勇者のその後
かつて勇者と共に旅をしたことがあるジェミさん。
嵐のような人であった。言いたいことだけ言って去っていったという点では悪い意味が目立つ。
勇者はなぜ一時的にでも一緒にいたのか?と思ってしまったが、あのような人はなかなかいないので、もしかしたらそこが気に入っていたのかもしれない。
基本一人でいるらしいのに、聞いた話だけで僕の人間像をあれだけ想像できるのは素直に才能だと思う。
答え合わせはせずに自己完結させてしまうのがもったいない。
まぁ、孤独を好んでいる人には不要な能力ではあるのだが。
ジェミさんの想像が当たっているのか。それは僕自身でもわからない。
…。
……。
………。
両親はキューマ人であることにとても誇りを思っていた。
信仰も深く、離れて暮らしているのにちゃんと聖地には家族で通っていた。
だから、両親は勇者をひどく憎悪した。
そこで企てた計画が、タサン病の原因である瘴気を無差別にまき散らすこと。
そんなことができたのかどうかはもう知る由もないが、それを実行しようとしていた両親を僕はすごく軽蔑していた。
聖地から離れて暮らし、タージュ人の友達もいた僕にとって、両親の信仰は人生の邪魔でしかなかった。
なぜ僕は、キューマ人だからという理由で自由に生きられない?
なぜ両親は、キューマ人だからという理由で無差別な殺戮をしようとしていた?
その結果、計画がバレた両親たちは勇者と戦い死んだ。
そして、監禁されていた僕は勇者に救われた。
両親は殺戮者にならずに済んだ。これは、救われたと言っていい。
清らかな心でお墓を作ってあげることもできたし、こうして都市に働きに出ることもできている。
家族のことを話すことはあっても、こうやって家族のことを思い出すのは久しぶりだった。
信仰を守るために人を殺そうとした両親と、妹を助けるために信仰を壊そうとした勇者。
人によるだろうけど、僕にとっては勇者がやはり正義だ。
すべては妹のためだったのは衝撃の事実であったけれど、とても理解できるし、その行いが世界平和に繋がっているのだからいいじゃないか。
犠牲になった人達もいる。もちろんそれはわかっている。
でも、それで救われた命もいっぱいある。
なにより、僕らが救われている。理由はそれで十分なはずだ。
一年前に聞いた、タリサージさんの話の中にこんなものもあった。
理由を教えてはくれなかったが、タサン病がなくなった今マズー霊石も無い方がいい。
その考えに至った勇者は、マズー霊石に生気を与え続けて急速に老化させていた。
それを黙認していた数人が、勇者の死を予見してあの日集まっていた。
たぶんだけど、カプーリさんに連絡をしたのはジェミさんだ。
あの人は唯一すべてを知っていた上で、勇者の死を隠す気が無かったのだろう。
ひょっとしたら、勇者に自分の手で息を引き取る手段を提案したのも…。
例えば、自分の死を隠されることへの抵抗として、とか。
もう知る術は無い。ジェミさんにはもう二度と会うことはないだろう。
………。
……。
…。
ジェミさんは、僕が自殺を漏らしたのはわざとじゃないかと言っていた。
どうだろう?自分でもよくわからない。
もちろんそんなつもりはなかった。
なのに、はっきりと否定する気持ちになれないのはなぜだろう?
新聞屋から聞かされる勇者の話。
キューマ人から聞かされる勇者の話。
勇者を信仰している僕から聞かされる勇者の話。
あの旅の中で話をした人たちに限らず、勇者に関する取材を受けてくれた人達はみな態度が少しおかしかった。
みんな、勇者を肯定しつつ、でも、どこかで言葉を選んでいた。
僕は、その壁を取り払いたかったのか?
勇者の自殺という衝動にかられて、僕は僕自身を制御できず、みんなの本音を聞きたかったのか?
キューマ人であることを隠すように巻いたターバンは、なにも意味をなしていなかった。
勇者のおかげで世界は平和になった。タサン病がなくなった。
大きな戦いを呼んでしまったが、最終的には今までのわだかまりを解消するきっかけにもなった。
両親は大罪を犯さずに済んだ。僕は地下から出ることができた。
素晴らしいじゃないか。だから僕は勇者を崇拝する。
崇拝するに値する。
崇拝しなければならない。
自殺してしまったのなら、それがなんであっても受け入れなければならない。
でなければ僕は…。
あの計画を外に密告して、地下に監禁されてしまった僕は…。
隠されていた真実も、崇拝するには十分なものであった。
長い時が経ち、勇者もついに死んでしまった。
今以上に、勇者は人々の中から消えていくだろう。
それはもういい。あの旅でそれはしかたないことであり、そして、重要ではないことがよくわかった。
だから真実を記事にすることはしなかった。
もう、勇者の崇拝を外に見せる必要は無い。
勇者一行以外で、真実を知っているのは僕しかいない。
その特別が、僕の中で勇者をたしかな存在へと形作っていく。
あれからずっと僕は満たされている。
あの時の僕を、勇者が肯定してくれている。




