お茶会はもっと自由で楽しいものであるべき
――お茶会ってホントつまらない!
社交の世界では時折、貴族の女性が集まってお茶会をやるんだけど、王国ではその作法は厳しく定められている。
流れはだいたいこんな感じ。
まず主催者が、集まった女性たちに「今日のお茶は何々です。お菓子は何々です」と説明する。
そして、ひとりひとりのティーカップにお茶を注ぎ、お菓子を配る。
注がれた招待客たちはお茶を味わい、順番に感想を述べていく。
これに主催者は「ありがとうございます」と礼を言う。
ここから談笑タイムが始まるのだけど、話題は政治や経済、文化といった高尚なものに限られるし、自由に発言することも許されない。
最後には、主催者が「本日はお開きです」と言って、お客も「大変楽しかったです」と返して、解散。
だいたいこれを、一時間から二時間ぐらいかけて行う。
……どう? つまらないでしょ。
せっかく美味しい紅茶やお菓子があるのに、せっかくたくさんの女の子が集まったのに、どうしてこんな作法ガッチガチでつまらないお茶会をしなきゃならないのよ。
そりゃマナーは確かに大事だけど、いくらなんでも雁字搦めすぎる。お茶会はもっと自由で楽しいものであるべきよ。
この私、子爵令嬢ルテーラ・リネスは常々こう思っていた。
***
リネス家は父が城で高官を務めているので、王都にも邸宅を持っている。
私は家で家族や使用人によく紅茶を振る舞う。
「どう? 今日の一杯は」
私がブレンドした紅茶を飲んだみんなは――
「うむ……美味いよ」
「あなたには紅茶の才能があるわ」
「これ……このまま商品化できるだろ」
口々に褒めてくれる。
そう、私は紅茶が大好きで、紅茶の才能があった。
私の髪は柿色で、それを外跳ねのボブカットにしているんだけど、時折「髪の色まで紅茶みたい」と言われることがある。それを誇らしく感じるほどだもの。
だからこそ、今のマナーで雁字搦めのお茶会に我慢ならなかった。
今のお茶会を変えたいと何度も思った。
友達に改革を呼びかけたこともあったけど――
「やめた方がいいわよ。上級貴族から目をつけられるわ」
「伝統はそう簡単に変えられないから伝統なのよ」
「あなたの気持ちは分かるけど……」
志に賛同こそすれ、付き合ってくれるという人はいない。
フラストレーションは溜まる一方。
こういう時、私は決まってある店に向かう。
王都の大通りの端っこに、ひっそりとたたずむ小さな紅茶店。
軒先にカウンターがあり、フォリウムって青年が店主をやっている。
私と同い年ぐらいで、ちょっとぼさぼさ気味の金髪と、穏やかな空色の瞳と、紺色のベストが特徴。
私の紅茶友達でもある。
「こんにちはー!」
「やぁ、いらっしゃい。フォーソン地方の茶葉、入手してるよ。試飲する?」
「もっちろん!」
店先だからティーカップでとはいかない。
簡素なコップで名産地の茶葉を堪能する。
「ふぅ~、ちょっとクセがあるけど、後からやってくるこの上品な後味がいいわぁ」
「フォーソンの茶は、そこにハマると抜け出せなくなるよな」
「……ホント! 一時期、フォーソンばかり飲んでたもの」
フォリウムとは話がよく弾む。
多分その気になれば丸一日でも紅茶トークをできてしまうだろう。
「……で、今日はどうしたんだ?」
「え?」
「飲み方で分かる。ちょっと不機嫌だって」
基本的に明るくとぼけてる人なんだけど、時折見せる鋭さには驚かされる。
「分かる? お茶会よお茶会。ホントつまらなくって!」
私はフォリウムにお茶会についての愚痴をこぼした。
我ながら陰口叩くみたいでみっともなかったけど、フォリウムは黙って聞いてくれていた。
「……なるほどね。まあ、確かにウチの国のお茶会は他国と比べても形式ばっているな」
「あなた、他国のお茶会なんてよく知ってるわね」
「まあ、イメージだよイメージ」
妙に博識だし、ところどころの所作は上品。紅茶も他の店にないものを入荷してくれている。
フォリウムってもしかしたら、豪商の息子かなにかなのかも。
「ま、こういう時は一杯いこう」
「そうね」
フォリウムといる時が一番楽しい。
ますます話が弾んでいく。
「そういえばさ、噂によると第二王子様ってものすごくかっこよくて紅茶にも詳しいらしいの。一度お茶したいな~」
「王子とのお茶会なんてそれこそ堅苦しくてつまらないだろ。それより、俺とお茶しない?」
