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護衛の人

勇者の剣を模したお土産を置いているお店を出た後、僕はまっすぐ宿に戻った。

帰りを伝えつつ食事をお願いして部屋に入る。

今日一日はほぼ馬車に揺られていただけなのだがちゃんと疲労感がある。

これについてはいつも不思議に思う。ちゃんと調べたら座ったまま運動できる器具でも作れるのではないだろうか?


ほどなくして晩御飯がやってきた。

野菜中心の質素寄りなものではあったが、デザートやお茶は良いものだった。こういうのは好きな方ではあるのだが、お金を出してまで飲み食いしようとはなかなか思えなかったりする。

給料も悪くないところに勤めているのだからたまには食べればいいのに。


お湯をもらって体を拭き、寝間着に着替えて横になる。

さきほど話をさせてもらったあのお店を思い出す。


勇者の存在が薄れていっている。

もう10年経っているのだ。常識的に考えて当然である。

毎年、世界平和が告げられた日を記念日として色んな都市や村でお祝いがされている。

その時は勇者の話が出たり、勇者をモチーフにした何かが作られたりするのだが、なんというか、勇者と記念日の立場が逆転している。イベントを成立させるために勇者が使われている、そんな感じだ。


思うところはある。

でも、僕のように直接救われた人なんて実はあまりいない。

人によっては、勇者とはもはや概念か何かに近いかもしれない。

あの店主にしたって、あの時の子供がこんな立派になって、くらいの感覚だろう。


…あぁ、僕が勇者にまつわる話を追っているのはこういうところにも理由があったのか。

周りから勇者が薄れていって、いつの間にか僕からも抜けて消えていくのが怖かったのか。

勇者を崇拝すると同時に、勇者を崇拝したいのが僕なのか。


僕は今まで事実だけを求めていた。

もしかしたら、この旅はいつもとは異なるものになるかもしれない。




朝が来た。

いつの間にか寝ていたようで、カーテンを閉めていなかった窓から朝日が差し込んでいた。

時間的に朝食にはまだ早い。かといって二度寝するには眠気が足りない。早寝ですっきりとした目覚めだった。

また馬車に揺られることを考えると、ここは少しでも体を動かしておいた方がいいと判断して僕は外に出た。


村の人口に対して出歩いている人の数が多いような気がした。

都市の人たちと比べるに足取りが軽やかに見える。仕事の半分を室内で行う僕よりはあきらかに体力がありそうだ。

主に飲食店がすでに開店していて、朝ごはんや昼ごはんを販売している。


迷わず宿屋に戻れるようにただまっすぐ歩いていると、何もない広場があった。

芝生のようになっていて石などが転がっていないあたり、子供が遊べるように整備された場所なのかもしれない。

そこに、一人剣を振っている男性がいた。

道なりに近づいていくと、馬車の護衛をやっている人だった。


素人目に見ても鍛錬を重ねた人のそれだと思った。

突きがメインの地味な動きが多いけど、きっと実戦ではあれが一番有効なのだろう。

剣のスピードが一番乗ったところに相手がいないと骨はおろか筋肉で止まってしまうと聞いたことがある。そこから剣を引ければ切れるが、実戦や乱戦となるとそこまで余裕があるのかわからない。

経験の浅い兵士には槍を持たせるらしい。たぶんもっといろいろ理由があるはずだ。


歩く速度を遅くして眺めていると、向こうも僕に気が付いた。


「新聞屋の人か、朝早いね。習慣?」


まだ距離があるのにはっきりと聞こえる大きな声だった。

戦える人は肺活量もすごい。


軽く挨拶をして通り過ぎようと思ったが、昨日決めたことを思い出す。

勇者の自殺について取材していく。

あの男性の年齢的におそらくなんらかの戦いには参加していた可能性が高い。

もしかしたら、何か話が聞けるかもしれない。


僕が近づいていくと、男性は再開しようとしていた鍛錬を中断した。


「いえ、早寝してしまった分早起きしてしまっただけです。

あなたこそ、こうして朝剣を振るのは習慣なのですか?」


「まぁな、一時期やめてみたこともあったけど、その日の調子がわからないと気持ち悪くてな。準備体操みたいなもんだ」


少し苦手なタイプだが、さわやかな笑顔が印象的だった。

仕事中もこっちの方がマシな気がしたが、もっと丁寧にと注意されているかもと想像した。


「すごく剣を振りなれていますね。護衛の仕事は長いのですか?」


「そうだな。傭兵をやめて割とすぐ始めたから7年以上はやっているかもな」


「もしかして、勇者と戦ったことがあったり?」


男性が少しだけ得意げな顔をした。


「同じ部隊でってことは無かったが、直に見たことはあるよ」


その言葉に思わず前のめりになってしまう。

勇者関連のことを色々と仕事で聞いたことがあるけれど、戦いの最中で出会った人の話はまだ聞けていなかった。


「ほ、本当ですか!?」


男性は少し驚いて眉をひそめた。

ついやってしまったと心の中で反省したが、後に引くのも違うと思いそのままいくことにする。


「あ、あぁ。といっても話したことは無いぞ。勇者からしたら俺はその他大勢だっただろうし」


それでも十分である。

やさしく眩しい人柄だったと聞いている勇者。そんな人が戦いの中ではどうだったのか?

僕の興味はどんどん膨らんでいく。

まさか、こんな所で聞けるとは思わなかった。


「…おっと、そろそろ戻って馬車の支度をしないと」


男性が急に太陽を見ながらそう言って、そそくさと宿の方へ戻ろうとする。


「えっ?」


「悪いな、別に機会があったら話してやるよ」


話すのが嫌だったという感じではなかったが、男性はさっさと行ってしまった。

もやもやする。仕事柄話をさせてもらえない経験をそれなりにしてきたつもりだったが、これはちょっと堪えた。


あと2日。どこかで聞けるだろうか?

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