その1 ヒーロー擬きにヒロインは居ない
★宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ!
第一話『少年A・犬丸=スプリングフィールドは人間に非ず』
その1 ヒーロー擬きにヒロインは居ない
◆
――色々すっ飛ばして割愛して自己紹介すると、おれは人間じゃない。
だけどいいことをしていれば、いつか。
優しく生きれたなら、正しく生きれたなら。
その時、おれは初めて人間になれる。
ずっとそう信じて、おれは人間じゃないまま生きていた。
――だからこれはきっとおれが、初めて自分の生きる意味の、その一端を見付けた時の話。
おれが初めて、きらきらとした『夢』を抱いた時の話。
おれが自分の意思で初めて、人間になりたいんだと強く思った時の話。
おれ――犬丸=スプリングフィールドの、本当の始まりの話。
◆
おれの故郷の星は、宇宙でも辺境の田舎と言ってもいいくらいの地味な星だった。
そんなちっぽけな星でもある時、軍事惑星にターゲットとして突然ロックオンされてしまった。
おれがまだ、6歳くらいの頃の話だった。
何でも当時の星長――その星のリーダーを務めていた穏やかなじいちゃんが、実は遥か昔は軍事惑星のエリート軍人だったそうで。
今でもその軍事惑星の機密事項を握っているんじゃないのか、その情報を厄介な勢力に売り払うんじゃないのか、とあらぬ疑いをかけられて。
平和ボケしていたおれたち星民が敵うはずもなく――というか、そもそも当時のおれは今よりとんでもなくガキで、弱っちくて、戦力になるどころじゃなかったんだけど。
まあとにかく。
為す術もなくあっという間に武力制圧されたおれの大事な故郷。
食糧事情も、政治的な発言権も、他惑星との交易における利益も、全部全部、その軍事惑星に横取りされてしまったんだ。
今思うとあれは、植民地、のような扱いだったのだろうか。
あの頃、おれたちはギリギリのどん底の生活で日々を凌ぐことしかできなくて。
飢えとか、軍事惑星から命じられた重労働への疲労感とか、その他諸々のせいで、おれたちは毎日ボロボロになっていって。
だから、何とかしなきゃいけないと思った。
おれはまだ全然ガキだったけど、ケンカだって弱っちかったけど、それでもこのまま放っておくのはだめだと思った。
一発だけでいい。
我が物顔で、おれたちの大事な故郷を闊歩する、あのむかつく軍人に一発お見舞いできれば。
そんなちっぽけで浅い、何の解決策にもなっていない、子どもじみた怒りのまま闘志を燃やして。
何もかもちっぽけなおれが、でっかい愚行をいざ実行に移そうと、拳を振り上げたその瞬間。
――ヒーローが現れたんだ。
ロボットに乗ったヒーローが。
それ、を見た時。
宇宙から見たらちっぽけな、例えば『少年A』でしかないおれの、全てが変わった。
軍事惑星とは別の、赤と黒を基調とした軍服らしき服装を纏った集団。
彼らはそれぞれが、5m級くらいの巨大ロボットに乗り込んでいた。
ロボットたちは、それらに搭乗していたパイロットたちは、突然の新勢力の登場に困惑する軍事惑星勢力を威嚇して、歯向かおうとした軍人たちを、そのロボットの拳やら装備品やらでボコボコにして。
圧倒的な、強さだった。
赤ん坊の手を捻るかのような、力の差が歴然としていた戦いだった。
すっかり怯え切った軍事惑星はおれの故郷から退散し、二度とこの星にちょっかいをかけないという誓約書まで書かされるに至って――あっさりと、平和が訪れた。
――【宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ】。
宇宙の平和を守る為なら何でもござれ。
ほぼ何でも屋稼業を生業とした、神出鬼没の、戦闘用ロボットを用いて戦う正義の組織。
それが、おれたちの平和を守ってくれた人たちの正体だった。
あの日おれは、生まれて初めて他人にまともに助けられたんだ。
あんまりにも簡単に事態が解決したことに、おれだけが戸惑っていると。
一人のお兄さんに、ぼす、と頭をくしゃくしゃに撫でられた。
見上げるとそこには、ちょっと柄の悪そうな雰囲気を纏ったお兄さんが一人。
軍服を少し着崩して、タバコを咥えた、もじゃもじゃの黒髪のお兄さん。
そのひとは、おれの頭をよしよしわしゃわしゃと、わんこを撫でるみたいに撫でていて。
サングラスをかけていた、そのお兄さんの瞳が、一体どんな風におれを映していたのか。
それが何故だか妙に気になった。
「おまえは、頑張ったんじゃねえの。ま、無鉄砲なのは感心しねえけどな」
お兄さんのその言葉が、おれがおれたちの平和を脅かす連中に一矢報いようとしていたことを軽く責めていることは嫌でもわかった。
確かに無謀なことをした、おれ一人じゃ何一つどうともなってなかった。
おれがあいつらを殴ったところで、なにも良いことは起こらなかった。
それでも。
サングラスのお兄さんはあからさまに凹んだおれを見て、おかしそうに笑って。
さっきよりも優しく、ぽんぽんと頭を撫でてくれて。
「おまえは将来イイ男になるよ。絶対。俺が保証する」
……え?
