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「あっやだ、なんかこの子、雫に似てる……」

「似てない似てない」

「リアルの妹に全然興味を示さないで、マンガの妹でオナニーするって……お兄ちゃんってすごく変態だね」

「いやリアルの妹でするほうがよっぽど変態でしょ」

「ふぅ~ん、でもしてることは否定しないんだ……?」


 ……あ。なんか思いっきりひっかけられた。

 雫はいたずらっぽい笑みを浮かべると、ずりずりとこちらに腰をすべらせて肩を密着させてくる。


「……まったくもう、お兄ちゃんの……」


 いったんそこで言葉を切ったかと思ったら、僕の耳のすぐ近くに顔を寄せて、

 

「……えっち」


 そこだけ声音を変えて囁いた。そして雫は本を持ったままベッドの上に立ち上がる。

 ベッドに腰掛ける僕の背後に回り、うしろから両腕を伸ばし僕の顔のすぐ前でまた本を開く。

 完成したのは無理やり妹にエロ漫画を見せられる兄の図。

 なんだこれ、なんて斬新な絵なんだ……。

 

「……でもぉ……、わたしもぉ……えっちだからぁ……あのねぇ……」


 雫は背後から僕の耳元に軽く吐息を吹きかけ、ゆっくりと囁きかけてくる。

 ご自慢の声をフルに生かした今にもとろけそうな甘い声。

 この体勢だと自然と雫の胸が肩の辺りに押し付けられる形になり、柔らかい感触が伝わってくる。かすかにだけど。

 

「……わたし……お兄ちゃんが一人でしてるとこ……想像するだけで」


 そこで雫は器用に本のページをたぐる。

 めくった次ページには、大きなコマで妹キャラのけしからん姿が。


「……濡れてきちゃった」


 雫の湿った声が、耳から入り脳を刺激し一気に体中を駆け抜けた。

 背すじがぞくっとして体全体が脊髄反射的にびくっと跳ねてしまう。

 

 ……ヤバイヤバイ。落ち着け落ち着け。こんな雫のおふざけにマジになってどうする。

 多少改変はあるものの雫はただ漫画のセリフを読んでいるだけで何の問題も……いや、ないわけではないけど。


「……いまビクってなったよ? お兄ちゃんかわいい。……ねえお兄ちゃんもしかしてぇ、今ので…………おっきくなっちゃった?」


 はい完全に雫のアドリブが入りました。もうこれ以上はアウトです。強制終了します。

 が、しかし弱った。これはあまり状況がよろしくない。

 というのは、こうやって妹にからかわれただけで不覚にも、いや本当に情けない事に。

 僕の股間はがっつり反応してしまっていた。おっきくなっちゃった? と言われておっきくなってしまう正直者だった。

 でもこれは、音声付きエロマンガという見事に僕の弱点をついた新技を披露してきた雫を褒めてやるべきではないだろうか。

 だから僕は何も悪くない。正直かなり興奮してしまっているけど悪くない。

 悪いのは雫の方だ。そして元をたどればこんな素晴らしい本を僕に渡した富田君が悪い。

 

 ……なんて言ってる場合じゃない。ヤバイ、どうしよう。

 頭の中ではこうやって冷静に分析しているようで、実はそうとう切羽つまっていた。この焦りを雫に悟られるとまずい。

 まあ僕は普段から学校でポーカーフェイスを貫いている(主に聞こえていても聞こえないフリ、視線を感じても気にしていないフリ等)ので、感情を読まれないのには自信があるけどね。

 ただ僕はさっきから一言も声を発していないので、ちょっとは怪しまれてしまっているかも。

 

「……ねえどしたのお兄ちゃん? そんな恥ずかしそうな顔して」


 ……思いっきりバレてる。僕としてはやれやれしょうがないな的な顔をしているつもりだったのに。


「……そんなかわいい顔されたら、もっといじめたくなっちゃうよ?」


 先生、僕は妹にいじめられています。

 ほんの出来心で友達からもらったエロ本を目ざとく発見され、用途を聞かれダメ出しをされ無理やり見せられた挙句、卑猥な言葉を囁かれています。

 しかし妹にかわいいって言われるのはどうなの……。僕の場合はグロかわいいってとこか。

 

 そしてまた息を吹きかけられて耳をくすぐられて、興奮を収めるどころか心臓の動悸も激しくなってきた。

 もうこうなってしまったら仕方ない。最終手段だ。

 これを使うと敗北を認めたも同然だからあまり使いたくはないんだけど、これで僕はこれまでも数多くのピンチをくぐり抜けてきた。

 その手段とはずばり……、ひたすら雫の顔面を直視する。できるだけ至近距離でじっくりと。それだけだ。そうすれば一発で萎える。

 もちろん妹達は僕がこんな手を使ってごまかしているなんて夢にも思ってないだろう。

 

 とにかく今は、背中にとりついた子泣き痴女を振りほどかないと始まらない。

 かなり抵抗を受けるかと思ったが、身をよじると意外にあっけなく雫は体を離した。

 

