3 異世界へ
ここから異世界編です。
朝、目が覚めるのと同じように、目が覚めた。どこかはわからないが、ベッドのようなものに仰向けに横たわっているようだった。
寝起きは悪い方じゃないが、まだ頭がボーっとしている。
何があったんだ?―――そうだ、神様に会ったんだ。
神様?―――神様でいいんだよな。会ったんだ。
それで・・・どうしたんだ?―――唯のことを祈ったんだ。
―――唯っ
そこまで考えて一瞬に覚醒した。慌てて俺の周りに視線を向ける。よくわからないが、どこかの部屋にいるようだ。病院の白を基調とした病室とは違う、木目調の部屋・・・というか、木造りの部屋。おそらくこちらも木造りであろうベッドに俺はいた。
唯は、俺の隣にいた。
スヤスヤと眠っているように思える。病室にいたときのように熱にうなされているわけでもなく、穏やかな表情だった。愛らしい娘の寝顔をずっと見つめていたいと一瞬考えたが、やっぱり確かめたい。
唯に声をかけるため、身体を唯の方へ向けようとすると、唯の小さな手が俺の服を握っていることに気付いた。離されないように、唯がいつも俺にする癖のようなものだ。その手を潰さないように、ゆっくりと唯の方へ身体を向ける。
「唯?」
そっと声をかける。
すると、唯の目がゆっくりと眩しさに耐えるかように開いていく。
「・・・ぱぱ?」
寝ぼけているような声だが、病室にいたころに比べてはっきりとした声で俺を呼ぶ。
「唯、パパだ。わかるか?」
「うん。おはよう、ぱぱ」
唯だ。元気だったころのいつもの唯だ。
「ああ、おはよう」
そう返すと、唯は俺に抱きついてくる。
おはよう、と言ったものの、時間の感覚がないので朝なのかどうなのか、わからないが。
「ぱぱ、ここ、どこ?」
ひとしきり抱きついたあと、周りをキョロキョロと見回し、俺に聞いてくる。
「どこなんだろうなー」
俺にもよくわからないので、そのまま答えた。
この部屋には、俺と唯が寝ているベッド1つと、クローゼットらしきものが1つ。大きな扉が付いているのは、この部屋の出入り口だろう。木窓が一つ付いているが、すぐ外に樹が生い茂っており、風景は見えない。俺の記憶にある場所じゃない。ここが異世界なのか?
「お姉さんがいってた、いせかい?」
唯につられてきょろきょろと見回していると、唯がそんなことを言った。
―――お姉さん?
「唯、お姉さんって誰だ?」
「しらないひと。声だけきこえた」
俺に選択を示した神様だろうか?俺も姿は見ていない。声が頭に響いてきただけだ。
「そのお姉さんが異世界だって言ったのか?」
「うん。いせかいってところにいくって、いってた。ぱぱもいっしょ」
「そうか・・・」
よくわからないが、唯のところにもあの神様は現れたらしい。とりあえず、唯の頭を撫でておく。
「うん」
嬉しそうに目を細めて返事をする。唯は頭を撫でられるの好きだからなぁ。
頭を撫でていた手を、おでこのところにもってくる。
「ぱぱのて、あったかい」
―――うん、熱はない。唯は本当に元気になったんだ。
「あったかいか?」
「うん、いつもひんやりしてた」
そう言って、自分の手をおでこの上の俺の手に重ねる。唯の手は少しひんやりしているが、生きている温かさだ。
「唯、もう少し寝ていいぞ」
何せ、病み上がりだからな。いくら元気になったからといって、すぐに今までどおりにさせるわけにはいかない。
「ゆい、ねむくないよ?」
声もしっかりしているから本当なのだろう。それでも無理はさせたくない。
「病気が治ったばかりだからな。眠って、しっかり治しちゃおうな」
不思議そうな顔で俺を見てくるが、納得したのか、うん、と頷いて目を閉じる。
聞き訳の良い子だな。
ここは神様のいう異世界なのだろう。壁紙のない木の壁、アルミサッシのない木窓、天井に目を向けても照明器具もない。夜になったら明かりはどうするのだろうか。異世界というより時代遡行だな。この世界で俺にできること、この世界をよく見てみないといけないな。
「ぱぱ」
目を瞑ったままの唯が声をかけてくる。眠くないのだろう。俺に言われたからか目は瞑っているが。
「どうした、唯」
「あのね、どうぶつえん行きたい」
普段の唯は我がままを滅多に言わない。普通の幼稚園児のような駄々をこねるということもない。それなので、唯が行きたいというところには連れて行ってあげたいのだが・・・。あるのか?動物園。
「うーん、動物園なぁ」
「いせかいに、ないの?どうぶつえん」
悲しそうな顔をして聞いてくる。
「動物園さがしてみような」
ひとつ目標ができた。この世界で動物園があるか確認してみよう。
「うん!」
よかった、笑顔になった。そろそろ、俺までここで寝ているわけにもいかないか。
そう思い、身体を起こそうとしたその時、部屋の外から足音が聞こえてきた。
―――コン、コン
「目を覚まされましたか?」
扉の外から女性の声が聞こえた。