物書きさんに50のお題:3
3,乱反射
やがて小石は重力に引かれて、弧を描き水面に落ちた。
羽の様に水しぶきが上がり、ぽちゃんっ、というくぐもった音が川原まで届く。
「探したぞ。こんなところにいたのか……」
背後から良く知った声が聞こえた。
たまたま家が近所だったとか、たまたま年齢が同じだったとか、そんな理由で腐れ縁としてずっと過ごしてきた男である。
「……なんだよ。なんか用か?」
心の中で舌打ちをして、振り返らずに答える。
今はもっとも会いたくない相手だった。
「らしくないぞ。人当たりの良さがとりえのお前が、今日はどうした?」
背後から素っ気ない言葉が返ってくる。まったく感情の篭っていない声色だったが、長い付き合いから彼が本気で心配していることが分かった。
「……なんでもねぇよ」
僅かに視線を上げて、オレンジ色に染まる空を見た。
自分でも本当にらしくないなと思う。しかし、今だけは普通の態度ではいられなかった。
「……病院に行ってきたらしいな?」
不意打ちの言葉に、ビクリと体が強張った。
「何を言われた?」
「…………」
沈黙を守る。
もし、ここで教えるつもりがあったなら、初めからこんな場所になどいなかった。
「俺にも言えないことか?」
「…………すまねぇな」
しばらくの沈黙の後でそう答えた。
「そうか……邪魔したな」
背後の男が身を翻し、歩き去っていく気配を感じた。
再び一人になると、誰にも言わないと誓ったはずのいくつもの言葉が心に鬱積し、とたんにやりきれない気持ちになった。足元にあった手頃な石を拾い上げると振りかぶって、力の限り投げ飛ばした。
石は、勢い良く入水し、荒い波紋が川を伝う。
燃えるように赤い夕日から差し込む光が、揺れる水面に反射して、ただちかちかと光っていた。