フォリウムが芝居がかった仕草で髪をかき上げる。私は思わず噴き出す。
「あなたとはいつもしてるじゃない」
「まあ、そうだけどさ」
二人で笑い合う。
もしもフォリウムがずっと私の隣にいたら楽しいだろうな――私は無邪気にこんなことを考えていた。
***
ある日、今日も昼すぎからお茶会があった。
主催者がお茶の説明をして、みんなで感想を述べて、お堅い雑談をして……やっぱりつまらない。
もし「ため息自由」というルールがあったら、10回ぐらいはついてたと思う。
せっかくの美味しい紅茶も、あんなピリピリした空気じゃとても楽しめないわよ。
こんな日は、真っ先にフォリウムの店に行く。
駆けつけ一杯って感じで紅茶を飲む。
「ふぅ~……」
「今のはシュティレの茶葉だ。リラックスには最適な一杯だけど、どうだ?」
「ありがとう、落ち着いたわ」
フォリウムにお礼を言いつつ、私は声を荒げる。
「フォリウム、やっぱり私、お茶会を変えたい! どうすればいいと思う?」
フォリウムは腕を組む。
「ミーゼル公爵夫人に訴えるしかないだろうな」
「ミーゼル公爵夫人……!」
ウェルデ・ミーゼル。
貴婦人界の首領といっても過言ではない人だ。
たとえ黒でも、この人が白といえば白になる。それぐらいのお方だ。
だけど、子爵令嬢に過ぎない私に、そんな人と会うツテはない。どうすれば……。
すると、フォリウムは私の思考を読んだように言ってきた。
「今度、王宮の一部を開放して、歴史の古いティーポットやティーカップの展示会をやることになっている」
「へえ、そうなんだ。よく知ってるわね」
「紅茶の店をやってると、こういう情報も入ってくるさ。展示会には当然ミーゼル公爵夫人も現れるだろう。そこでお前の想いをぶつけるしかない」
私も紅茶への情熱は誰にも負けない自信がある。
ミーゼル公爵夫人を口説き落としてみせる。
「ありがとう! 私、やってみる!」
***
しばらくして、フォリウムの言う通り王宮でティーウェアの展示会が開かれたので、私は行ってみた。
他では見ることのできないティーカップやティーポットが並び、私は夢中になって眺めてしまう。
(ああっ、すごい! あれは世界初のティーカップと言われたウルド器! あっちにはラーマス王国のティーポット! どれも素晴らしいわぁ~……)
……ここに来た目的を忘れるところだった。この展示会にはあまりにも誘惑が多すぎる。
すると、ちょうど目的の人物がいた。ウェルデ様だ。
グレーの髪をシニヨンにして、しっとりとした青いロングドレスを纏う。威厳のある険しい顔立ち、しかしそれ以上に美しい女性だった。
同じ女性として恐ろしくはあるのだけど、憧れも抱いてしまう。
私は声をかけた。
「初めまして。ルテーラ・リネスと申します」
「リネス子爵家のご令嬢ね。ごきげんよう」
口調は穏やかだけど、ものすごい威圧感だ。
少し話をしたいと言うと、ウェルデ様は快く応じてくれた。
私は思い切って切り出す。
「あの……お茶会の在り方を見直すことってできませんか?」
「……」
ウェルデ様の表情は変わらず、何も読み取れない。
「今のお茶会って、マナーで雁字搦めになっていて、せっかく色んな人が集まったのに、好きなことを喋ることもできない。はっきり言ってしまうと窮屈すぎると思うんです」
言ってしまった。もう引き返せない。
「私は今のお茶会をもっと自由で楽しいものに変えたいと思っています。しかし、伝統だからとなかなか賛同してくれる人は少ない。そして今、貴族女性の中で最も影響力があるのはウェルデ様だと思っています。ウェルデ様もよくお茶会を開いてらっしゃるとか……。ですから、ウェルデ様にお口添えしてもらえれば、今のお茶会を変えられるかもしれないと思い、このたびお願いに参りました」
ウェルデ様はじっと私を見てきた。
針のような視線で目を逸らしたくなるけど、逸らすわけにはいかない。
「お茶会は我が国の伝統文化であり、長い時間をかけて今の形式になっていったのです。それをそうやすやすと変えるなど許されることではありません」
予想通りの返答だ。
「子爵令嬢如きが無礼ですよ。わきまえなさい」
「う……」
予想以上にキツイ一言だった。
しかし、これは本当にその通りで、私なんかが公爵夫人に直接意見するなど常識外れもいいところだ。