「あ~れ~、いや~ん」


 わざとらしい嬌声を上げて、雫は自分からベッドの上にどさっとあおむけになる。

 これは「お兄ちゃんに押し倒された~」とやりたいがためのしょうもない演技だ。前も見たことあるパターン。

 本来ならここで「一人でやってろ」で、僕は立ち上がって勉強机に戻って終わりなんだろうけど、今立ち上がるとヤバイ。

 ここで万一股間の状態がバレた場合、一ヶ月、いや半年、違うな、下手すると一生ネタにされるかもしれない。


 なんにせよまずはこれをどうにかするのが先決。

 雫が起き上がってまた攻めてくる前に、先手を打って顔を見るのだ。

 一見兄が妹に覆いかぶさる形になってしまうが、やむをえまい、ここは緊急措置だ。

 

 ベッドの上に膝をついて、あおむけに寝そべる雫の顔の両横に両手をつく。

 へそが見えるぐらいまで雫のシャツがまくれあがっているが、あくまで見るのは顔。


「……お兄ちゃん、わたし……いいよ? ……くくっ」


 なにがいいよだ。

 僕がおふざけにノってきたと思って、雫は完全に面白がってる。

 ちょっとなめられすぎてるな、僕。

 

 だがついに無事、雫の顔を正面に捉える事に成功した。

 三十センチぐらいの距離を残して、お互いの目と目が合う。

 すると雫はゆっくり両目を閉じ、少しあごを上げ軽く唇を突き出すようにしてきた。

 薄目を開けて僕の反応を楽しんでいるのがバレバレだ。

 焦った僕の顔はそうとう面白くなっているのかもしれないけど、残念ながらこれでもうお前のおふざけも終わりだ、雫。

 はぁ、にしても今回はかなりやばかった。これで雫がブサイクじゃなかったらと思うと、本当にぞっとする。

 

 そしてそのまま雫の顔を見下ろす事数秒が経過した。

 しかし何も変化がない。つまり僕の興奮が収まらないままだ。

 代わりになんだか頭がボーっとしてきた。

 

 ……おかしい。おかしいおかしいおかしいぞこれは。一体どういうことだ。

 本当ならもう見た瞬簡に一気に萎えるはずなんだけど……、いつまで待ってもいつもの嫌悪感のようなものがやってこない。

 顔を見ると反射的にわきあがってくるあのイラッとする感じが。

 しかも興奮が静まるどころか、さらに高まってきている。どきどきどきどきと、心臓の脈打つペースが上がっていく。

 

 あれ、ということはなんだ? こんな風になってしまうという事は……、ああ、わかった。

 この美少女は雫じゃないのか。なるほどそうだったのか、それならつじつまが合う。

 雫じゃないという事は妹じゃない。ということはこのまま押し倒しても何の問題もないということになる。特に嫌がっている様子もないし。

 

 なかば朦朧とした意識のまま、僕の顔は雫の小さくぷっくりと膨らんだ唇に吸い寄せられていく。

 お互いの顔はもう目と鼻の先。ゆっくりと確実に唇と唇の距離が縮まっていく。

 すると薄目をしていた雫が、不意にぱっと目を見開いた。

 黒目がちなくりっとした瞳をぱちぱちとまばたかせている。

 

「……えっ、……あ、ち、ちょっとお兄ちゃん?」 


 驚きと疑いが入り混じった雫の声。

 すでに僕の口元は、雫が下手に動けばうっかり接触してしまうぐらいの位置にまできていた。


「ね、ねえちょっと!? お兄ちゃんってば!」


 …………はっ!?

 僕は焦った雫の甲高い声で我に返った。

 がばっとあわてて上半身を起こす。

 

 ……な、何やってんだ僕は! 本気で妹を押し倒そうとしてどうする!

 興奮で頭が茹で上がっていたとはいえ、我ながらわけのわからない論理を展開してしまった。

 雫が急に別人と入れ替わるはずないだろ。だいたい妹じゃないからってこのまま襲い掛かっていいという理屈があるか。


「ご、ごめん」


 つい反射的に謝ってしまったが、すぐにしまった、と思った。

 これじゃまるで押し倒そうとしたのを拒絶されて謝ったみたくなってしまうじゃないか。

 ここは絶対「なにお前マジになってるんだよ」ってやるべきところを。


 雫は何も言わずに体を起こした。お互い言葉を失い、謎の沈黙が流れる。

 ヤバイこれなんか……、ふざけてる感じじゃなくてマジな感じになってきてる。

 なにせあの雫が……、これまで見たこともないような顔で、頬を赤くしてうつむいてるんだから。

 しかもさらにヤバイ事に、そんな雫の姿がめちゃくちゃかわいくて……。

 

「あ……」


 と思ったのも一瞬。

 やっと今になってやってきたいつもの不快感。僕の体温は一気にクールダウンした。

 はあ、よかった。やっぱり雫はブサイクだった。

 さっきは絶対どうかしてた。いやどうかしてるだろう、まさかこのブサイクな妹を押し倒そうとするなんて。

 

「……さ、さーて、雫もおとなしくなったし予習の続きでもやるか」


 落ち着いたのはいいけど気まずい事には変わりない。

 せめてさっきのごめん発言さえなければ……ちょっとびびらせてやったで通るんだけど。

 しかしもはやどうしようもないので、とりあえずそれはなかったことにして押し切る事にしよう。

 なおも反応のない雫を置いてベッドから立ち上がろうとした。

 するとその時、コンコンとドアをノックする音がして、部屋の外から泉の声が聞こえてきた。


「兄さん? そこにしずくちゃんいますか?」

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