表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

26 学校



ディスケスさんは、まだ仕事があるといって途中で別れ、家まで戻ってくると、家の前にフレイアさんがいた。

「おかえりなさい」

そう言って、出迎えてくれる。

「戻りました」

「フレイアさん、ただいま」

唯がちょこんと頭を下げる。

「どうかしましたか?」

何か話でもあるのだろうか、俺たちを待っていたような雰囲気だったので、聞いてみた。

「えぇ、ユイちゃんのことで、ご相談がありまして」

「唯のことですか?」

唯に何かあるのだろうか。家の前で話していても仕方がないので、ひとまず、家の中には行ってもらうことにした。


「ユイちゃんのことなんですけど、学校に通わせることを考えてみませんか?」

家に入り、椅子に座ってもらうと、フレイアさんがそう提案してきた。

「学校ですか?」

「はい。教団で学校を開いているのです。そこで、文字や計算などを教えているので、ユイちゃんにちょうどいいかと思いまして」


体調を崩す前の唯は、幼稚園に通っていた。友達もできて楽しかったらしい。病気になり、幼稚園に行けなくなったことが辛かったようだ。幼稚園に行きたいと言っていたことを覚えている。


「ゆい、がっこうにいくの?」

俺の横で話を聞いていた唯がぽつりとこぼす。

「ユイちゃん、学校行きたいですか?」

フレイアさんの声に唯はすぐには反応せず、考え込んでいる。

「唯、学校に行きたいか?」

俺がそう声を掛けると、唯は顔を上げて俺を見つめてきた。

「ぱぱ、ゆい、がっこう、いってもいいの?」

「唯が行きたいならいいぞ」

俺の言葉に唯の表情がパッと笑顔に変わる。

「ぱぱ、ゆい、がっこういきたいっ!」

フレイアさんも笑顔で唯を見ていた。


それから、一度、学校を見てみようということになり、学校のあるディオネ教団の神殿に行くことになった。

「もともとは、神官になりたい方々や新米の神官たちに神学を教えるところだったのですが、時を経て信者の皆様に神学を教える場となり、今は読み書きを教える学校になっています」

道すがらそうフレイアさんが教えてくれた。


今でも神学を教えることが中心だが、庶民は専ら読み書きや計算を教える授業に多く集まるらしい。また、読み書きを教える授業も、子供たち中心のものと大人に教えるものの2種類あり、子供たちに教えるものには読み書きのほか神学も含め、しっかりとしたカリキュラムを用意しているとのことだった。


カデッサの街では、5歳になると教団の学校に子供を通わせ、そこで5年間、読み書きと計算を習うことが最近定着し始めているらしい。それでも、学校に通う子供は、カデッサの街にいる子供の半分以下なのだそうだ。


子供たちの授業料は、時々寄付を募るのだが強制ではなく、基本無料で行っている。これは、庶民が通いやすくするための措置であり、裕福な家の者は相応の寄付をしているそうだ。それに対して大人は有料になっている。銀貨10枚で5回の授業を受けられるらしい。


「タケルさんも通ってみますか? 文字の読み書きができるようになりますよ」

先ほど、商人ギルドに行ったときの話をしたところ、俺も授業を受けたらいいのではないかと提案された。たしかに、この先、読み書きができないと商売に支障があるような気がするので、あとで考えてみることにする。


そんな話をしながら歩いていると、大きな建物に到着する。

「ここがディオネ教団の神殿ですよ」

案内してくれたフレイアさんが教えてくれた建物は、教会に似ていた。それと、3階建ての建物が横に並んでいる。こちらが事務所や学校なのだろう。見た限り、校庭のようなものはないらしい。

「ぱぱ、ここががっこう?」

唯は、幼稚園とは違う建物に驚いていた。

「そうですよ、ユイちゃん」

唯の問いにフレイアさんが笑顔で答える。

学校というと、俺は校庭を初めに思い浮かべてしまうが、この世界ではちょっと違うのかもしれない。


フレイアさんがその建物に近づくと、こちらに気付いた女性が歩いてくる。その服装は、いかにもシスターといった感じで、ここが教会なのだなと思わせる。

「フレイア様、お久しぶりです」

こちらに歩いてきた女性は、見た目の年齢はフレイアさんとそう変わりがない気がするのだが、言葉遣いがとても丁寧だった。

「セレネ、久しぶりです」

挨拶の後、学校を見せてほしいと頼むと、セレネと呼ばれた女性が案内してくれることになった。


学校は、3階建ての建物の方にあるらしく、そちらに歩いていく。

「ここでは、主に神学を教えています。それと教典を読めるようになるために読み書きを教えてもいますね」

セレネと呼ばれた女性が、建物の中を案内しながら教えてくれた。読み書きを教えるのは、教典を読めるようにするためらしい。

「子供たちには、この世界の成り立ちなども含め教えております」

教室の中では、唯と同じくらいの子供が机に座って先生の話を聞いていた。

「授業は、だいたい始まりの鐘から中天の鐘まで行います」

始まりの鐘とは、午前9時ぐらいを差し、中天の鐘は正午を差す。午前中だけの授業らしい。

「授業は、水の日から金・土・火・木の日に行い、光の日と闇の日はお休みとなります」

週休2日制ということのようだ。


あとでフレイアさんに聞いたところ、日本でいう曜日のように、水の日、金の日、土の日、火の日、木の日、光の日、闇の日があり、これを4回繰り返すと月が変わるらしい。月の概念もあり、13の月をひとまとめにして1年としている。1か月が28日、1年が364日なのだそうだ。


「ぱぱ、ゆい、べんきょうするっ!」

唯は自分と同じくらいの子供たちが授業を受けている様子を見て、自分もやりたくなったらしい。

セレネさんは、唯の言葉に笑顔で頭を撫でている。

「ユイちゃん、ていうのね。一緒にお勉強しましょうね」

「うんっ!」


その後、事務室のようなところに連れて行かれ、諸注意などの説明を受けて、神殿をあとにする。

これまでの幼稚園と違うところは、送り迎えがないことだろうか。この神殿は、住んでいるところからそれほど遠いわけでもないので、通うには問題ない。


もうすぐ子供たちの授業の区切りがあるそうなので、唯の学校通いはその時からとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