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21 新しい家


フレイアさんからリュックサックを受け取った唯は、さっそくそのリュックサックを背負う。その中身を確かめる気はないようだ。俺としては中身を確かめたかったが、嬉しそうに背負う唯からリュックサックを奪う気にもなれず、確認はいつでもできると思い直し、そのままにしておいた。


「一緒にあったので、もしかしたらと思い、持ってきたのですが、ユイちゃんのでしたか」

唯にほほ笑みながら、フレイアさんがそう教えてくれた。

「フレイアさん…ありがとう…」

唯が頭をちょこんと下げる。

「ユイちゃん、よかったです」

テティスも嬉しそうに唯の頭を撫でている。えへへ、と唯がテティスのところに戻り、その足に抱きつく。


「一緒にあったって、俺たちがいたところに、ですか?」

不思議に思い、フレイアさんに聞いてみたが、答えたのはディスケスさんだった。

「あぁ、小僧とユイ、それとそのリュックサックが落ちていたんだ」

説明してくれるのはありがたいが、その説明だと俺たちが物のように聞こえてしまい、思わず苦笑してしまう。

「そうっすか…」

その他には何も落ちていなかったのだろうか。それを聞くべきか思いあぐねていると、

「目についたのが小僧たちとそのリュックサックだったし、森の中だから他に小さなものがあっても気が付かないがな…」

「そうですね」

ディスケスさんの言葉にフレイアさんが頷く。リュックサック程の大きさのものならば気づくが、小さいものとなるとよく見ないとわからないということだろう。

「なに、どうせ今日もあの森には行くんだから、見てきてやるよ」

「いいのか?」

フッと笑ってディスケスさんが、森に行くのはいつもの日課だ、と請け負ってくれた。

「さて、そろそろ行ってみましょう」

フレイアさんの言葉にみんなが動き出す。


「ユイちゃん、行ってきます、です」

外に出るとテティスは、お店に行く、と言って、市場の方へ歩いていく。

「テティスお姉ちゃん、いってらっしゃい…」

唯が手を振って送り出しているが、その表情は残念そうだった。もう少し一緒にいたかったのかもしれない。

「それじゃ、俺も森に行ってみるか」

外套を着ているのは昨日と同じだったが、腰には剣を差し、背中には弓矢を背負っていた。ディスケスさんは、隣の家には行かないらしい。

「フレイア、あとはよろしくな。……小僧、変な気起こすんじゃねぇぞ!」

変な気って何だ、おっさん…。後の言葉はフレイアさんに聞こえないように言ったため、フレイアさんが俺のすぐ隣にいる以上、滅多な言葉を言えない。

「ディー、行ってらっしゃい」

そして、ディスケスさんも街の外側に向かって歩いていく。


「ぱぱ、ここがゆいたちのおうち?」

1分もかからず隣の平屋の一軒家に着き、その家を唯が見上げている。

「あぁ、そうだぞ」

そんなやり取りの間、フレイアさんが扉の鍵を開けていた。

「さぁ、どうぞ」

扉を開き、俺たちを先に入れてくれる。その開いた扉に唯が飛び込んだ。


「わぁー」

家の中に入った唯が感嘆の声を上げていた。唯の後を追うと、まず2畳程度の部屋と、その先に8畳くらいの広さの部屋があった。2畳くらいの部屋に下駄箱のような戸棚、外套掛けがあることから、おそらく玄関だと思われる。下駄箱に室内用のサンダルが置いてあったので、それを履き、唯を追いかけると、その先の8畳くらいの部屋にいた。


8畳くらいの部屋は、居間リビングのようだ。4人掛けの木のテーブルが置いてあった。居間リビングには、さらに4つの扉が付いていたので、唯と一緒に1つ1つ開けて、中の部屋を確かめる。


「ぱぱ、ここ、だいどころ?」

最初に開けたのは台所というか厨房らしい。フレイアさんの家より、ひと回り小さいが、水瓶、3つのコンロ、作業台と、必要なものは揃っているそうだ。

「唯、美味しいご飯作ってやるからな」

厨房を見ると、何か作りたくなってしまうのは、職業病だろうか…。

「うんっ!」

嬉しそうに返事する唯を見て、頭を撫でておく。


「ぱぱ、ここ…なに?」

次に開いたところは、1畳足らず小部屋だった。部屋の奥側、3分の2の部分が一段高くなっており、高くなった所に穴が空いている。それと、水瓶。おそらく、トイレなのだろう。和式のトイレだ。

「唯、ここはトイレだな」

「そうですね」

部屋の外で、フレイアさんが同意してくれた。そういえば、フレイアさんはこの家の造りは知っているはずなのに、何も言わなかった。唯と俺が楽しそうに扉を開けているので、フレイアさんもそれを楽しんでいるのだろう。


「これ、おトイレ?」

唯が不思議そうに俺を見上げる。アパートでは洋式トイレだったのと、便器が無いので、唯にはトイレには見えなかったのかもしれない。落下式ぼっとんトイレなんて見たことないだろうし。唯が落ちるほどの穴ではないのだが、何かしら手を加えようと考える。


残りの2つは、6畳程度の部屋と4畳半位の部屋だった。広い方は寝室として、狭い部屋は物置として使っていたらしい。どちらにも窓が付いているので、唯が大きくなったら1人部屋にもできる。しばらくは同じ部屋だが。


「ぱぱ、おくつ、ぬがないの?」

すべての部屋を見終わった後、居間リビングに戻ってきたのだが、靴を履いたままであることに気付いた唯が不思議そうに聞いてきた。

「玄関で、このサンダルに履き替えるんだ」

履き換えたサンダルを指さして教えるが、家の中でサンダルを履くということに違和感があるらしい。アパートでは、サンダルはともかく、スリッパなんてものも履かずに過ごしてきたことが原因だろう。

「ようちえんみたい…」

唯が通っていた幼稚園では上履きを履いていたので、それを想像したらしい。

「ユイちゃんが過ごしていたお家ではどうだったんですか?」

フレイアさんも気になったのだろう、唯に聞いてくる。

「えっと、…はだし?」

寒い時は靴下を履いていただろうが、基本、裸足だ。台所以外は畳だったので、自然とそうなってしまう。フローリングなんて洒落たアパートではない。

「そうなんですか」

いまいち理解できていない表情だったので、日本の家について簡単に説明しておいた。

「お掃除が簡単そうですね」

これが日本の風習に対するフレイアさんの感想だった。


その後、フレイアさんの家から掃除道具---といっても、箒と雑巾くらいだが---を持ち込み、一通り掃除を行った。昨日、フレイアさんが掃除してくれていたこともあって、昼前には掃除も終わった。居間リビングに戻り、そこでようやく、唯のリュックサックの中身を確かめることにした。



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