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17 料理の評価


居間リビングでのんびりしているとテティスが帰ってきた。

「ただいまです」

「おぅ」

「おかえりなさい」

ディスケスさんとフレイアさんが答え、フレイアさんは厨房に入っていく。

テティスは俺と目が合うと、こんばんは、というように、ちょこんとお辞儀をした。


やはり、パッと見、俺の妻だったさちに似ているが、よく見ると違いがわかる。髪の色が違うことも、その違いに拍車をかけているのだとは思うが。唯は、一度俺の身体の後ろに隠れたが、顔だけを出し、手を振っている。テティスの眼がその手を捉えたのだろう、笑みを浮かべ、手を振り返していた。


あいさつを済ませたテティスは、居間リビングを出て行ったので、俺もフレイアさんを追いかけ厨房に入ると、唯もついてきた。


厨房ではフレイアさんが、ハンバーグを盛りつけようと木箱から出していたので、代わってハンバーグを木皿に盛り付け始めた。

「これが、空気を抜かなかった場合のハンバーグです」

その1つをフレイアさんに見せる。他のハンバーグは、割れることなく形が整っていたが、1つだけ割れてしまっていた。

「あれは、こうなることを防ぐためだったんですね」

フレイアさんは、割れてしまったハンバーグと形が整ったままのハンバーグを見比べていた。

「ええ、まぁ、食べられないわけでは、ないんですけどね」

「そうですね」

その1つも木皿に入れる。


「ぱぱ、はい、これ」

唯がジャガイモを持ってきたので、それも木皿に盛り付けると、唯が今度はニンジンを持ってきた。

「ありがとな」

皿にニンジンを盛り付け、ハンバーグの木皿の盛り付けが終わりだった。

「フレイアさん、こっちは終わりました」

「では、居間リビングに持っていってください」

「わかりました」


居間リビングに戻ると、ディスケスさんが椅子を1つどこからか持ってきていた。

「この椅子を使うのも久しぶりだな」

そう言って、長方形のテーブルの短辺側に置く。

「それが、小僧の世界の料理か?」

俺が持っているハンバーグを見ながら聞いてきたので、

「あぁ、この世界にあるかどうかは知らないけど、ハンバーグってものだ」

「ふぅーん、これが“はんばーぐ”か…」

「まぁ、味は楽しみにしててくれ」

居間リビングにテティスが入ってくると同時に、厨房からフレイアさんが寸胴鍋を持って戻ってきた。

「お母さん、手伝います」

「それでは、パンを持ってきてくれますか?」

「はいです」

居間リビングに入ってきたテティスがそのまま厨房に行き、パンを持ってきた。

その間、俺と唯は居間リビングと厨房を往復してハンバーグの木皿を運ぶ。


こうして、居間リビングに夕食が並んだ。ハンバーグとその付け合わせ、野菜スープにパン。それが今日の、そしてこの世界初めての夕食だった。


ディスケスさんが長方形のテーブルの短辺側の席につき、横にフレイアさん、テティスと座り、向かい側に俺と唯が座る。唯は今回も頑張って自力で席に座った。

「そんじゃ、女神に感謝を」

「女神に感謝を…」

突然、ディスケスさんが女神に感謝をしだした。そして、フレイアさんとテティスが同じように言葉にする。俺と唯は何の事かと戸惑っていると、フレイアさんが説明してくれた。この世界の“いただきます”らしい。

3人に倣って、俺も同じように言うと

「めがみ、に、かんしゃ、を」

唯も真似をして言った。


「どれ、“はんばーぐ”とやらを食べてみるか」

ディスケスさんが、まずハンバーグを口にする。

フレイアさんとテティスは、何も手をつけずディスケスさんの様子を見ている。

ディスケスさんは、口に入れ、何も言わず咀嚼している。

「ぱぱ、はんばーぐ、おいしい…」

いつの間にか、ハンバーグを食べていた唯が潤んだ目を向けてそういうと、ディスケスさんの反応が待てなかったのか、テティスがハンバーグに手を出した。

「ぱぱ…はんばーぐ…大好き…」

大好きなハンバーグを食べられて嬉しかったのか、唯が嬉しそうに言った。


唯にしてみれば入院する前に食べたきりであり、数ヵ月ぶりのハンバーグを堪能しているようだった。

それにしても、俺が大好きなのか、ハンバーグが大好きなのか、判断に迷う言い方だなと思ってしまい、苦笑する。唯は両方好きなのだろうが、ハンバーグと同格なのか…。


「とっても美味しいですっ!」

テティスが大きな目をさらに大きくしている。

「はい、美味しいですね」

「まぁ、なかなかだな」

3人ともハンバーグは好評のようだった。この世界の人達の口に合わない、ということはないらしい。

牛肉、豚肉そのものを焼いて食べる習慣がこの世界にもあるようなので、口に合わない、ということはないと思ったが、概ね好評らしい。


「ぱぱ、じゃがいもさん、ほくほくしてて、おいしい」

ジャガイモを口にした唯がジャガイモの感想を言ってくる。皮を食べるか残すかは好みの問題なのだが、唯はジャガイモの皮まで食べていた。

「野菜の皮も食えるのか?」

唯がジャガイモの皮を食べているのを見てディスケスさんが聞いてくる。テティスもこちらを見ていたので、

「大丈夫。ちゃんと洗ってある」

テティスに向かってそう答えると、テティスはジャガイモに手を付けた。

「小僧、何でテティスに答えてんだっ」

「ディー、お行儀が悪いですよ」

ディスケスさんが手に持ったフォークを俺に向けていたので、フレイアさんに怒られていた。

「小僧のせいで、フレイアに怒られたじゃねぇか」

俺が悪いのか? 無視して、ニンジンを食べてみる。火が通っていて、甘みがあり美味しかった。

「無視するんじゃねぇ…」

おっさんが何か言っている。


唯もニンジンに口を付ける。俺は子供のころニンジンが好きではなかったのだが、唯は特に嫌いということはないらしく、出てくれば普通に食べている。唯が嫌いなものというと、レバーとうなぎ、ピーマンが思い浮かべられる。あとは、わさびが苦手らしいが、この世界にあるかどうかはわからない。


食べている間、ディスケスさんら3人の会話を聞いていたが、ジャガイモ、ニンジンはそのままの呼称だった。果物は呼び方が違い、野菜は同じ、調味料は半々といったところだろうか。


「タケルさん、ハンバーグもジャガイモも、ニンジンも美味しいです」

「えぇ、テティスが言うように、どれも美味しいですね」

「まぁ、小僧の料理も、なかなかじゃねぇか」


ディスケスさんを含め、この世界で俺の料理が合格点をもらえたようだった。


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