感度10倍ちゃん・Ver.1.0
月曜日。
いつも通りの放課後。
化学準備室のドアを開けた瞬間、胸の奥がずきんと痛んだ。
昨日、家にまで侵入されて、電マを見られたこと。
昔の水着写真を笑われたこと。
フリル部屋着で「可愛い」と言われたこと。
全部が、頭の中でぐるぐる回っている。
(……もう、来なければよかった)
でも、足は勝手にここまで来てしまった。
部屋の中では、陽菜がいつもの笑顔で待っていた。
白衣の袖をまくり上げ、実験台の上で何かを調整している。
「おっ、涼香ちゃん!待ってたよー!昨日は楽しかったね♪」
陽菜の声は、いつも通り明るい。
まるで、昨日何もなかったかのように。
「……昨日は、勝手に入らないでって言ったはずです」
私は無表情を保とうとして、でも声が少し震えてしまう。
陽菜はくすくす笑いながら、試験管を手に取った。
「ごめんごめん!でも、涼香ちゃんの部屋、めっちゃ可愛かったんだもん。あのピンクのフリル……また見たいな♡」
「……っ」
顔が熱くなる。
特に、ベッドの下から引き出された黒い袋の記憶が、鮮明に蘇る。
陽菜はそんな私の反応を楽しむように、試験管の中の透明な液体を揺らした。
「今日はね、新しい薬だよ。コードネーム『感度10倍ちゃん・Ver.1.0』!」
「……また、ですか」
「うん!飲むと、全身の触覚が十倍になるんだ。軽く触られただけでも、すごくすごく感じちゃうよ♪」
私は一歩後ずさる。
「飲みません」
「えー、でも昨日、電マのこと、肩こり用って言ってたよね?だったら、これ飲んだら、肩こりも一瞬で吹き飛ぶかもよ?」
「……ふざけないでください」
陽菜は試験管を私の唇の近くまで持ってくる。
甘い、微かなバニラのような香りが漂う。
「ね?一口だけ。本当にちょっとだけ」
「……」
私は目を逸らす。
でも、陽菜の視線が、私の胸の奥を刺す。
(……昨日、あんなに見られたのに、まだここに来てしまった自分が、許せない)
その瞬間、陽菜が試験管を傾けた。
液体が、唇に触れる。
反射的に口を開いてしまい、ごくん、と喉を滑り落ちた。
「……っ!」
体が、急に熱くなる。
皮膚の表面が、ざわざわと敏感になっていく。
陽菜は満足げに笑う。
「はい、スタート!じゃあ、早速実験開始ね」
陽菜は私を、
前に使ったあの全自動くすぐりマシンの前に連れて行く。
「待って……!また、あれに……?」
「うん!でも今日は、くすぐりモードじゃなくて、『さわさわモード』だよ。優しく、優しく、全身を撫で回すだけ♪」
「やめて……!」
私は逃げようとするが、すでに陽菜に背中を押され、台座に立たされてしまった。
ガチャン。
四隅の拘束ベルトが、手首と足首を締め上げる。
大の字に固定される。
体が、完全に動けなくなる。
陽菜はリモコンを操作した。
ブゥン……。
機械の内側から、無数の柔らかいシリコン指が、ゆっくりと近づいてくる。
今日は、本当に「さわさわ」だ。
指先が、私の脇腹を、首筋を、優しく、ゆっくり、撫で始めた。
「……っ!」
最初は、ただの撫でる感触。
でも、感度が十倍になっている今――それは、電流のように、体を貫いた。
「ひゃ……っ!」
声が漏れる。
指が、制服の生地越しに肌をなぞるたび、全身がビクビクと震える。
「や……やだ……こんなの……っ」
陽菜はスマホを構え、動画を撮り始める。
「涼香ちゃんの反応、すごいね……まだ始まったばかりなのに、もうこんなに震えてる」
指の動きが、少しずつ変わる。
今度は、鎖骨のくぼみを、ゆっくり円を描くように撫でる。
「んっ……!」
背中が反る。
次に、耳の後ろを、息を吹きかけるように指が這う。
「はぁ……っ!」
息が、乱れる。
(……やばい……気持ちいい……)
頭では拒否しているのに、
体が、正直すぎる。
指が、スカートの裾を少しだけめくり、太ももの内側を、優しく撫で上げる。
「ひゃあっ……!」
体が跳ねる。
感度が十倍だから、ただ撫でられているだけなのに、まるで、一番敏感なところを直接触られているような感覚。
陽菜はリモコンを操作して、指の数を少し増やす。
今度は、両脇を同時に、ゆっくりと這い回る。
「んんっ……!だめ……っ、だめっ……!」
涙がにじむ。
気持ちよすぎて、息ができない。
指が、お腹のあたりを、円を描くように撫でる。
下腹部に、じわじわと熱が集まる。
「や……そこ……っ」
声が、甘く掠れる。
陽菜の声が、
耳元で響く。
「涼香ちゃん、可愛い……こんなに感じてるの、全部撮れてるよ」
「……撮らないで……お願い……」
でも、体は正反対に反応する。
指が、胸の膨らみの下を、優しく撫で上げる。
「んあっ……!」
体が大きく震えた。
限界が、急速に近づいている。
(……だめ……こんなところで……漏らしちゃう……)
頭では分かっているのに、
体が、もう制御できない。
陽菜は最後に、リモコンを操作して、
指の動きを少しだけ速くした。
全身を、優しく、でも容赦なく、さわさわと撫で回される。
「ひゃ……あっ……!もう……だめっ……!漏れちゃう……っ!」
体が、大きく痙攣した。下腹部に、熱いものが溢れ出す。
「……っ!」
スカートの下が、じわりと濡れる。
私は、拘束されたまま、体を震わせて泣き出した。
「う……うぅ……」
涙が、ぽろぽろと落ちる。
恥ずかしい。
情けない。
こんなところで、こんな目に遭って、
しかも全部動画に撮られている。
陽菜は機械のタイマーを止め、拘束を解除した。
私は台座に崩れ落ち、床に膝をつく。
陽菜がそっと近づいてきて、私の頭を抱き寄せる。
「涼香ちゃん……ごめんね。でも、すごく綺麗だったよ」
「……ひどい……」
私は陽菜の胸に顔を埋めて、小さく嗚咽を漏らす。
陽菜は私の背中を、優しく撫で続ける。
「動画、ちゃんと大事に保存するね。涼香ちゃんの、一番可愛い瞬間だから」
「……消して……お願い……」
陽菜は、少しだけ寂しそうに笑った。
「無理だよ。これは、私の宝物だから」
私は泣きながら、ただ、陽菜の温もりにすがるしかなかった。
(……もう、どうしようもない)
恥ずかしさと、悔しさと、そして、どこかで感じてしまった快楽の残り香が、胸の奥でぐちゃぐちゃに混ざっていた。
準備室の窓の外は、もう夕暮れだった。
アルコールランプの青い炎が、二人の影を、長く伸ばしている。
私はまだ、涙を止めることができなかった。