「ルテーラさんとおっしゃったわね。どうしても今のお茶会を変えたいというのなら、実力を示すしかありませんね。では失礼」
これは予想と違う答えだった。
実力を示す……どういうことだろう。
私は呆然と、立ち去るウェルデ様を見つめていた。その背中はやはり手本としたいぐらい凛として美しかった。
***
後日、私はフォリウムに相談しに行った。
「実力ってどういうことだろう?」
「お茶で実力を見せろってことだろうな。ようするにミーゼル公爵夫人も唸らせるような一杯を淹れてみろってこと」
「唸らせるような一杯……」
私も紅茶には自信がある。
手強いだろうけど、ウェルデ様に「美味しい」と言わせる紅茶を淹れることはできるはず。
だけど、公爵夫人とのお茶会をセッティングするツテなんて――
「よし、だったら俺がお茶会をセッティングするよ」
「ええっ!? なんであなたがそんなことできるのよ!」
「紅茶の店をやってれば、色々なコネがあるものなのさ」
「紅茶の店万能すぎない?」
「まあとにかくそっちは何とかするからさ。今日のところはルテーラの茶を一杯ご馳走してくれよ」
「うん、いいよ」
私は店の中に入れさせてもらって、最近開発したブレンドをフォリウムにご馳走した。
「どう?」
フォリウムは至って真面目な顔になる。
「……いや、すごい。腕を上げたな、ルテーラ」
「えっ、ホント!?」
「このレベルの味を出せれば、公爵夫人も唸るだろう。ただし……」
「ただし?」
「お前がお茶会本番でヘマしたら台無しだけどな」
「ヘマなんてしないわよ!」
フォリウムといるとやっぱり楽しい。
公爵夫人とのお茶会。こんな大チャンスをくれたフォリウムに報いるためにも、絶対ヘマなんかできない。
いいえ、最高の一杯を出して、ウェルデ様をぎゃふんと言わせてやる!
***
その後、フォリウムは約束通り王宮でのお茶会をセッティングしてくれた。
当日を迎える。
めったに着ないフリルつきの水色のドレスに身を包む。私自慢の柿色の髪も整え、準備万端。
家族からは「とにかくしっかりな」「失敗してもめげないように」など、期待されているようなされていないような声をかけられる。
任せて。少なくともリネス家の恥にならないようにしなきゃ。
お茶会は王宮の応接間で行われる。
主催者となる私は先に入ったけど、絨毯も絵画もシャンデリアも、あらゆる装飾が一流で、気後れしそうになる。
だけど、私のお茶だって一流のはず……。気を強く持たないと。
お茶会の時間が近づき、お客が入ってきた。
ウェルデ様はもちろん、上流貴族のご婦人や王城の高官などが数人。そして――え!?
(フォリウム……!?)
紅茶店の店主フォリウムが入ってきた。
しかも、いつもとは明らかに雰囲気が違う。
金髪は凛々しく整えられ、白い礼服に身を包み、青いマントを纏い、穏やかな笑みを浮かべている。
私が目を白黒させていると、フォリウムが目の前で一礼する。
「第二王子フォリウム・エルージュと申します。本日のお茶会、誠に楽しみにしておりました」
「……ッ!」
間違いなく、あのフォリウムだ。
第二王子様は紅茶に造詣が深いと聞いてたけど、フォリウムが第二王子だったなんて。
今までフォリウムに対して抱いていたいくつかの疑問が一気に解きほぐされた瞬間だった。
「私の顔になにか?」
「い、いえっ……」
一人称もいつもの“俺”ではなく“私”。それも無理してる感じは一切なく「あのフォリウムがかっこつけちゃって」なんて思えず、素直にかっこいいと思ってしまう。
顔も声も背丈も同じなのに、私の知っているフォリウムとはまるで別人だ。
人間誰しも、公私でスイッチのオンオフをするものではある。私だってそうだ。
だけど、ここまで変わることができるなんて……。
全員が席につく。
「では、始めましょう。さっそく紅茶を淹れてくださる?」
「は、はいっ!」
ウェルデ様から声をかけられ、私は皆の前で紅茶の準備にかかる。
今日は私が腕前を披露するという趣旨だから、一から見てもらうことになる。
だけど、急に緊張してきた。このお茶会で失敗したら、おそらく二度とチャンスはないと思っていい。そうなったら、お茶会はずっと今のお堅いもののままになってしまう。
私にお茶会の未来がかかっている……。
そう思うと両手が震え、いつもやっているお湯を沸かすことすら、ままならなくなる。
ど、どうしよう――!