おれが、いい男に?
そんなこと、初めて言われた。
だっておれ、アホだし、ドジだし、女の子にモテないし。
でも、こんなにかっこいいお兄さんに肯定してもらえて、将来に期待してもらえて。
ふつふつと、夢が弾ける音が聴こえた。
お兄さんの、赤と黒の隊服。
胸元に輝く、恐らく組織のロゴが入ったバッジ。
それらに、全てに、憧れて。
いつか。
いつか、おれもあんな風になれたら、かっこよく誰かを助けられたら、誰かを救えたら。
そんなことを考えると、今度は頭の中がふつふつして。
お兄さんの名前すらも、何もかもおれはその時知らなかったけど。
だけどサングラスのお兄さんは、おれにとってのヒーローは、おれの頭から手を離して不敵に笑ったんだ。
それが、かっこよかったんだ。
「――知ってるか? サングラスをかけりゃ、誰でもいつでも、ヒーローになれるんだ」
ああ。
かっこいいな、ヒーロー。
いいな、おれもかっこよくなりたいな。
おれも、誰かを助けたいな、救いたいな。
ちゃんと、他人の為に何かをできる人間になりたいな。
おれも――おれも、今よりもっと大人になったら。
いつか、絶対。
お兄さんが居る、コズブレジェンダーズの一員になれたらいいな。
そうやって、当時6歳のおれは。
ヒーローへの憧れがきっかけで。
何となく停滞させていた退屈な世界から、まずは一歩、夢へと踏み出したんだ。
『少年A』でしかなかったおれは、役を棄てた。
おれが目指すはおれの人生の主役。
劇的な人生の、劇的な主役。
そうして劇的なストーリーを求めて追いかけて走り出して。
現在、主人公志望兼人間志望のおれは、犬丸=スプリングフィールド、16歳は。
――宇宙空間でロボットに乗っていたところを、見事に撃墜されていた。
爆音。衝撃音。
点滅した赤に照らされるコックピットに鳴り響く、警報音。
ゲームオーバー寸前、薄れゆく意識の中。
望んでいない形での『劇的』の中、おれは。
おれはそれでも、生きたかった。
おれが望むおれとして、ただ生きていたかった。
キャスケットの、額に被さるつばの取っ掛かり。
そこにお守り代わりにつけてたゴーグルをずらし、正しい意味で目元に装着する。
おれの世界の終わりが、レンズ越しに見える。
ゴーグル。
サングラスは持ってなかったから、これがおれの、勇気の象徴。
これがおれの、変身アイテム。
こんな時でも、おれが望むおれは。
おれがなりたかったのは。
ピンチの時こそ笑顔で全部をぶっ飛ばす、強く優しいヒーローだった。
――優しく正しい、『人間』だった。
きっとおれはまだ、ヒーロー以前に主人公以前に、人間オーディションの真っ只中に居て。
だけどまだ、ステージに立っている。
まだライトは、消えてない。
まだ、おれは諦めてない。




