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20 贈り物



「ぱぱ…、ぱぱ…」

まどろみの中、唯の声が聞こえてきた。肩のあたりがゆさゆさと揺らされている。

「んー…、唯、どうした?」

「ぱぱ…、朝…」

目を開けると、カーテン越しに光が入り込んでおり、ランプが必要ないほど明るくなっていた。


「ぱぱ、おはよう」

布団に入ったまま、唯があいさつをしてくる。

「あぁ、おはよう、唯」

大きく伸びをして、身体を起こす。唯もつられて起きた。


周りを見渡すと、そこは病室でも、俺たちが住んでいたアパートの一室でもなく、昨日見た木造りの部屋だった。この景色を見て、昨日の出来事が夢でないことを実感する。


「ぱぱ? ここ、ゆいのおうちじゃない?」

唯もきょろきょろと周りを見渡していた。

「唯、ここはディスケスさんのお家だ。フレイアさんやテティスはわかるか?」

「……うん、思い出した」

少し考えるような仕草をしたあと、思い出したらしい。

「ぱぱ、いせかい?」

ここは、異世界なのかを聞きたいのだろう。

「そうだ。唯は異世界に来るの嫌だったか?」

「ううん。ぱぱといっしょだから、いい」

唯が可愛いことを言ってくれる。その言葉に嬉しくなって、唯を抱きしめてしまった。

「ぱぱ、くるしい…」

ちょっと、強く抱きしめてしまったらしい。少し力を緩めると、えへへっと唯の笑った声がした。


コン、コン…


ベッドの上で唯と遊んでいると、扉がノックされる音が聞こえた。

「はーい、おはようございます」

だれかはわからないが、ノックにあいさつで返す。たぶん、フレイアさんかテティスだろう。

「おはようございます。朝ごはんができているので、起きてきてくださいね」

その声はフレイアさんだった。扉を開けずに、そう言ってくる。

「わかりました。そちらに行きます」


部屋から離れていくフレイアさんの足音を聞きながら、唯とベッドから降り、居間リビングに向かう。向かう途中で、昨日から着替えていないことに気付いた。俺は、長袖のシャツにカーゴパンツ。仕事以外で着ていた普段着だ。唯は、桃色の上下のスエット。入院中に着ていたもので、胸のところにデフォルメされたウサギのワッペンが付けられた、唯のお気に入りのものだった。


それに対し、ディスケスさんやフレイアさん、テティスは貫頭衣のような服を着ており、腰のところをヒモで縛っていた。それが、この世界の衣服の標準なのだろう。街でも同様の服装が多かったように思う。


居間リビングに入ると、ディスケスさんが昨日と同じ場所に座っており、新聞のようなものを見ている。

「おう、おはよう」

俺たちに気付いたディスケスさんがそれから目を離し、声を掛けてきた。

「おはようございます」

俺と唯がそろってあいさつを返すと、厨房から人が出てきた。

「おはようございます」

ちょうど、厨房から出てきたテティスが俺たちに気付いたようだった。

「あぁ、おはよう」

「テティスお姉ちゃん、おはよう」

そう言った唯が、俺から離れ、テティスのところに歩いていく。


それは、人見知りする唯には珍しい行動だ。ディスケスさんにもフレイアさんにも話をすることに躊躇している様子はなかったが、少し遠慮がみられた。しかも、俺が近くにいる状況で、俺から離れてだれかの傍に行くというのは、俺の知る限り、相手が唯の祖母だったときくらいだった。


「ユイちゃん、おはよう」

テティスは、片手にパンをのせた木皿を持って、もう一方の手で唯の頭を撫でる。

「えへへっ」

唯が笑ってテティスの足に抱きついた。

「ユイちゃん、おはようございます」

テティスの後ろに来ていたフレイアさんも笑顔で唯に声をかけた。その手には、野菜スープの入っていると思われる寸胴鍋を持っている。

「おはようございます、フレイアさん」

唯はチョコンとお辞儀をして、あいさつを交わしていた。


唯にとってテティスがどのような存在なのかは、まだ、よくわからないが、唯の中で近しい存在であることは容易に想像ができる。唯のまわりにそういう存在がいてくれることは、少し寂しくもあるが、喜ばしいことのはずだ。そういう存在が増えてくれればと思う。


そんなやり取りを見ていたのだが、

「小僧、早速テティスにフラれやがったな…」

変なことを言ってニヤニヤしているオッサンは無視することにした。


朝食を食べ終わり、お茶をいただいていると、

「タケルさん。隣のお家に行ってみますか?」

フレイアさんがそう聞いてきた。

「そうですね。いろいろ準備もしなければならないのでしょうけど…」


住処は決まったが、本当に何もない状況なのだから、生活に必要なものを揃えないといけないのだが…先立つもの、つまりお金がない。そして、新しく買い揃えるのにどのくらいのお金がかかるのか、想像もできない。お金がないのは、元の世界にいたときも同じだったのだが、何があるのか、どこにあるのかがわからないというのは、想像以上に頭が痛くなる。


「ぱぱ、となりのおうちって、なに?」

唯が寝てしまってからの話なので、当然、唯にはわからない会話だった。

「あぁ、これから住む家のことだぞ」

「……ぱぱとゆいのおうち?」

少し考えて答えを導き出したらしい。その言葉に頷いてやると、そうなんだ…、と嬉しいような、寂しいような、よくわからない表情を返してきた。


「そういえば、このリュックサックは見覚えがありますか?」

さぁ、これから隣の家に行ってみよう、となったところで、フレイアさんがどこからか見覚えのあるリュックサックを持ってきた。

「ゆいのっ!」

ビックリしたのだろう、唯が大きな声を上げる。唯はそのままフレイアさんに近づいて、リュックサックを取ろうと手を伸ばした。


それは、唯がとても大事にしているピンク色のリュックサックだった。




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