「らしくないじゃないか」
フォリウムの声!?
「いつも通りやればいいのさ。紅茶をグビグビと飲むいつもみたいにね」
「グビグビとなんか飲んでないわよ!」
反射的に言い返してしまった。
そこには、笑うフォリウムがいた。
「あ……!」
「これは失礼。彼女があまりに緊張されていたようなので、冗談を飛ばしてしまいました。ルテーラ嬢、お気を悪くしないでいただきたい」
自分なりのジョークだったと、フォリウムは場を和ます。
おかげで、私の緊張は一気に消えた。両手の震えが収まった。
そう、いつも通りやればいいんだ。フォリウムといつも紅茶を飲む時と同じように。
……ありがとう、フォリウム!
茶葉のブレンド。
王国で最もベーシックでポピュラーなハリーフ茶葉をベースに、フォーソン地方の茶を少々と、さらに異国由来のメイシア茶葉も加える。
これが今の私にできる最高の一杯を生み出す。
ティーポットから、赤褐色の一杯をカップに注ぐ。
「僭越ながら、この私ルテーラ・リネスが作り上げたオリジナルブレンドです。どうぞ、お楽しみください」
ウェルデ様を始め、全員がティーカップに口をつける。
「おお……!」
「これはすごいわ!」
「素晴らしい!」
反応は上々だ。
フォリウムはというと――
「ベースとなっているのはハリーフだろうが、独自のブレンドによって、そのハリーフ茶葉の味をさらなる高みに引き上げている。これほどの一杯を飲めることは本当に稀だ。先ほど緊張されていたのは演技だとするなら大したものだね、ルテーラ嬢」
「どうもありがとうございます」
褒めてくれた。それに紅茶通だけあって、コメントも他のお客とは一味違う。
最後のからかいはちょっと余計だけど。
だけど肝心なのはここから。ウェルデ様を満足させられなければ意味がない。
その表情からは満足しているかしてないか、とても読み取れないけど……。
「いかがですか?」
私の問いに、ウェルデ様はゆっくりと答えてくれた。
「見事な一杯だわ。これほどの一杯を楽しめるのは、いったいいつ以来かしら……」
ウェルデ様が柔らかな笑顔を見せる。
こう言っては失礼かもしれないけど、まるでかつて周囲から“お嬢さん”などと呼ばれていた頃にまで若返ったかのよう。
「ルテーラさん、この一杯、すっかり凝り固まった“伝統”というものをほぐすには十分すぎるものだわ。お茶会の未来について、ぜひあなたの話を伺いたいわ」
「は……はいっ!」
お茶会の後、私はウェルデ様とお話しする機会を設けてもらうことができ、お茶会についての想いを遠慮なくぶつけた。
お茶会はもっと自由で楽しいものであるべき――と。
ウェルデ様はこれらを笑顔で聞いてくれて、
「お茶会も、生まれ変わる時が来たようですね」
とおっしゃってくれた。
***
それからというもの、ウェルデ様はお茶会を少しずつもっと楽しいものに変えていこうと社交界で宣言してくれた。
これまでのような格式や優雅さは保ちつつ、主催者とお客がもっとリラックスして楽しめるお茶会へ。
これを機にお茶会は変わっていき、窮屈で堅苦しいお茶会から、柔らかく誰もが楽しめるお茶会へと変質を遂げていくことになる。
ある日、私は王城を尋ねた。
フォリウムが招待してくれたためだ。
王子としての姿をしているフォリウムと二人きりで面会することになった。
「こんにちは、フォリウム様」
すると、フォリウムは――
「公の場では様付けぐらいしないとまずいだろうけど、今はできれば俺の店に来た時のような感じで喋って欲しい」
「うん、じゃあそうする!」
私もそれを受け入れる。
まずはやはり私がウェルデ様に認められたお茶会の話題になった。
「実は、ミーゼル夫人も昔、お前みたいなことを考えていたんだって。この堅苦しいお茶会を変えたいって」
「へぇ~、そうなんだ!」
これは意外だった。
「だけど残念ながら、当時のミーゼル夫人は若く、身分も低く、お茶会を変えることはできなかった。その後、その悔しさをバネに、今のような威厳ある公爵夫人にのし上がったという経緯があるらしい」
若い頃のウェルデ様が、まるで私のような令嬢だったなんて。
私の一杯を飲んだ直後のあの柔らかな笑顔は、その頃の笑顔だったのかもしれない。
「……でも、だったらなんで公爵夫人になった後、お茶会を変えなかったんだろ?」
「それをやってしまったら、それは結局権力者からの押し付けになってしまうからね。ミーゼル夫人がかつてやられたことをやるだけになってしまう。不服に思う人も出るだろう」
「それもそうか……」
「だから夫人は待っていたんだろう。ルテーラのような令嬢が出てくるのを」
「私を……?」
「今までの伝統というぶ厚い壁に風穴を開けてくれるような……。お前がミーゼル夫人に『お茶会を変えたい』と訴えた時は本当に嬉しかったと思う」
あの時、ウェルデ様は「実力を示せ」とチャンスをくださった。立場の差を考えると、一蹴することもできたのに。
もしかしたらウェルデ様は、あの時の私にかつての自分を見出していたのかもしれない。
しばらく談笑が続き、不意にフォリウムが真面目な顔になる。
「? どうしたのフォリウム」
「だいぶ迷ったけど、やっぱり今ここで言っておきたい」
……なんだろう?
