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 あの後バス停前の待ち時間でまた伊織にいじめられたが、その後は適度に距離をとりながらなんとか登校した。

 学校前でバスを降りた後は人ごみを縫うようにして露骨に早歩きで逃げたけど、日をまたげばたぶん通常形態に戻るだろうし大丈夫だと思う。


 そうして朝から軽く疲労感を覚えながら、やっと教室までやってきた。

 後ろの入り口から一歩教室に入ると、真ん中の一番後ろの席、つまり僕の席に櫻井が座って女子二人と話している姿が目に入った。

 うわ、なんだよあれ。最悪だ。

 櫻井一人だったら別にかまわないんだけど、女子と話しているのがいただけない。

 僕は基本的に妹と伊織以外の女子と話すのは苦手だ。年が離れていればわりと大丈夫なのだが、同年代はちょっと……。

 どうしよう、このまま引き返すのも不自然だし、とりあえずさっとカバンだけ置いて逃げようかな……。

 

 こそこそと席に近づくと、笑い声を上げていた櫻井が僕に気づいて手を上げた。

 

「よっホモ王子」

「ぶっ!」


 目立たないように軽くあいさつを交わして離脱しようと思っていたのに、おもいっきり吹いてしまった。


「いきなりなんだよそれは……!」

「じ、冗談だよ。いや、ほらあれだ。先手打ってギャグにしておかないとちょっと不安だったから」


 どういうことだよそれ……意味がわからない。冗談にしても脈絡なさすぎでしょ……。

 なんでいきなりホモ扱いされなきゃならんのだ。


「ねえねえ~、長瀬くんてホントにホモォなのぉ?」


 すかさず隣の席に座っている女子が身を乗り出して便乗してきた。

 ショートカットの、ちょい小柄な子。二宮にのみや……えーとたしか弥生やよいさんだったか。


 にしてもなんだいきなりこの軽いノリは……。

 この子とは学校が始まってから隣同士の席だったけど、実はこれまでほとんど会話したことがない。

 普段は全然話かけてこないし、あっても一言二言で決してこんなノリでくることはなかった。

  

 これは絶対櫻井がいるせいだ。こいつのせいでこんなテンションに……。

 櫻井みたいなタイプの友達はこれまでいたことがなかったから経験はないけど、中学の時も遠目にリア充グループが盛り上がってるのを見るとこんな感じだったと思う。

 僕はたいして仲良くもないのにその場のノリでなれなれしくしてくるのは好きじゃない。当然僕はそんな芸当できないし。

 まあそんなだから僕にあんまり友達ができないのかもしれないけど。


「そ、そんなわけないでしょ、はは……」

「そ~だよね~。だっていっつもバスで女の子といるとこ、見かけるし。たしか二組の子」

「えっ」

「あたし駅からバスだから。あそこで長瀬くんもバス乗り換えてるでしょ? たま~に一緒になってるんだけどな~」


 しまった、バスの時点で見られていたなんて……。

 どうせ僕のことなんて誰も見てないと思っていたのに。

 伊織がブサイクだから目立つんだきっと。くそ。

 

 いい獲物を見つけたと櫻井が椅子から立ち上がり、僕の肩に腕を乗せて寄りかかってきた。


「二組の子って、やっぱり牧野ですか~。よくも昨日は付き合ってないとか大ウソこいてくれましたねえ?」

「い、いやだから付き合ってないって」

「ん~? というとこりゃもしかしてあれですか。王子にとっちゃただの遊びなんだけど向こうはその気みたいな?」

「だからそういうのじゃないから」


 伊織がその気? そんなわけあるか。

 さっきだって女王様とそのご機嫌を伺う下僕みたいになってたんだぞ。

 あの後も「イカ好きなの?」って聞いただけで思いっきり尻蹴られたし。

 

 僕は櫻井を押しのけて机の上にカバンを置いた。

 「じゃあどんな関係?」とかこれ以上追求される前に早いところ一回トイレにでも避難しよう。

 だがそうは問屋がおろすかとすかさず二宮さんが追撃してきた。


「あの子は彼女じゃない、ってことは今彼女いない?」

「あ……うん」


 今っていうかずっといたことないけど。

 するとその隣に立っていたもう一人の女子(名前がとっさに出てこない)がからかうような調子で口を開いた。


「やだなにそれ弥生~、そんな念押しちゃって」

「あ、えっともし彼女さんがいたら、他の子と仲良くしちゃダメ~みたいに言われてるんかなぁって思って」

「どういうことよそれ?」

「だって長瀬くんって、いつも隣の席でオレに話しかけてくんなオーラ出してくるし~」


 そんなオーラは出してないはずなんだけどな……。

 どうか話しかけてこないで下さいお願いしますって思ってるぐらいで。


「うんと、そーいうのなんていうんだっけ? ……コワモテ?」

「いや強面じゃないっしょ! 弥生ちゃんウケる! まーじウケるわ!」 


 ここぞとばかりおおげさにバカ笑いをする櫻井。

 なにがマジウケルだよ。いったいどこが面白いんだか。


「でもわかる。言わんとしてることはわかる。たしかにこいつ、いっつも明日世界が滅ぶような顔してるよな」


 きゃはははと女子二人の笑い声。

 はいはい面白い面白い。どうせ悲惨な顔してますよ。

 

「けどいざと言う時には、必殺王子スマイルがあるからな。これまで数多の女の子を一撃で落としてきたという伝説の」

「えー、なにそれ見たーい!」

「長瀬くん、こんにちは、僕ミッ○ーだよ! ほら笑って笑って~」


 あーもうダメだ。

 完全にいじられモードに入った。

 こうなってしまうと僕はただ引きつった笑みを浮かべることしかできない。

 

 今すぐにでもこの場を脱出したいけど、絶対櫻井に引き止められるだろうな。

 ここはさりげなく前の席の富田君に話しかけてそっちに移動……、

 ダメだ。これみよがしにイヤフォンしながら本読んでる。

 きっと僕が来る前から後ろがずっとこんな感じでうるさかったんだろう。

 

「だいたい男のクセになんだよその女みたいなサラサラヘアーは。一回角刈りにしろ」

「えー、ダメだよそんなの。王子なんだから」


 櫻井のいじりで女子たちもつられてくすくすと笑う。いつの間にか女子が一人増えてるし。

 くそっ、櫻井のヤツ、好き勝手言いやがって。

 いるんだよな、女子の前だとこうやって調子乗り出すヤツ。

 昨日はちょっといいヤツだなんて思ったけど、冷静になって振り返ってみると実はそうでもない気がしてきた。

 これはあれだ。普段悪いやつがちょっといいことすると、やたらいい人に見えてしまうというよくある罠と一緒だ。

 

 その後も容赦なく続いた櫻井のいじり。そしてうまい具合に入る二宮さん(コイツは敵だ)の合いの手。

 僕はその間、顔をぴくぴく痙攣させながら心ここにあらずでただ立ちつくしていた。

 すでに愛想笑いをしているんだかなんだか自分でもよくわからなくなっている。

 しかしここにきてずっとそうしているわけにもいかなくなった。

 ヤツらは一通りいじりたおしてネタ切れになったのか、ついに僕への直接攻撃を始めたのだ。

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