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25 ビー玉の価値


大通りにある宝石屋は、入り口に武装した若い兵士風の男が立っていた。

「よぉ、入るぜ」

ディスケスさんは、その兵士にひと言声をかけて店内に入る。知り合いらしく、その兵士は軽く頭を下げていた。


宝石屋の店内は、宝石屋らしくガラスケースに宝石が並べられて……というわけではなく、カウンターらしきところに人がいるだけで、展示品1つなかった。事前に宝石屋と知っていなければ、何を扱っているのか店の様子では絶対にわからない気がする。

「ディスケスか。どうした?」

その店員らしき男がディスケスに話しかけてくる。

「こっちの小僧が買い取りの物、持ってきたんだ。見てやってくれ」

ディスケスさんの言葉に、その男は俺たちに視線を向ける。唯は、男がこちらを向いたためか、ちょこんと頭を下げていた。そんな唯の後ろにまわり、俺は唯のリュックサックから透明なビー玉を1つ取り出す。

「これなんですけど…」

店の男にビー玉を手渡そうとするが、

「おっと、ちょっと待ってくれ」

男は、カウンター下から手袋を取り出して、手にはめる。

「……ふむ」

ビー玉を見つめたまま、何も言葉を発しない。静寂の中、唯は視線を俺と男の間を彷徨っていた。

「なかなかのもんだろ?」

その静寂を打ち切るようにディスケスさんが声をかける。

「そうだな…、そっちの部屋で話をしようか」

カウンター横の扉を指差し、俺たちをそちらに行くよう促す。ディスケスさんが先に扉を開け、ともに中に入ると、男はカウンター奥に、来客だ、と伝えて部屋に入ってきた。


「まず、先に聞いておくが、盗品の類ではないな?」

俺たちを席に着かせ、最初の言葉がそれだった。

俺がビックリしていると、ディスケスさんが答えてくれた。

「そいつの心配はないぜ。俺が証人になる」

男はその言葉にディスケスさんを見てひとつ頷くと、片眼のメガネのようなものを取り出し、ビー玉をじっくりと見始めた。


「さて、この品なら金貨30枚ってところか。多少傷があるようだが、これだけの純度のガラスは見たことないな」

ビー玉から眼を離し、ビー玉の金額を伝えてくる。その額に俺はまた驚いた。

「ぱぱ?」

唯には俺がなぜ驚いているのかわからないらしい。当然だ。唯にはビー玉の日本での価値とこの世界での価値の違いなどわかるわけがない。


金貨30枚というのは、俺の感覚だと日本円で30万円といったところだ。日本ならビー玉なんて100円ショップで買える。1つではなく、数個単位で。それが、この世界では30万円…。暴利もいいところだが、文化の違いということだろう。それでも、所詮はガラスなので、とんでもなく高額になることはなかった。


「まぁ、そんなもんか」

ディスケスさんも納得しているらしい。俺にはその価値がさっぱりだったので、ディスケスさんの言葉を信用することにした。

「それじゃ、その金額でお願いします」

買い取りが決まった時、ふと唯を見たが、大人の話と判断したらしく、大人しくしている。その表情に大きな変化はなかった。

「ぱぱ?」

俺が見ていることに気付いた唯がどうしたのかという表情で顔を向けるが、何でもない、と頭を撫でておく。


「それにしても、この宝石はどうしたんだ?」

ビー玉の出所に興味をもったらしいが、そう言われてもこの世界から見れば異世界の産物である。何と答えればいいのか迷っていたら、ディスケスさんが助け船を出してくれた。

「おれの故郷じゃ、まれに見つかるもんだ。といっても、これだけの純度だからそうそう造れるもんじゃねぇがな」

「お前の故郷っていうと、東大陸だったか?」

「あぁ、そうだ」

それで男は納得したらしい。


東大陸というと、醤油や味噌が作られていて、亜人が多く住むって話じゃなかっただろうか。ディスケスさんがそこの出身だというならば、なぜ、醤油や味噌を知らなかったのだろう。そんな疑問が頭に浮かんだが、さすがにここで言葉することもできず、黙っていた。


「それにしても、買い取ってしまっていいのか?」

それなりの価値あるものなので、確認のためか男が聞いてくるが、構わないと答えておく。俺にはこのビー玉に特に思い入れもない。


「この宝石を他も持っているのか?」

ふと気になった、という風に男が聞いてきた。

「あぁ、同じじゃないが、あと数個持ってるぜ」

なぜか、俺の代わりにディスケスさんが答えている。

「そうか…、もし良ければだが、俺に見せてくれないか?」

「そいつはかまわねぇが、今はそんなに金が必要ってわけじゃないぜ?」

「あぁ、わかっている」

そう言いながら、俺に視線を向けてきたので、唯のリュックサックからビー玉を数個取り出して、男に渡す。

「ふむ…、どれも中々のもんだな。もし買い取りが必要になったら、ここに来てくれないか?」

男はビー玉を気に行ったらしく、俺に願い出てきた。俺としても他に店を知らないので了承しておく。

「よろしく頼む」

そう言って男が頭を下げてきた。相当、気に行ったらしい。

その後、ビー玉の金額を受け取って、店を出た。


「おっさんは、東大陸の生まれだったのか?」

「おっさんって、てめぇ……、あぁ、そうだ」

俺をひと睨みしたあと、そう答えた。

「ハルキス…だったか? その食材の店に行ったとき、醤油や味噌が東大陸のものって、店の人が言っていたと思うんだが、おっさんは知らなかったのか?」

先ほど疑問に思ったことを聞いてみる。ディスケスさんが食材に興味があるとは思えないので、醤油や味噌が珍しい食材だった場合、知らなかったとしても不思議はないのかもしれない。

「東大陸っていったって、俺は南部の出身だぜ? って言っても、小僧にはわからねぇか…」


東大陸は、縦に長い大陸らしく、亜人が多く住みハルキスに近い北部と、ディスケスさんの出身である南部では、文化も風習も大きく違うそうだ。さきほどのガラスの話も、実際、東大陸の南部地方は、ガラスの製造である程度有名らしい。


「砂漠の多い土地柄、ガラスの材料があったってことだけだがな。それだって、あれほどの純度のものは見たことねぇが」


そんな話をしながら、家に帰る。帰り際、先ほどの商人ギルドで建て替えてもらった金貨と、家のこともあったので、半分の金貨15枚を渡そうとしたが、結局、金貨1枚しか受け取ってもらえなかった。




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