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8 カデッサ

この世界ディオネシアには3つの大陸がある。北大陸、東大陸、西大陸。

その北大陸に3つの国家、北部にディオネ教団の聖都を要するアカルナイ皇国、西部に軍事国家ディミトリオス、東部に商人の街ハルキスが発展した商業国家ハルキス。


ディスケスさんやフレイアさんが住むこの街は、そのアカルナイ皇国南部の街カデッサという。

人口は4千人くらいの地方都市で、商業国家ハルキスと近いため、ハルキスからの輸入品が数多く入ってくることでも知られている。


……ということを、商業区に向かう間、ディスケスさんから教えてもらった。

ちなみに、フレイアさんは家でお留守番。


ディスケスさんいわく、

「なんで、フレイアが小僧と出歩かなきゃなんねぇんだ。俺が行くに決まってんだろう」

…だそうだ。


外は寒かったので、俺と唯の分の外套を借りた。

唯の分は、身体には少し大きかったため、余った部分を折り畳んでいる。俺の分は、ディスケスさんのものらしい。少し大きいが気にするほどではない。


カデッサの街並みは、木造りの建物や石造りの建物が多く、コンクリートの類は見られない。感覚的には、木造りの建物で言えば江戸時代、石造りの建物で言えば中世ヨーロッパといったところだろうか。


唯は、そんな街並みが珍しいのだろう、キョロキョロしながら歩いている。

時折、ぱぱ、と言って、珍しいものを指差し、これ何? と聞いてくるが、俺にはわからないので、代わりにディスケスさんが答えてくれる、ということを繰り返している。


ディスケスさんの話によると、この街カデッサは、街の北側一帯に領主や貴族たちが住む区域があり、中央を貫く大通りの両側に商店が立ち並んでいるらしい。大通りから西側に行くにつれて、職人たちの工場があり、東側に商業区が広がり、その外側に一般居住区となっているとのことだ。


ディスケスさんの家は、その大通りから少し入った商業区と一般居住区の境あたりにあるらしいが、食料品を扱う店はちょっと離れているとのこと。


「なぁ、どれくらいで着くんだ? その食料品を扱っている店って」

俺はそれほど苦にならないが、病み上がりの唯を考えると、あまり外を歩かせたくないので聞いてみたのだが、

「俺についてこい。キリキリ歩け」

そんな回答が返ってきた。このおっさんから。


俺たちの少し前をトコトコと歩いていた唯が立ち止り、俺を見上げてくるので、頭を撫でて手を繋ぐ。唯はしっかりと手を繋ぎ、俺の横を歩き始めた。唯の歩く速さにあわせて歩いているのだが、足取りもしっかりとしたもので、病み上がりということを感じさせないので安心した。


「あー、ユイ、楽しいか?」

突然、前を歩いていたディスケスさんが唯の隣に来る。

「…うん、ぱぱとあるけて、たのしい」

少し考えたあと、そう言った。


病院から出ることのできなかった期間が長かったため、外を歩くというのが楽しいのだろう。

様子を見ながらになるが、前のように元気に走りまわる唯を見られるのも、そう遠くないかもしれない。


「それにしても、結構、人が出歩いているんだな」

都内の週末、とは言わないが、地方都市のショッピングセンターくらいには人通りはある。

「まぁ、最近は魔物が大人しいからな」

「魔物?」

魔物なんて言葉を聞くとは思わなかった。

「あぁ、お前の世界に魔物はいなかったのか?」


魔物。

魔物とは、負の情念が動植物に影響を与え、異形化したものを言うらしい。もちろん、そんな魔物は地球には存在しなかったので、見たこともないことを伝える。


「ほぉ、ずいぶん平和だったんだな」

「いや、その分、人間同士が争っていたぞ」

地球での人の歴史は、人間同士の争いの歴史、みたいなことを聞いたことがある。

「まぁ、その辺りは同じなんだな。人間と亜人が争うのは、なかなか無いからな」

「あじん?」

また変な言葉が出てきた。

「あぁ、獣人やエルフ、ドワーフなんかだな。この北大陸じゃ、獣人はともかく、エルフやドワーフは滅多に見かけることはないがな」


亜人。

獣人やエルフ、ドワーフなどを総称して亜人というらしい。彼らは、ほぼ東大陸に住んでおり、北大陸に来ることはあまりないという。


「この世界には、そういうのもいるのか」

「いなかったのか?」

もし、いたら騒ぎになっているだろう。ネタとしては見たことがあるが。あれは、被り物か。

「あぁ、見たこともないな」

そんなことをディスケスさんと2人話していると、唯が急に立ち止った。


「ぱぱ」

唯が空いている手で屋台のようなところを指差す。

そこは公園のようになっており、いくつかの屋台のようなものが出ていた。

「ん? どうした」

「お祭り?」

屋台のようなものがあったので、唯はそう思ったのだろう。


昔、近所の神社でお祭りが行われたとき、唯を連れていったことがある。

普段は何もない参道なのだが、その日だけは、道の両側に屋台が立ち並び、夜にもかかわらず煌々と光が漏れていたことを思い出す。

あのすぐ後だったな、唯が突然高熱を出して、入院することになったのは。


「んぁ? お祭りじゃねぇな。いつもここはこんな感じだ」

「そうなんだ……」

唯が、ちょっと残念そうにしている。

「唯、また来ような」

ああいった場所は俺には退屈な場所だが、唯にとっては楽しめる場所だろう。今は、ディスケスさんに食料品の店を案内してもらっているところだから、後で唯と来ようと思う。

「うん、ぱぱ、ありがと」

唯は嬉しそうに笑って答えた。


「あぁ、もうすぐ、そこの店だ」

公園のすぐ横に、少し大きな木造りの建物があり、店先には街の八百屋のように野菜が並んでいた。

店の前で野菜を並べている女性の後ろ姿がここから見える。


「おーい、テティスー」

突然、ディスケスさんが大声を出す。

その声に反応したのは、店の前にいた女性だった。

「あっ、お父さん」

そう言って振り向いた女性を見て、俺は息を詰まらせ固まった。


―――幸


幸。俺の妻であり、唯の母親である、幸に瓜二つの女性がこちらを見て手を振っている。

隣りで、まま、とつぶやく唯の声が聞こえた。


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