし……。


「ぐぬう……」


 雫はなぜかしてやられたって顔してるし……。

 ここはちょっと僕がこの場を修正しないと。

 

「ほら、二人とももういいから」

「だってまだ行って来ますのディープキスがすんでないし」

「朝から濃いの要求するね……。だいいちそんな習慣ないから。いつもしてるみたいに言うなって」

「え~いいでしょ? ほら、さきっちょだけでいいから! さきっちょだけ入れさせて!」

「お前は酔っ払いか! なにを入れるんだよ!」

「舌だよ!」


 なんでキレ気味に返してくるんだ雫のやつ……。

 例によってそれに対抗するように泉がおずおずと口を開く。


「……あの、できればわたしも……」

「できない」

「ならわたしのお口に入れてもらうっていうのは……」

「それだと僕のハードル上がってない?」


 僕の言っている事を聞いているのかいないのか、泉も雫同様、目を閉じながら顔をこっちに向けて待ちに入っている。

 なんだこれ、どうしろと。


「じ、じゃあ空気を読んで私も……」


 と、ここでまさかの伊織が二人を真似る。

 しかしその瞬間、さっと雫と泉は真顔に戻った。


「うわ……、奥さん見ました今の?」

「やだほんと、はしたない」

「……あ、えっ?」 


 ジト目でこそこそ耳打ちしあう二人。

 伊織の顔がみるみる赤くなっていく。

 

「ち、ちょっ、い、今のナシ! 今のナシだから!」


 伊織はあわてて弁解をするが、よほど恥ずかしかったのか耳まで真っ赤だ。

 とはいっても伊織がこんなヘンなボケというかドジをやるのは、よくある見慣れた光景だ。

 

 いやあ、しかしこれはなんというか……。

 彼女のそんな照れた顔も……やっぱりブサイクだ。

 

 

 ……そう、僕の幼馴染はブサイクだ。

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