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「お兄ちゃん起きて~! 朝だよ~!」


 僕はその鼻にかかった甘ったるい声で眠りから覚めた。

 目を開けると、何者かが仰向けにベッドに寝ている僕の上に馬乗りになっていた。

 

「あれれ、起きないのかなぁ? じゃあ今のうちに失礼して……」

「起きてるよ!」


 間近まで迫っていた妹の顔を押しのけ上半身を起こす。

 やっぱり妹だ。彼女は妹の雫。今日も朝から元気いっぱい。

 

「……いつも言ってるじゃん、起こしに来なくていいって。自分でタイマーセットしてるし」

「そんなこと言って、本当はうれしいんでしょ? 目覚めてすぐ雫の顔があって」


 雫は自信満々に言う。

 けどいったいどこにそんな自信があるんだろう。

 毎度のこととはいえ、朝イチでこの顔に至近距離まで迫られるとやはり精神的にキツイ。

 

「雫ちょっと体冷えてきちゃったかも。……おやおや? なにやら暖かいところを発見」


 とかなんとか一人でブツブツやったあと、僕の隣にすべりこんできた。


「えっへっへ……」


 と僕の腕に両手をからませ、頬をすりよせてうれしそうな表情。

 僕は半ば寝ぼけ眼でなすがままにされていると、がちゃりと僕の部屋のドアが開いた。

 

「あ……」


 ドアを開けやってきたのは雫よりさらに一つ下の妹、泉。泉は僕たちの様子を見ると、口をぽかんと開けたまましばし棒立ち。

 やがて無言で歩き出し、ベッドのすぐそばまで近づいてくる。そして脇にしがみつく雫に一瞥をくれてぽつりと一言。


「……しずくちゃん、なにしてるの?」

「べっつにぃ?」

「……もうご飯だから」

「うん、行けたら行く~」

「えっと、その……、兄さんにも迷惑だし……」

「どこが? 泉が勝手に言ってるだけじゃん」

 

 両者にらみ合い。

 ヤバイ。一見雫が優勢だけど泉がキレたら……。

 起きようにも雫がしがみついて離れそうにない。仕方ないここは……。

 

「は、はいストップ! ほら、泉はこっち側が空いてるよ」


 と雫とは反対側のベッド上のスペースをポンポンと叩いてやる。

 すると泉はぴくっと体を反応させた後、立ったまま固まっている。どうするのか迷っているのだろう。

 やがて意を決したようにこちらに視線を向けると、しずしずとベッドを回り込み僕のすぐ脇までやってきた。

 そして雫同様、泉も体を預けてくる。ついさっきまで表情をこわばらせていた泉の口元がだらしなくゆるんだ。

  

 そんな泉を見て雫が不機嫌そうに口をとがらす。


「まったくもう、お兄ちゃんのヘタレ」

「へ、ヘタレ?」

「両方にいい顔しようなんてムシがいいんだから!」

「いや、いい顔っていうか……」

「でもそんな優しいところがいいんだけど!」


 と、いっそう強く腕をからませてくる。それに対抗するように反対の腕にも加わる強い圧力。

 はあ、弱ったな。

 二人とも小さく華奢な体つきをしているのでそれほど窮屈ではないけど、僕の精神は相当いきづまって逃げ場がない。

 いや、本当はこれだけ妹たちに慕われて兄貴冥利につきるというべきなんだけどね……。

 

「ほら、起きろ~」

「雫、股間に向かって話しかけるのはやめよう」

「あのね、このまえちょっと小耳にはさんだんだけど、朝立ちってなぁに?」

「お前ぜったい知ってるだろ……」


 また始まった。

 泉が小さい声で不満げに言う。


「もう……。しずくちゃん、朝からそんな下品なことばっかり……」

「えっ、なに下品なの? そうなんだー、知らなかったー。じゃ泉はどういうイミなのか知ってるんだね? 教えて!」

「そっ、それはその……」


 泉が口ごもる。

 人を間にしてヘンな問答はやめてほしいんだけどなあ……。


「……あんまりいじめないように。泉だってそんなの知らないよな」

「朝立ちとは、男性に朝、性的興奮に関係なく勃起がおこる生理現象です!」

「すごいな~よく知ってるね泉は! 辞書で引いたような回答を!」


 せっかく助けてやろうと思ったのに……。

 知らないとダメだと思ったんだろうか?


「え、えらいかな? 兄さんわたしえらい?」

「偉いっていうか、う~んどうなんだろうね!」

「えーっ、じゃあさじゃあさ、夕立ちとなにが違うの?」

「カンタンです。朝勃つか夕方勃つか、それだけのことです」

 

 泉は得意げに言ってるけど、間違った知識を教えないようにしてほしい。

 まあ雫はわかってて聞いてるんだろうけど。


「へ~、アナウンサーの人がたまに今日は夕立ちになるでしょうって言うけど、俺は夕方勃起するぜってアピールしてるんだぁ」

「そうです。急な夕立に注意しましょうって言って、男の人に注意をうながしているわけです」


 そんなわけないだろう、公共の電波でなにを流してるんだよ。

 普段はいがみあっているが、変なところでバッチリ息が合うこの姉妹。


「まったくそんなことも知らないで……。やっぱりしずくちゃんは頭の程度が低いから、あんまり話が合いませんね」

「はあぁ? 雫のはフリだし、バカなのはそっちでしょ! だいたい言うなら泉ももっとエロティックに言いなよ!」


 どんな言い方だ……。

 物心ついたときから二人はずっとこんな調子。

 僕もこれだけ妹たちに好かれて、実際そこまで悪い気はしない。

 でもこのままじゃいつか間違いが起こるんじゃないかって……思われるかもしれないけど。

 それは多分大丈夫。

 だって僕の妹たちは……、



 僕の妹はブサイクすぎる。

あくまで主人公の主観です。とフォローを入れておきます。

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