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16 ハンバーグの付け合わせ



ハンバーグ出来ました、とフレイアさんに伝えたのだが、夕食として作るのが早すぎたらしい。この世界の夕食までに時間があるとのこと。俺の時間感覚としては、今は午後5時くらいだと思われる。そして、この世界の夕食は、だいたい7時前後に食べるらしい。


時間のことについて、フレイアさんに聞いてみると、

「教団の鐘の音を聞けばわかりますよ」

そう答えが返ってきた。


教団の鐘とは、俺の時間感覚で言うと、午前6時、午前9時、正午、午後3時、午後6時、午後9時と3時間単位で鳴るらしい。貴族街にある教団神殿の鐘を鳴らすと、各街にある鐘台が追従して鳴る仕掛けが施されているので、どの街にいても、ある程度の時間はわかるとのことだった。


「鐘は、だれが鳴らしているんですか」

「教団神殿の鐘は、専門の神官が鳴らしていますね。各街にある鐘は、神殿の鐘が鳴ると自然に鳴りますよ」

フレイアさんがニッコリ笑顔で教えてくれた。


だれもいない鐘台にひとりで鳴り出す鐘…。ホラーかと思ったが、そういう魔法が仕掛けられているそうだ。鐘が鳴るのは約3時間単位で日常生活に支障がないのか聞いてみたが、特段、不便を感じることはないとのこと。それで支障を感じてしまうのは、時間に厳しい日本人の発想なのかもしれない。


「夜の始まりの鐘を過ぎれば、テティスも帰ってきますので、それから夕食にしましょう」

フレイアさんがハンバーグを木箱にしまう。保温魔法が施された箱らしく、テティスが戻って来る間、俺の感覚で2~3時間はそのまま保存できるらしい。

「それじゃ、俺はハンバーグの付け合わせを作っておきますね」

「わかりました」


ハンバーグの付け合わせといっても、ジャガイモとニンジンを茹でるだけなのだが。

「この片手鍋も借ります」

フレイアさんに断って、片手鍋と家にあったミニ・ジャガイモ、ミニ・ニンジンを準備する。

「唯、このジャガイモとニンジンをよく洗ってくれ」

「うんっ!」

唯にジャガイモとニンジンを渡すと、水場に持っていき、1つ1つ洗い始めた。


外に出てわかったのだが、今は日本の冬に近く、水も冷たい。唯も冷たい水に手をさらして洗っていた。

「唯、手大丈夫か?」

「うん、おみず、ちょっとつめたい…」

そう言いながらも、ニンジンを洗い終え、俺に渡してきた。

「もう少しだからな」

「うん」

ジャガイモを洗い始めた唯から離れ、ニンジンの皮をペティナイフで剥く。片手鍋には水が入れてある。剥き終わったニンジンを鍋に落としていき、すべて剥いたあと、コンロの火を付けた。


初めは強火で。沸騰したら中火のコンロ口に移して、コトコト煮込む。作業している間に唯がジャガイモを洗い終え、俺のところに持ってくる。

「できたっ!」

笑顔で俺に見えるようジャガイモ達を見せてきた。

「ごくろうさん」

唯の頭を撫でてやると、いっそう笑顔が強まった。

「ユイちゃん、手は大丈夫ですか?」

心配そうに声をかけるフレイアさんに、そのままの笑顔で、

「うんっ、だいじょうぶっ」

そう言って、手の平をフレイアさんに見せる。


そんなやり取りの間に、ニンジンが茹であがったので、鍋から取り出す。鍋の水を新しいのに替え、ジャガイモを投入する。今日は、皮つきのままだ。

「タケルさん、皮が…」

不安そうにフレイアさんが声を掛けてきたが、

「ぱぱ、ジャガイモさん、かわつき?」

「ああ、そうだぞ」

フレイアさんに答える間もなく、唯が答えを言った。

「皮つき? ですか?」

「えぇ、皮も食べられるので、皮のついたまま茹でます」

「そうなのですか…」


この世界では、野菜の皮は剥くものと思われているのか。フレイアさんの反応は、そういう反応だった。リリーのリンゴを皮のついたまま食べようかと思うのだか、やはり皮は剥くものなのだろうか。


「これは、皮を剥いて食べますか?」

唯がもらったリリーの実を指差して聞いてみるが、答えはあいまいだった。

「それは、剥く人も剥かない人もいますね」

それぞれ好みのようだ。根菜類は土の中にあるので何となく皮を剥く、果物は樹になるので皮はどちらでもかまわない、ということらしい。


ついでに、リリーの実を切って、唯の好きなウサギの形にする。

「わーい、ウサギさんっ!」

リリーの実を切り終わると、唯が嬉しそうに言ってくる。

「唯、ごはん食べたあとだからな」

「うんっ! ぱぱ、ありがとう!」

そう言って、俺に抱きついてきたので、頭を撫でておく。えへへっ、と笑って顔をうずめてきた。

「ユイちゃん、よかったですね」

フレイアさんも唯の頭を撫で始めた。


「それにしても、ウサギですか…。面白いですね」

リリーの実を見ながらそう言われた。“ウサギ”という言葉に怪訝な表情を見せないことから、同じ名の動物がこの世界にもいるらしい。それと、食べ物をそれに模して作るという発想がなかったのかもしれない。


茹で上がったジャガイモとニンジンも木箱に入れて、夕食の準備が終わった。それ以外は、お昼に出た野菜スープとパンが夕食に出るようだったので、ハンバーグと付け合わせ、野菜スープにパンが夕食の献立になる。


「それでは、テティスが返ってくるまでお茶にしましょう」

お茶にすることになり、厨房を出た。

「おっ、終わったのか?」

居間リビングに戻るとディスケスさんが声を掛けてくる。

「はい、テティスが帰ってきたら夕食にしましょうと」

「そうか」


居間リビングで一息ついていると、遠くで鐘の音が聞こえた。おそらく、フレイアさんの言う“夜の始まりの鐘”、つまり、だいたい午後6時の鐘なのだろう。その音で気づいたのだが、午後3時頃の鐘の音を聞いていないような気がする。その頃は、ハルキスの食材屋にいたころだろうか。醤油や味噌に気をとられ、気づかなかったのかもしれないが。


鐘が鳴り、しばらくすると、居間リビングの扉が開く。

「ただいまです」

笑顔のテティスが、扉の前に立っていた。


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