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23 仕事



正午の鐘が鳴る音が聞こえた。家の掃除で午前中が終わってしまったが、急いで何かをすることもないので問題はない。


「ちょうど昼メシだったか」

ディスケスさんも戻ってきたらしく、新しい俺たちの家で昼食となった。ただ、調理器具も材料も無いので、フレイアさんが家から持ち込んだ野菜スープとパンだ。俺が作ってもよかったのだが、そうそう材料をフレイアさんにもらうわけにもいかず、また、うちの姫君も、お腹がすいた、とこぼしているため、持ち込んでもらうことにした。


「あぁ、そうだ。お前らを見つけたところに行ってみたが、何も無かったぞ」

小さな物が落ちていないか、少し時間をかけて探してくれたらしい。俺自身もあまり期待していなかったが、唯の物はあって俺は手ぶらで異世界に渡って来たのか、とがっかりする。


「そういえば、いつも森には何しに行っているんだ?」

ディスケスさんは毎日行っていると言っていたので聞いてみると、

「ディーは、領兵の指南役なんですよ」

そうフレイアさんが教えてくれた。俺には『指南役』というものが、何をするものなのかわからなかったが、ディスケスさんが教えてくれる。

「森の訓練場で兵士どもに戦い方を教えてやってんだよ」

詳しく聞いてみると、森に隣接する形で兵士の訓練場があり、ディスケスさんはそこで教官のような仕事をしているそうだ。まぁ、それだけが森に入る理由ではないような口ぶりだったが。


このカデッサは、アカルナイ皇国領であるため皇国騎士団が駐留しているが、領主の私兵ともいえる領兵が存在する。騎士団は、外敵―――他国からの侵略―――や比較的強めの魔物などを相手にするのに対し、領兵は、領内警備や領周辺に潜む比較的弱い魔物の退治などを扱っている。ただし、近隣他国との関係は良好で、最近は強い魔物も現れないため、騎士団の駐留も形式的なものらしい。


「それで、このあとどうすんだ?」

昼食後、お茶を飲んでいると、ディスケスさんに午後の予定を聞かれたので、掃除をしながら考えていたことを話す。

「あぁ、このビー玉を売れないかと思って…。それで当座の資金にできればいいんだが…」

先ほど唯から譲り受けたビー玉の1つをディスケスさんに見せる。

「ほぉ…、こいつはすげぇな。こんなもの持ってたのか」

「まぁ、リュックサックに入っていたんだが」

俺から受け取ったビー玉を見ながら、

「それで? 金には換えられると思うが、その金でどうすんだ?」

そう眼を離さずに聞いてきた。


今の俺にできることといえば、やはり料理を作ることぐらいしか思いつかない。俺の腕でも、ある程度通用することは、ディスケスさんやフレイアさん、テティスで実証済みだ。この世界に無い料理を提供できれば、生活するだけの稼ぎは得られるだろうと考えていた。


―――どこか料理人として雇ってもらうか、俺自身が店を構えるか…


日本で料理人をしていたといっても、雇われ料理人であり、自分の店を開いていたわけではない。接客も満足にしていない。

…となると、どこかの食堂に雇ってもらう方が俺としては楽なのだが、それで、女神の『俺にできること』に合うのかわからない。それに料理人として自分の店を持ちたいという願望もある。


「小僧にできることといやぁ、料理か…」

俺が思案に暮れていると、ディスケスさんがすでにビー玉から眼を離し、俺を見ていた。

「そうですね。タケルさんの料理は美味しいですし、このカデッサでは珍しいので、いいと思います」

フレイアさんも料理に関しては太鼓判を押してくれるらしい。

「…となると、料理屋か…」


俺たちが話している間、唯は静かに俺たちの話を聞いている。時折、手元のお茶を口に運びながら。大人の話―――難しい話―――と思ったようで、口をはさむことはなかった。


「なぁ、小僧。昨日、公園でやっていたような屋台をやってみるっつーのはどうだ? それが受けりゃどこか料理屋に雇われるか、自分で店を開くかしても、失敗しないんじゃねぇか?」

隣でフレイアさんも頷いている。

「屋台か…」

公園で屋台を見たとき、それが俺に合っているとは自分でも思ったが、それが一番失敗の少ない方法なのだろうか。接客が不安だが。

「屋台となると、商人ギルドに話をつけといたほうがいいな」

「商人ギルド?」

商人ギルドが何なのかわからないが、屋台と関係あることなのだろうか。

「あぁ、あの屋台は商人ギルドの管理だからな」


商人ギルドは、その名のとおり商人たちを管理する組織らしい。屋台などを所有しており、それをギルド会員に貸し出しも行っている。公園の屋台もその1つだそうだ。また、ギルド会員になると提携店で安価で材料が仕入れることができ、商人ギルドの会員として流通や販売での身分保障もある。ただし、定期的に一定額のお金を納める必要があり、滞納し続けると地位のはく奪もあるとのこと。まぁ、商売をするのであれば、入会していて損はない組織のようだ。


「つーわけで、商人ギルドに行くか」

お茶を飲み終わったディスケスさんが、そう言って席を立つ。

「あぁ、たのむ」

俺も出かける準備をするため、席を立った。

「ディー、お願いしますね」

「わかってる」

フレイアさんは、今日もお留守番らしい。案内に2人もいらないので構わないが、フレイアさんはあまり外に出ようとはしないようだ。


「ぱぱ、おでかけ?」

唯が席から降り、唯が俺を見上げて聞いてきた。

「あぁ、お仕事の準備してくるからな」

そうディスケスさんと出かけることを伝えると、

「ゆいもいくっ!」

「あーっと…」

あちこち行くことになりそうなので、フレイアさんが残るなら、唯と一緒にここにいてもらうつもりだったが、唯は俺と一緒に行きたいらしい。

「ん? いいんじゃねぇか?」

ディスケスさんに視線を向けると、あっさりと了承の言葉が返ってきた。

「わーい、おでかけっ」

唯も喜んでいるようだし、まぁ、いいか。


唯は早速リュックサックを背負い始める。外套を着るのを忘れているらしい。それを教えると、はずかしそうにリュックサックを下し、玄関に置いておいた唯用となった外套を着て、リュックサックをまた背負う。


「いいのか?」

それでも気になったので、出かけるところでディスケスさんに聞いてみたが、特段問題はないらしい。

「いってらっしゃい」

一緒に家を出たフレイアさんに見送られ、市街地に向かった。




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