「俺もいよいよ王子としての責務を果たす年齢になり、そうすれば父上や兄上とともに数々の公務をこなすことも多くなる。あの紅茶店は近いうちに閉めるつもりだ」
「えっ……!」
紅茶店、閉めちゃうんだ……。
でもそれもそうか。フォリウムが王子として役目を果たすなら、店を経営している余裕なんかないもんね。
残念だけど、仕方ない。
「だけどルテーラ、俺はこれからも毎日お前の紅茶を飲みたい。だから、毎日俺のために紅茶を淹れてくれないか?」
「え、いいよ? 全然! いくらでも淹れてあげる!」
私は即答した。毎日お城に行って紅茶を淹れる。それぐらいお安い御用だ。
だけど、フォリウムは首を傾げて、頭をポリポリとかいている。
「やっぱりなぁ……伝わらないかもと思ったけど、やっぱ伝わらないか」
「え、なによ」
「あのな、俺が“毎日紅茶を淹れてくれ”って言った意味、分からないか?」
「分かるよ! 毎日私の紅茶を飲みたいんでしょ?」
「だ、だから……できれば察して欲しい……!」
「察してるって! フォリウムは私の紅茶が大好きなんでしょ?」
フォリウムは歯がゆいような顔つきを見せ、顔を赤らめて、こう言った。
「だから、俺と結婚して欲しいんだよ!」
一瞬、思考が止まる。数秒経って、ようやく理解する。
「えええええ!?」
「元々は趣味と、市井の情報を入手するために始めた紅茶店だった。だけどルテーラが客として来るようになってから、本当に楽しくて……。いつからか、お前のことが好きになってた。ルテーラが店に来ると、心が弾んでる自分がいたよ」
「フォリウム……」
「極めつけはミーゼル夫人に出したあの一杯だ。あれほどの一杯を飲まされたら、もう好きになるなって方が無理だ。このところはずっとルテーラのことばかり考えてた……」
フォリウムがここまで私のことを……。
「お前はどうだ? 俺のこと、どう思ってる?」
「わ、私は……」
私の心もすでに決まっていた。
「私もフォリウムが好き! フォリウムがずっと隣にいたら楽しいだろうなって、ずっと思ってたし、ずっとフォリウムの隣にいたい!」
「……ありがとう」
“ずっと”だらけの思いの丈を吐き出した私に、フォリウムは温かな笑みを返してくれた。
「でも、私なんかがフォリウムの奥さんになれるかな? なんの実績もない子爵家の娘だし……」
すると、フォリウムが噴き出した。
「何言ってんだよ。あのミーゼル夫人に認められる一杯を出した。これ以上の実績はないだろ。あの方が社交界に君臨してから、ずっと誰もできなかったことだ」
そういえば、そうか。
「ただし、これからルテーラもみんなから注目される存在になって、大変になるだろ。その時、お前を支える役目はどうか俺にやらせて欲しい」
「うん……頼りにしてる、フォリウム」
私たちは見つめ合う。まだまだちょっと照れ臭いけどとても心地いい。
紅茶で有名になって、王子様の奥さんになって、大変なことは沢山あるだろうけど、フォリウムとならきっとやっていける。そんな気がした。
この後、私が淹れた一杯は、これまでにない格別の味に仕上がった。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。




