4人でショッピング!
今回は実験ではなく日常です。
日曜日の朝。
ベッドの中でぼんやりとスマホを眺めていると、画面がぶるっと震えた。
陽菜からのメッセージ。
【陽菜】涼香ちゃん!今すぐショッピングモール来て!!緊急事態!!お願い!!!待ってるよー!!
「……は?」
私は即座に返信を打つ。
【涼香】休日です。行きません。
既読がつくのは早かった。
【陽菜】だめだめ!本当に緊急なんだよ!涼香ちゃんがいないと無理なの!お願い!今から行って!愛してるよ!!
愛してる、の文字に一瞬胸がざわついたが、すぐに無視する。
【涼香】断ります。
でも、次のメッセージが届いた瞬間、陽菜の必死さが画面越しに伝わってきた。
【陽菜】涼香ちゃんがいないと、実験材料、買えないんだ。みんなで待ってる。本当に、頼むよ。
写真が添付されていた。
ショッピングモールの入り口で、陽菜と陽葵とみゆき先輩が三人揃って、手を振っている自撮り。
陽菜の目が、少し潤んでいるように見える。
「……っ」
私はため息をついて、ベッドから起き上がった。
(……なんで、こんなに弱いんだろう)
陽菜の必死さが、胸の奥をチクチク刺す。
結局、私は折れた。
「はあ……」
着替えを始める。
クローゼットを開けて、普段着てる私服を選んだ。
白いブラウスに、淡いベージュのフレアスカート。
足元はシンプルな白スニーカー。
髪は軽くまとめて、ポニーテールにする。
鏡の前で自分を見て、小さく呟く。
「……こんな格好で、部長に会いに行くなんて、最悪」
でも、どこかで、陽菜たちに会うのが、少しだけ楽しみだったりもして。
(……認めたくないけど)
鞄に財布とスマホを入れて、家を出た。
ショッピングモールに着いたのは、午前十一時過ぎ。
土曜日の午後ということもあって、家族連れやカップルで賑わっている。
入り口の大きな噴水の前で、三人が待っていた。
陽菜はカジュアルなTシャツにデニムショーツ。
陽葵はピンクのワンピースでリボン付き。
みゆき先輩は白いシャツにロングスカート、
いつもの落ち着いた雰囲気。
三人とも、私を見つけると、ぱっと顔を輝かせた。
「涼香ちゃん!来てくれたー!」
陽菜が飛びついてくる。
私は慌てて手を突き出して、距離を取る。
「……離れてください」
陽葵がにこにこしながら、私のスカートを軽く触る。
「涼香先輩の私服、めっちゃ可愛い!」
「……ありがとう、とは言いたくないです」
みゆき先輩が穏やかに微笑む。
「来てくれて、ありがとう。本当に助かるわ」
私はため息をついて、本題を切り出す。
「……で、何の用ですか。緊急事態って」
陽菜が目を輝かせて説明を始めた。
「今日はね、新しい実験に必要な材料を買いに来たの!特殊な樹脂とか、電子部品とか、薬品原料とか……結構重いし、量も多いから、三人じゃ持てないんだよね。だから、涼香ちゃんの力が必要で!」
「……荷物持ちですか」
「うん!でも、ただの荷物持ちじゃないよ!涼香ちゃんの意見も聞きたいし、一緒に選ぶのも楽しいじゃん!」
陽菜は私の手を握って、モールの中へ引っ張っていく。
陽葵とみゆき先輩も後ろからついてくる。
「じゃあ、まずは電子部品コーナーから!」
陽菜が先頭を切って歩き出す。
私は仕方なく後を追う。
でも、そう簡単に目当ての場所にはたどり着かない。
陽菜は途中で、キモい見た目のぬいぐるみを発見して、「これ、絶対必要!」と叫びながら、売り場に突っ込んで行った。
陽葵はペットショップの前を通りかかると、「わあ、ハムスター!」と目を輝かせて、店内に消えた。
みゆき先輩は眼鏡売り場の前で足を止めて、「新しい眼鏡、見てみようかしら……」と、静かに店内へ入っていった。
あっという間に、三人ともバラバラに散ってしまった。
私は一人、モールの通路の真ん中で立ち尽くす。
「……はあ」
深いため息が出た。
周りは家族連れやカップルで賑わっているのに、私はただ一人、取り残されたような気分。
(……なんで、こんなことに付き合ってるんだろう)
陽菜の必死なメッセージを思い出して、胸が少し痛む。
でも、今は誰もいない。私はベンチに腰を下ろして、スマホを取り出した。
メッセージを送ろうかと思ったが、やめた。
(……勝手に散らばったのは、あっちのせいだ)
周りの喧騒が、耳に遠く響く。
子供の笑い声。
カップルの甘い会話。
店員の呼び込み。
全部が、なんだか他人事のように感じる。
私は膝の上に手を置いて、ぼんやりと噴水を見つめた。
水しぶきがキラキラ光って、虹がかかっている。
(……綺麗)
そんなことを考えていると、少しだけ心が落ち着いた。
でも、すぐに陽菜の笑顔が浮かぶ。
「涼香ちゃんがいないと無理なの」
あの言葉が、胸の奥で温かく疼く。
(……最悪)
私は立ち上がって、三人を探し始めた。
まずは陽菜のいると思われる電子部品コーナーへ。
陽菜はすでにグローブをカゴに入れて、次は小型モーターを物色中だった。
「あ、涼香ちゃん!見て見て、これ超小型で出力すごいんだよ!」
「……勝手にいなくなったのは誰ですか」
陽菜は悪びれもせずに笑う。
「ごめんごめん!でも、涼香ちゃんが探しに来てくれて、ほんとに嬉しい!一緒に選ぼうよ!」
私はため息をつきながら、陽菜の隣に立つ。
次にペットショップへ。
陽葵はハムスターのケージの前で、目を輝かせていた。
「涼香先輩!見て、この子!ふわふわでしょ!飼いたい……」
「……実験材料を買いに来たんですよね?」
陽葵はぷくっと頰を膨らませる。
「でも、ちょっと休憩!可愛いもの見ると、癒されるもん!」
私は陽葵の頭を軽く叩く。
「……早く戻りましょう」
最後に眼鏡売り場。
みゆき先輩は新しいフ眼鏡を試着していて、私を見つけると、穏やかに微笑んだ。
「霧島さん。待たせてごめんなさいね。この眼鏡、どうかしら?」
「……似合いますよ」
みゆき先輩は少し照れくさそうに笑う。
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、嬉しいわ」
三人が少しずつ集まってきて、ようやく元の噴水前に戻った。
陽菜がカゴを掲げて、宣言する。
「よし!これで全部揃った!涼香ちゃん、ありがとう!荷物、一緒に持って帰ろう!」
私は重い袋を二つ受け取り、ため息をつく。
「……次は、ちゃんと計画立ててください」
陽菜は私の肩を抱いて、にこにこ笑う。
「うん!約束!でも、今日、涼香ちゃんがいてくれて、ほんとに楽しかったよ」
陽葵が私の手を握る。
「涼香先輩、また一緒に来ようね!」
みゆき先輩が静かに頷く。
「ええ。また、よろしくね」
私は三人を見回して、小さく呟いた。
「……面倒くさい」
でも、口元が、ほんの少しだけ緩んでいることに、自分でも気づいていた。
ショッピングモールの出口に向かって、四人で歩き出す。
夕陽がガラス越しに差し込んで、みんなの影を長く伸ばしている。
私は重い荷物を抱えながら、心の中で思う。
(……また、巻き込まれてる)
でも、どこかで、この時間が、嫌いじゃない自分がいることも、分かっていた。




