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24 商人ギルド


商人ギルドは、大通りに面した位置にあった。離れたところにコショウなどを買ったハルキスの商人の店が見える。2階建て、いや3階建てだろうか。3階部分だけ小さく突き出した感じだった。


「おーい、アーレスはいるか?」

ディスケスさんが建物に入るなり、そう叫ぶ。ついていった俺と唯はビックリしたが、受付のようなところにいた女性は、たいして驚くこともなく、お待ちください、とそれだけを言って奥に引っ込んだ。

「おっさん……」

その対応はどうなのかと言いたいところだが、ギルドとディスケスさんの関係がわからないので、それ以上言えなかった。


ディスケスさんが俺の方を向くが、その時、奥の部屋から1人の男が出てくる。

「おぅ、ディスケス。どうした? また商売でも始めるのか?」

その口ぶりがからかっているようにも聞こえた。というより、ディスケスさんが商売をしていたことにも驚いたが。

「うるせえ、思い出させるなっ!」

出てきた男が、ディスケスさんの言っていたアーレスなのだろう。気安い仲らしく、睨みつけるような眼をしながらも、口は笑っている。

「それじゃ、そっちの連れか?」

「あぁ、公園の屋台使いたいってんで、連れてきた」

「……ふぅん。……で?」


とりあえず、自己紹介と公園の屋台で料理屋をしたいことを伝える。当然、何の料理を売るのか聞かれたが、まだ決まっていないので、そのまま答える。


「そうか、それにしてもディスケスに親戚がいたとはな。世の中珍しいこともあるもんだ」

説明が途切れたところで、アーレスが突然そんなことを言い始めた。俺のことを説明するときにディスケスさんは、俺たちのことを遠い親戚と紹介していた。変な詮索を嫌ったのか、面倒だったのかはわからない。…たぶん、後者だと思われる。

「俺にだって、親も兄弟もいたっつーの」

「まぁ、いい」

初めは親戚ということに疑いを向けているのかと思ったが、そうでもないらしい。というより、どうでもいいのか、その話は後に続かなかった。


「それなら、あんたは…タケルといったか、商人ギルドへの入会ってことでいいんだな?」

「はい、よろしくお願いします」

入会するのに特段問題はないようだ。あっさりと、入会手続きが始まる。アーレスさんが受付のところにいた女性から書類を受け取り、俺に手渡してくる。


―――読めない……


書類には、ロシアで使われているような文字<キリル文字>やハングルや漢字のようなものが並んでいて、まったく読めない。これまで会話が通じていたので、特に意識することもなかったが、文字は日本語と違うらしい。

書類を目にして固まっていると、アーレンさんが声を掛けてきた。


「文字は読めないのか」

「ぱぱ?」

それまで大人しくしていた唯も俺を見上げてくる。

「…まったく読めん」

「仕方ないな…」

そう言って、アーレスさんは俺たちを受付横の小部屋に案内した。


「座ってくれ。俺が説明する」

入った部屋には1つのテーブルが置かれており、アーレスさんが席につき、向かい側に右から、俺、唯、ディスケスさんの順で席に着く。

「ディスケスは文字が読めたよな? お前が俺の説明と書類の内容が合っているかを確認してくれ」

「あぁ」

ディスケスさんが書類を手に取り、読み始める。すると、唯は興味があったのか、ディスケスさんの手元を覗き込んだ。

「ぎ…る…ど…の……」

唯が突然その書類を見て声を出した。

「なんだ、ユイは文字が読めるのか?」

「このお嬢ちゃんは文字が読めるのか」

視線が唯に集まるが、唯は難しい顔をして、その先の言葉を発しなかった。

「ん…、よめない…」

ガックリといった表情で俺を見る。


唯が読める文字は、日本語で言えばひらがなとカタカナ、あと簡単な漢字くらいなのだが、もちろん、そのどれもが書類には書かれていない。書類には、一番上、表題のようなところにキリル文字のような文字が4つとハングルが2つ書かれており、一行空けて、キリル文字のような文字とハングルが書かれていた。


「お嬢ちゃんは、軟字は読めるけど、まだ硬字は読めないのか」

そういったアーレスは、書類をディスケスから受取り、俺たちに見えるように指をあてながら、何が書いてあるのか音読してくれた。

「ここは、『ギルドの規約』って書いてあるんだ。まぁ、お嬢ちゃんには『規約』はまだ難しかったかな」

アーレスさんは、ニコニコと唯を見ている。

「それにしても、お嬢ちゃんが読めるのに親が読めないとはな…」

あきれたような表情で俺に視線を向けるが、何で唯が読めたのか、そっちの方が驚きだった。


この世界、というかアカルナイ皇国の公用語は、アカルナイ語又は神聖語と呼ばれるもので、文字は『軟字』と『硬字』に別れているそうだ。その昔、文字は『硬字』のみであり、貴族や神職者くらいが使うものだったか、庶民にまで文字が広がり、そこから『軟字』が開発されたとのこと。聞いているうちに日本語でいうひらがなと漢字に似ているような気がする。


また、この世界の識字率は日本ほど高くない。しかし、最近になって、教団が文字を教える学校を開いたため、少しずつ高くなっているとか。


「とりあえず、今のところは俺が説明する。でも、商人になるんだったら文字ぐらい読めるようになれよ」

アーレスさんが書類の説明を始めた。

説明は、事前にディスケスさんから聞いていた話と大差はない。納付金は、金貨1枚を納めるらしい。それと、ギルド会員の証として、腕章が与えられる。これは、会員の証であると同時に、魔法具であるため、いろいろな機能が付いているとのこと。説明では、ギルドでお金を預けたり借りたりすることができるのだが、その認証に使う印章の役割が付加できるそうだ。


一通りの説明を終えた後、金貨1枚を納めて会員となる。金貨はディスケスさんが立て替えてくれた。それだけでなく、入会の書類への記入やその保証人―――会員になるには身元のはっきりした保証人が必要だったらしい―――にもなってくれた。この世界に来て、ディスケスさんにお世話になりっぱなしだったが、気にするな、の一言で片づけられた。


「それじゃ、明日にでも腕章を取りに来てくれ。商売のことは、そのときな」

会員の証となる腕章は、明日発行されるとのことであり、屋台のレンタルなどは、腕章交付後に決めるらしい。アーレスさんにお礼を言って、商人ギルドを出た。


俺たちは、ビー玉を買い取ってもらうため、宝石屋に向かった。



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