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4 フレイア

「目を覚まされましたか?」


扉の外から聞こえてくる声に反応できず、扉をまじまじと見てしまっていた。

「ぱぱ?」

唯の声にハッとして、とりあえず声をかけてみる。

「あー、はい」

と言っても何を答えればわからず、よくわからない返事になってしまったが。


―――カチャリ


入ってきたのは、シルバーブロンドの髪が腰のあたりまである、美人さんだった。年頃は、俺より少し上、30代半ばと思われる。開いた扉の音に唯が驚いたのか、俺にしがみついてきた。


その美女のプラチナゴールドの瞳が俺を捉える。


「お加減はいかがですか?」

薄桃色の唇から発せられる声は、とても澄んでいて、神々しく思えた。

驚きに目を見開いていた俺に、再度、声を掛けられた。

「あー、はい。大丈夫です」

本当に大丈夫なのか、よくわからないが。

とにかく俺自身に体調の不良は感じられない。唯の病み上がりではあるが、元気そうに見える。


「よかったです」

プラチナゴールドの瞳が安堵の色を示す。

ニコニコとこちらを見ているが、この美女は誰なんだ? 普通に考えれば、この部屋というか家の持ち主なのだろうが。

「ぱぱ?」

先ほどから俺にしがみついている唯が、その瞳を美女に向けたまま俺を呼ぶ。


「こんにちは」

唯に向けた言葉なのだろう、美女が唯に視線を向け、いっそう柔らかく声をかける。ベッドに横になっている唯の視線に合わせるためか、少し屈んだ。その拍子に、見事なシルバーブロンドがサラリと広がる。


「ぱぱ」

どうしたらいいのかと唯がこちらを向く。

そんな唯を安心させるように頭を撫でる。父子家庭であり祖母に育てられた唯は、幼稚園に通うようになってからも結構人見知りすると聞いたことがある。

頭を撫でてもらって嬉しいのか、唯は目を細めて美女の方を向く。

「こんにちは」

唯が美女に声をかけた。美女の瞳がさらに柔らかくなる。

「はい、こんにちは。お名前は何ていうのかな?」

「えっと、すずの、ゆい」

唯がはずかしそうに答えた。“鈴野”という姓はほとんど聞こえなかったが、名前ははっきり言えた。

美女は少し考えたあと、

「ユイちゃん、でいいのかな? 私はフレイアです。よろしくね」

「うん、えへへ」

唯が嬉しそうに笑って、俺の服をギュッと握ってくる。


「あっと、俺は鈴野尊です。それと、ここは・・・・?」

美女改めフレイアさんがこちらに視線を向けたので、流れに乗って自己紹介した。俺だけ名のらないのも変だったので丁度よかった。


フレイアさんは、またも少し考えたあと、

「はい。タケルさんですね。ここは私の家です。詳しい話は、むこうの部屋に夫がいますので、そちらで」

フレイアさんは既婚者でした。まぁ、俺は今でも妻だった幸一筋だから関係ないが。


「変わった服装ですが、どちらの方ですか?」

唐突にフレイアさんが聞いてくる。


さて、何と答えるか。

シルバーブロンドの髪にプラチナゴールドの瞳。そして、おそらく異世界。にもかかわらず、日本語が通じている。

そう、会話は日本語だった。俺は外国語が話せないし、幼稚園児の唯に話せるわけがない。


日本という国から来ました、と言って大丈夫だろうか。唯のことで異世界に行くと決めたことに後悔はまったくないが、言葉の問題や生活の問題をまったく考えていなかった。

まぁ、俺にあの段階でそこまで考えられるわけがないのだが。


難しく考えても仕方がない。

「あの、日本という国から来ました」

もう、そのまま答えることにする。フレイアさんの今の対応をみても、おかしな態度をとられることはないだろう、と判断したからだったが。

「ニホン、ですか」

フレイアさんが初めて難しい顔をした。おそらく、聞いたことがないということなのだろう。


フレイアさんはそのまま言葉を発せずに考えている。

急に黙ってしまったフレイアさんと俺を唯は交互に視線を動かしていた。そんな唯に気付いた俺とフレイアさんは、唯に笑顔を向ける。


「わかりました。詳しくは夫とともにお伺いしますね」

そう言って、いったん保留にすることを提案された。俺も異存はないため頷く。




「おーい、フレイア?」

離れたところから、フレイアさんを呼ぶ声が聞こえた。おそらく、先ほどから会話に出てくるフレイアさんの夫なのだろう。


「はーい、今行きます」

呼びかけにそう答えて、俺たちの様子を伺う。

「では、お話をお聞きしたいので、来ていただけますか? おなかも空いているでしょうし」

その声と同時に唯のお腹から、クゥという音がする。

唯は少し顔を赤らめたかと思うと、俺の胸に顔をうずめる。

うん、はずかしかったのだろう。


フフッ、と笑ったフレイアさんは、

「ユイちゃん、おいしいご飯を用意するね」

そういって、部屋を出て行こうとするので、俺は唯を抱きあげて、ベッドから降りることにした。


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